元素

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元素(げんそ、element)とは化学物質を構成する基礎的な成分(要素)である。

目次

概説

古代ギリシャ時代にはstoikeiaと言った。もともと字母を意味していたstoicheionという言葉を、根源的な物質の名として用い、重要概念としたのはプラトンであった。 中世ヨーロッパではラテン語でelementumと呼んだ。elementumは13世紀には「世の中の根元をなす物」といった、元素とほぼ同義で用いられていた。elementumの由来は、諸説あるがはっきりとしていない。それが後世に英語でelement(エレメント)と呼ばれることになった。

元素の概念はいわゆる西洋や東洋でも見られた。 西洋での元素の概念を概念史的に見ると大きく分けて三つの相がある。(1) 古代ギリシャと中世ヨーロッパ 、(2)ヨーロッパのルネサンスから18世紀まで、(3)ラヴォワジエ、ドルトン、メンデレーエフなど以降の近代科学となる。

古代ギリシャでは万物のアルケー、つまり根源は何かということを考える人がいて、アルケーは水だ、空気だ、火だ、土だとしたり、地上世界は四大元素でできていると考え、それに対して天界はエーテルでできていると考えたりした。ルネサンスのヨーロッパになると塩、硫黄、水銀を三原質という説も登場し、その説と古代ギリシャ以来の四大元素説が混交した五大元素説が採用された。

17世紀にボイルによって化学の粒子論的な再解釈が行なわれたものの、他の化学者にとっては何ら影響力が無かった。化学者に広く近代風の元素説が受け入れられるのは、ラヴォワジエの化学体系やドルトンの化学的な原子論やメンデレーエフによる周期律表が登場してからのことである。

まず歴史を辿り、次に現代の元素概念を詳しく見てみよう。

歴史

元素の歴史は万物の性質の根源を探究する歴史であり、古代の哲学者らは様々な物性が少数の基本的性質の混合により多様性を発現していると考察した。デモクリトスの説を別にすれば、原子や分子など物質の構造に関する探究はそれらよりも遅れて近世以降に発生・発展してきた。

古代ギリシア

元素という言葉は後年に作られた為、ギリシア時代には存在しないが、ギリシャ哲学では万物の変化・流転は一大命題として扱われ、多くの哲学者により万物の構成要素として元素の概念が論ぜられた。

タレスは万物の根源にアルケーという呼名を与えであるとした。その他、空気であると考えた人、であると考えた人、だと考えた人がおり、それぞれがアルケーであるという立場を採った。エンペドクレスはアルケーが、火・空気(とも)・水・土の4つのリゾーマタからなるとする後世にいう四元素説を唱えた。プラトンはこれに階層的な概念を導入し、土が正六面体でもっとも重く、他のリゾーマタは三角形からなる正多面体で、火が最も軽いリゾーマタであり、これら四大元素はそれぞれの重さに応じて運動し互いに入り混じると考えた。なおプラトンの作かどうか疑問視されている著書では、4つのリゾーマタに加え、天の上層を構成するとしてアイテールが導入されている。紀元前350年ごろ、アリストテレスは四元素説を継承した上で、4つのリゾーマタは相互に変換できるものと考え、また天上にのみ存在するアイテールを4つのリゾーマタの上位リゾーマタとして立てた。アイテルを語源とするアイテールは、のちの自然学における第五元素ラテン語のquinta essentia。なお英語の quintessence (「真髄」 の意)の語源でもある)とされ、宇宙を満たす媒質エーテルの構想へとつながっていく。アリストテレスと同時代のデモクリトスは、無から発生し、再び消滅する究極微粒子(アトム)から万物が構築され、その構造的変化が物性の変化となると論じたが、彼のアトム論は発展を見ることは無く、ヨーロッパにおいては四元素説がスコラ哲学へと継承されてゆくことになる<ref>『世界大百科事典』、CD-ROM版、平凡社</ref>。

ルネサンスから18世紀

錬金術が行なわれていた時代であった。パラケルススが扱っていた三原質(塩、硫黄、水銀)というのは形相的なものも含んでいたので必ずしも物質を指さなかったが、化学的な現象の説明には重宝された。17世紀-18世紀初頭には、錬金術師たちは三原質説と四元素説が混交した五元素説を採用していた。これは硫黄水銀を元素とするものである。だが同時代にヘルモントは水一元素説を唱えていたので、人々の元素への見方が一致していたわけではない。

古代インド

古代インドの哲学者・思想家アジタ・ケーサカムバリンパーリ語読みの人名。仏典の中に仏教より劣る思想家・哲学者として紹介されているものとしてしか名前が残っていないので正確な言い方・発音は不明)は「『存在』を構成するものは、地・水・火・風の四大であり、この四大以外にはない」という論を主張した。また、パクダ・カッチャーヤナは「人間のからだは・水・火・風・霊魂の7つから構成されている」、マッカリ・ゴーサーラは「生きているものは、地・水・火・風・苦・楽・霊魂・虚空の12の要素から構成される」と主張した。

古代中国

世の中は「」と「」(つまり「」と「」)から成り立っていて(陰陽思想)、更に「木」「火」「土」「金」「水」の5要素(五行)に分かれていると考えた(陰陽五行説)。インド哲学の諸論争や古代中国陰陽五行説をみてわかる通り「物質を構成する基本的な成分がある」、という考え方は「『世界』というものに対する人間の一つの哲学的・思想的・宗教的態度」でもある(西洋科学の実験の積み重ねを否定するものではない。ようするに実験の積み重ねが不十分な時点での西洋科学の「元素」説は「事実」より「哲学」や「思想」、「世界論・宇宙論・世界観」に近いと言う事)。

密教

古代インドから伝わった仏教密教でも万物の構成要素として、四大(「地」・「水」・「火」・「風」)、五大(マウアラカキヤ)は四大に「(くう)」が加えられ、六大は五大に「」が加わる。

近世

元素発見の推移

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現在

[[ファイル:Periodic table.svg|thumb|450px|周期表]] 約118種類の元素が知られている。 Template:See

現在の元素と原子の違い

原子は構造的な概念であるのに対して、元素は特性の違いを示す概念である。

例として酸素窒素を用いて説明すると、酸素窒素とはいずれも原子核電子とが形成する構造である原子から成り立っている。一方、等しく原子核と電子とから構成されるもののその性質は異なることから酸素と窒素とは異なる元素として識別される。

元素は原子の種類を表すがそれは原子核の違い、すなわち核種の違いのうち陽子の数の違いによる分類である。原子核を構成する陽子および中性子の総数により質量数が異なり、陽子の数により原子番号が異なる。したがって、原子番号が1の軽水素原子、重水素原子、三重水素原子はいずれも同じ元素である水素に属するが質量数が異なる同位体と呼ばれるグループを形成する。

分かりやすく言うと、元素は周期表の枠である。各枠には原子番号に対応する元素が一つずつあてはめられていて、安定な同位体の存在確率に基づく原子量が記載されている。安定な核種がない場合には代表的な核種の質量数が記載されている。すなわち、周期表は『元素の周期表』であって、決して原子の周期表や単体の周期表ではない。


表記

元素を表すには元素記号が使われる。これは原子を表すためにも使われる。例えば、を構成する元素は酸素Oと水素Hである。

元素の性質は最外殻電子(価電子)に大きく影響される為、同様な性質を持つ元素は元素の族(元素群)は周期表においても、族(周期表の列)や系列として纏められている。

有機化学においては、水素炭素以外の元素をヘテロ元素ヘテロ原子)と呼ぶ。水素と炭素とが特別に扱われるのは、炭素は任意の長さに鎖構造を伸ばすことが出来、任意の場所で分岐や環構造を形成することも可能な性質を持つので、有機化合物炭化水素を分子構造の基本骨格として扱う為である。

日本語表記

thumb|200px|様々な元素と日本語表記 元素名の日本語表記については学術用語集化学編に定められている。原則としてIUPAC名を「化合物名日本語表記の原則」の「化合物名の字訳標準表」の規則に従いアルファベットの綴り字を機械的にカタカナと置き換えて日本語化する(訳字)。それ故、必ずしも発音に忠実なカタカナ表記にはならない。また、学術用語集の初版制定時にすでに日本語化しているものと、すでに英語以外の言語を基に訳字された用語はそのまま固定するように定めたので、英語以外の言語を語源とする日本語表記も存在する。次に示す。なお、日本語表記されている元素の中にはフッ素(弗素)などのように漢字表記はあるものの、使用している漢字が当用漢字(現在の常用漢字)に含まれていなかったために学術用語上ではカタカナ表記にしているものもある。

  • 水素 - すでに日本語化、Hydrogen (英語、IUPAC名)
  • ホウ素 - すでに日本語化、Boron (英語、IUPAC名)
  • 炭素 - すでに日本語化、Carbon (英語、IUPAC名)
  • 窒素 - すでに日本語化、Nitrogen(英語、IUPAC名)
  • 酸素 - すでに日本語化、Oxygen(英語、IUPAC名)
  • フッ素 - すでに日本語化、Fluorine(英語、IUPAC名)
  • ケイ素 - すでに日本語化、Sillicon(英語、IUPAC名)
  • リン - すでに日本語化、Phosphorus(英語、IUPAC名)
  • 硫黄 -すでに日本語化、 Sulfur(英語、IUPAC名)
  • 塩素 - すでに日本語化、Chlorine(英語、IUPAC名)
  • ナトリウム - Natrium(ドイツ語), Sodium(英語、IUPAC名)
  • カリウム - Kalium(ドイツ語), Potassium(英語、IUPAC名)
  • チタン - Titan(ドイツ語), Titanium(英語、IUPAC名)
  • クロム - Chrom(ドイツ語), Chromium(英語、IUPAC名)
  • マンガン - Mangan(ドイツ語), Manganese(英語、IUPAC名)
  • - すでに日本語化、Iron(英語、IUPAC名)
  • - すでに日本語化、Copper(英語、IUPAC名)
  • 亜鉛 - すでに日本語化、Zinc(英語、IUPAC名)
  • ヒ素 - すでに日本語化、Arsenic(英語、IUPAC名)
  • セレン - Selen(ドイツ語), Selenium(英語、IUPAC名)
  • 臭素 - すでに日本語化、Bromine(英語、IUPAC名)
  • ニオブ - Niob(ドイツ語), Niobium(英語、IUPAC名)
  • モリブデン - Molybdän(ドイツ語)、Molybdenum(英語、IUPAC名)
  • - すでに日本語化、Silver(英語、IUPAC名)
  • スズ - すでに日本語化、 Tin(英語、IUPAC名)
  • アンチモン - Antimon(ドイツ語)、Antimony(英語、IUPAC名)
  • テルル - Tellur(ドイツ語)、Tellurium(英語、IUPAC名)
  • ヨウ素 - すでに日本語化、Iodine(英語、IUPAC名)
  • ランタン - Lanthan(ドイツ語)、Lanthanum(英語、IUPAC名)
  • プラセオジム - Praseodym(ドイツ語)、Praseodymium(英語、IUPAC名)
  • ネオジム - Neodym(ドイツ語)、Neodymium(英語、IUPAC名)
  • タンタル - Tantal(ドイツ語)、Tantalum(英語、IUPAC名)
  • 白金 - すでに日本語化、Platinum(英語、IUPAC名)
  • - すでに日本語化、Gold(英語、IUPAC名)
  • 水銀 - すでに日本語化、Mercury(英語、IUPAC名)
  • - 元来日本語、Lead(英語、IUPAC名)
  • ウラン - Uran(ドイツ語), Uranium(英語、IUPAC名)

元素の分布・存在比

元素の分布には偏りがあり、その存在比は範囲によって大きく異なる。

地球での元素の分布・存在比

地球化学においては、地殻を構成する主たる元素を主要元素(しゅようげんそ)、それ以外の元素を微量元素と呼ぶ。古典的な研究成果としてクラーク数が広く知られているが、最近の研究ではクラーク以外の研究成果が利用される場合が多い。

比較的比重が小さい化合物を形成する元素は地殻あるいは大気圏水圏に分布する。地球の内部では岩石成分(ケイ酸塩)を主とするマントルを主成分とする核とから構成されるので比重の大きい元素は地球内部に多く含まれると推定されている。地球内部ではマントル対流が存在する為、核付近の成分の一部は対流作用により地殻付近まで輸送されるので、中心核付近に多い元素では、全体のごく一部は火山噴出物や鉱脈として地表付近にも分布することになる。

宇宙での元素の存在比

Template:Main 宇宙の元素の存在量とその比率は、宇宙論により推定され、天文学的観測により裏付られている。ビッグバンで始まった原初の宇宙で生成されたのは、ほとんど水素ヘリウムだけであった。それ以外の元素のうち、鉄までの軽い元素は恒星が輝く際の核融合で生成され、鉄より重い元素は主に超新星爆発の際に生成された。

元素変換

超重元素の場合には、原子核が不安定であり自己崩壊して安定な元素に変化する。また核反応、核融合などにより変換が起こることが知られている。

元素鉱物

鉱物学において、単一の元素あるいは合金からなる鉱物のことを元素鉱物(げんそこうぶつ、elemental mineral)という。元素名と区別するため、「自然」(native)を付けて自然金(native gold)、自然蒼鉛(native bismuth)などと呼ぶ。

脚注

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関連項目

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参考文献

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外部リンク

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