転調

出典: Wikipedio


転調(てんちょう)

  • 音楽において、曲中で調を変えること。本項で詳述。
  • 言語学において、音節の結合により声調が変化すること。台湾語に見られる。

転調(てんちょう)とは曲中で音楽の調を変える事をいう。

古典派音楽の時代には、近親調属調下属調平行調、属調平行調、下属調平行調、同主調)への転調が主であったが、ロマン派音楽の時代には、複雑で大胆なかつ頻繁な転調が多くなり、それぞれの調を認識することが次第に困難になっていったことが、現代音楽に至って調性が崩壊する一因ともなった。

目次

転調の方法

転調のためには、新しい調への移行と、新しい調の確立が必要である。

新しい調への移行には、古くは前後の調に共通の和音を用い、新しい調でその和音を読み替える、ということが行われた。たとえば、ハ長調からト長調への移調では、ハ長調のVの和音はト長調のIの和音であるから、ハ長調のVを鳴らして、それをト長調のIと読み替えるのである。

次に、第1の調の和音の構成音のひとつと、第2の和音の構成音のひとつが、増1度関係にあるような和音を続けて鳴らす、ということが行われた。たとえば、ハ長調のIV度(ヘ=Fを持つ)の次にト長調のV(嬰へ=F♯を持つ)を並べるのである。

しかし、時代をくだるに従って、これらを省略して、新しい調のV7の和音に直接はいるという方法もとられるようになっていった。

新しい調の確立には、最低限、前の調で使われない音が必要である。たとえばハ長調からト長調への移調では、ハ長調では用いられないがト長調で用いられる嬰へ(Fシャープ)の音である。前述の新しい調のV7の和音に直接はいる方法を用いれば、同主調からの転調でなければ、必ず前の調に含まれない音がひとつは含まれるので(同主調は、V7が同じである)、それだけで十分である。同主調からの転調では、Iの和音に前の調にない音が含まれる。このように、V7ないしIを鳴らすことで、転調は成立するのである。しかし、より丁寧には、新しい調でT-S-D-T(I-IV-V-Iなど)のカデンツを行うことが求められる。これは、第2の調の和音とされる和音が、第1の調に第2の調の和音のひとつを一時的に借用しただけのもの、または第1の調の和音に一時的に♯や♭を付けたらたまたま第2の調の和音のひとつと一致したというだけのもの(いずれも借用和音と呼ばれる)、という印象を与えないためには重要なことである。

転調の歴史

バロック時代において、マドリガル等の声楽を除いたヴァイオリン中心の器楽曲である組曲ソナタの一舞曲楽章中での最初の転調は長短調ともに属調が最も多かった。これは前時代からの対位法的書法の名残りであり、さらに17世紀半ばまで頻繁に見られた長調曲における二度の和音のピカルディの3度化がダブルドミナントに読み替えられたためであろう。17世紀後半以降、和声的な書法が普及すると徐々に短調曲ではより転調しやすい平行長調への転調が多くなった。ちなみに、18世紀前半までの一舞曲・楽章中での最初の転調として最も多かったのが属調であり、次に短調曲では平行長調、また、技巧的なものとしてそれ以外の近親調(同主調は除く)への転調も書かれたが、下属調たる四度上の(短調曲では七度上の調も)転調は進行感が薄いために曲の最後部でのみ書かれた。そして、組曲・ソナタの緩徐な舞曲・楽章では他の舞曲・楽章とは異なる調性で書かれることが多く、フランスの組曲では同主調転調、イタリアのソナタでは平行調転調が多かった。しかし、例外も若干あったことは認めなければならない。これは留学経験者や外国へ帰化した人物で顕著である。また、ソナタにおいて17世紀末までの短調曲は緩徐楽章でも転調しないのが一般的であった。これはまだ長調・短調・音階の概念が体系化されていなかったため平行調転調という概念そのものがなかったためと考えられる。つまり、長調曲では六度上の転調で冒頭及び急速楽章で使われていた長三和音と短三和音の関係(バロック的な明暗の美)を逆に出来るが(結果的に平行調転調)短調曲ではそれが成立しないので転調はしなかったと考えられる。長調・短調・音階の概念が体系化されてきた18世紀になると短調曲でも六度上の転調も徐々に増えてきた。ちなみに、フランスの組曲で書かれた調性はハ・ト・ニ・イ・ホ・ヘの各長短調であり、イタリアのソナタで書かれた調性は長調は変ロ変ホ、短調は嬰ヘ・(嬰ハ)・であった。使うことが出来た調性はヴァイオリン調弦鍵盤楽器古典調律との関係が深い。 古典派時代になると、ソナタ形式の発達に伴い、楽章中での最初の転調は長調曲では属調、短調曲では平行長調への転調に限られた。これは主題と副次主題の構造を聴衆が把握しやすいよう配慮がなされたためと考えられる。そして、イタリア、ドイツ周辺国では緩徐楽章は長調偏愛主義的になり、冒頭楽章の簡潔な曲では属調転調が多く、規模が大きい曲にあっては下属調転調が多かった。つまり、先にも述べたように楽章中での最初の転調で下属調を使うことがなかったので下属調は使用頻度が薄く耳休め的な効果があるとして18世紀後半以降、多く書かれた。しかし、フランス音楽ではイタリア音楽の影響を受けてソナタ形式で書かれたものの、相変わらず緩徐楽章ではフランス的な同主調転調が目立った。総じて古典派時代は楽章内での転調は展開部では近親調(同主調も含む)が基本であった。楽曲で書かれた調性は長調はハ・ト・ニ・イ・ヘ・変ロ・変ホで短調はイ・ニ・ト・ハであった。ソナタ形式の発達によって属和音や副次主題の響きの悪い調の使用を避けたのである。もちろん、鍵盤奏者とヴァイオリン奏者の調の響きの捉え方の違いもあるので若干の違いがあることも認めなくてはならない。特にホ調の場合が顕著で、ヴァイオリン奏者である作曲家の場合、書かれることがある。

邦楽の転調

近世邦楽の楽曲では、転調が頻繁に行なわれる。地歌などの三味線音楽では、属調、下属調への転調が非常に多いがまれに特殊な転調も使われている。また長唄義太夫節では同主調への転調も見られる。箏曲にも幕末以降それらに加え、平行調、同主調への転調も見られる。また曲中における大規模な転調の場合には楽器の調弦を変えて対応することが多く、大曲では二回以上調弦変えをすることが普通である。

転調の傾向

日本のポップス曲で見られる転調は、以下の方法を採る傾向が多い。

  • キーを1個(=半音分)もしくは2個(=半音2個分)上げるもの(例:イ長調→変ロ長調、ヘ長調→ト長調)
  • 同主調同士で移るもの(例:嬰ヘ短調→嬰ヘ長調)
  • 短3度(半音3個分)ずらして移るもの(例:ハ長調⇔変ホ長調)

関連項目

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