福祉
出典: Wikipedio
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福祉(ふくし)とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉で、広義で「公共の福祉」などと使われる。
- 社会福祉(social-welfare)は、未成年者、高齢者や障害者で生活上なんらかの支援や介助を必要とする人、経済的困窮者・ホームレスなどに対し、生活の質を維持・向上させるためのサービスを社会的に提供すること、あるいはそのための制度や設備を整備することを指す。
- 狭義には、障害者や母子家庭など社会的ハンディキャップがあると考えられる国民に対して公的な支援を行う制度を指し、児童福祉法、身体障害者福祉法などで規定される社会保障の一分野である。一方、生活保護法などで規定される所得保障制度などは公的扶助と呼ぶ<ref>社会保険庁 『社会保険のテキスト(研修教材)』 - 社会保障のあらまし - 第1節 社会保障の概念</ref>。
- 社会福祉制度とは、社会福祉に関する制度。
- 社会福祉政策とは、政府による、社会福祉サービスの運営や提供に関するプログラム。
目次 |
福祉
言葉の成立
「福」と「祉」は、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する漢字で、「福祉」(welfare, well-being)は広義では「幸福、安寧」や「良く生きること」などを指す。 元々は日本国憲法作成時における、GHQ案の英語原稿翻訳を行う際Social Welfare(社会福祉)の「welfare」に対応する語が存在しないために充てられた言葉である。「社会福祉」が成立するまでは「社会政策」「社会事業」などの用語が使われていた。
社会福祉
社会保障のなかの社会福祉
いわゆる福祉国家政策を展開した国を中心に「社会福祉」については、社会保障と公衆衛生の政策を含んで理解や定義されることが多い。国によっては教育も含む場合がある。日本においても「広義の社会福祉」とした場合、社会保障と公衆衛生の政策を含み、それを「公共の福祉」と説明する場合がある。
ただ、法律や政策上では、狭義の「社会福祉」として、社会保障の一分野として捉えられており、具体的には、福祉六法(後述)やそれに派生、関連した政策を指す。
社会保障(しゃかいほしょう、social security)とは、本来は個人的リスクである、老齢・病気・失業・障害などの生活上の問題について、貧困の予防や生活の安定などのため、社会的に所得移転を行い所得や医療を保障、社会サービスを給付すること、またはその制度を指す。体系としては日本国憲法第25条に記された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」等が根拠である。日本の社会保障制度は社会保障制度審議会(現:経済財政諮問会議・社会保障審議会)の分類によれば、社会保険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生及び医療・老人保健の5本の柱から成っているとされ、広義ではこれらに恩給と戦争犠牲者援護を加えている。
社会福祉の歴史
日本の社会福祉の歴史は、聖徳太子が建立し現在もその名が残る「悲田院」などの救済施設まで溯ることができるが、当時は貧民救済の性格が強く、福祉という言葉は使われていなかった。その後仏教的な思想などを背景として、僧侶による救済や共同体での相互扶助が行われてきた。一方、ヨーロッパ大陸ではキリスト教の影響により古くから慈善事業が行われてきた。
国連は、1981年を国際障害者年とすることを決議した(1980年1月30日)。テーマは「完全参加と平等」とされた。障害に対する考え方を「助けるもの」から「自立を支援するもの」への大転換を目指すものであった。1983年から1992年を国連障害者の10年とし、その行動計画を充実させ、さらにアジア・太平洋各国は1993年から2002年までをアジア太平洋地域障害者の10年としてその定着を進めた。この中で、福祉の理念の一つとしてノーマライゼーションという言葉が強調され始めた。その後、インテグレーション(統合)という言葉が新しい理念として強調され始める。
社会福祉分野における資格と人材
社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士などの国家資格があるが、これらは一部を除き業務独占ではなく名称独占のため、職務の棲み分けが明確でなく、施設によっては国家資格を職名として使用しないところもある。また、介護保険法制定以降、高齢者福祉では介護支援専門員や介護福祉士、2級以上のホームヘルパーのニーズが高まっているが、労働上条件が非常に劣悪(いわゆる3K職場の代表格でもある)であり介護人材の離職率が極めて高く、低賃金で雇えて、企業側に負担が少なく利益が残りやすい発展途上国の外国人労働者の受け入れが始まった。
日本では超高齢化を反映し、高齢者福祉施設は施設数が多いため求人数も多いが、児童・障害施設は保育所を除くと施設数が少ないため求人数は少ない。特に高齢者福祉分野は民間企業が参入しやすいため、介護職や看護職の労働者派遣業が確立されたが、児童・障害分野は行政機関か社会福祉法人主体のものが多い。また、児童養護施設や児童相談所などでは配置人員の不足が指摘されている。 また、介護福祉士は専門職であるにもかかわらず、他業種に比べ転職率が高いが、以下のような理由が考えられる。
- 入所型施設では変則勤務や夜勤、宿直が多い。また年末年始やゴールデンウィーク、お盆休みでも施設に人材は必要であるため、休暇も交替でとる。下記のような様々な問題がある割に待遇が悪い。
- 雇用面では、常勤雇用が少なく、パート、アルバイトが多いことが挙げられる。これは、労働集約型であり補助金や介護報酬などに依存しているという特性上、人件費抑制やサービスを向上すべく最低基準以上の人員を雇うために非常勤比率を高めざるを得ないからである。また、女性が多い職場のため出産、育児休業などによる代替雇用が多く、正規雇用に繋がらない場合がある。
- 利用者との関係によるストレスで精神的に疲労してしまう。例えば高齢者施設では認知症、知的障害者施設では自閉症、精神障害者施設では精神障害を持つ利用者がいるが、それらの障害は、特有の行動や認知の傾向があるため、利用者と日々信頼関係を作っていくのに時間がかかり、利用者によっては暴力行為や不調、自傷他害、持病の発作など、突発的なことに対応していくことが要求される。
- 個々の職員による支援方針の違いが、職場での意見の相違となり緊張感をもたらす。また、職員の大半が福祉職という同質的集団になるため、お互いに馴れ合いになりがちな傾向もあり、人権侵害と思われる行為を指摘しにくく、閉鎖的な緊張感も存在する為と考えられる。また長く勤続する職員ほど利用者のことをよく知っているために、従来のやり方が正しいという空気が生まれ、新人などが問題意識を持っていても指摘しにくい土壌もある。これらの原因で、誤った支援方針に異議を唱えることが難しいとの指摘もある。
- 利用者だけでなく、その家族や病院、行政機関、学校など各種関係機関との連絡調整に忙殺される。特に入所施設では、利用者と家族との関係、利用者の金銭管理に時間を割くことが多い。
- 居宅訪問介護の場合、ヘルパーの移動時間が労働時間として計算される事は殆どないため、実質的な拘束時間が実労働時間よりも遥かに長いといった事態が起こりがちな為。
日本においては1990年代に入ってから福祉や介護へのニーズが高まり、福祉系大学の新規開学や学部の新設も始まった。福祉の資格取得者が増え社会的ニーズが高まっているが、雇用や労働条件は決して高いものとは言えない。また、有資格者が増える一方ですべての有資格者の力量が十分といえず、資格取得養成課程の見直しが検討されることになった。
福祉に関わる資格
国家資格(国が定めたカリキュラムとトレーニングを積んだ後に国家試験受験資格が与えられて、国家試験に合格した者のみ与えられる資格)
- 【社会福祉士及び介護福祉士法】
- 【精神保健福祉士法】
- 精神保健福祉士(社会福祉士の精神科分野限定版)
- 【児童福祉法】
- 保育士(いわゆる保育園の先生)
公的資格(学歴、実務経験は問わず受験できる試験、資格もあるが介護支援専門員は一定の条件を満たさなければ受験資格の発生しない資格もある。)
- 【介護保険法】
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)(介護保険サービスのケアプランを立てる人)
- 訪問介護員(ホームヘルパー)1級~3級(介護福祉士予備軍、1級は2級資格取得者のみ)※無試験
- 介護職員基礎研修課程修了資格(訪問介護員の付加資格)※無試験
- 福祉用具専門相談員(福祉用具の販売、貸与を斡旋する人)※無試験
- 福祉住環境コーディネーター1級~3級(誰でも受験できる福祉の検定資格(1級は2級取得者のみ))
任用資格(教育機関で特定の科目を履修するか、一定の実務経験があれば自然に発生する資格だが、実際に業務をおこなう際にしか発動しない資格)
社会福祉の供給主体
社会福祉の供給主体は「家族」「政府」「市場」があり、3つに大きく分けることができる。しかし、「家族福祉」という言葉があるように、福祉の供給の大部分を担っているのは「家族」である。家族や親族・近隣の相互扶助で機能を果たせなくなった部分を、制度や機構として政府などが担うようになってきた。
政府以外の担い手として、コミュニティ、企業活動のうち収益活動以外の活動、生活協同組合、労組、社会福祉法人、医療法人、宗教団体、NPO、その他の公益法人、ボランティアなど多様な主体があるが、捉え方や位置づけは、国によって異なる。
- アメリカを始めとするアングロサクソン諸国では、それらは市場の一員とみなされる。公共部門が嫌悪され、民間が賛美される風潮がある上に、財源が寄附金で賄われているということも大きい。
- 北欧諸国では、それらは福祉国家の代理であるとみなされる。高福祉政策に肯定的な雰囲気とともに、財源が国家財政に依存していることもある。
- 大陸ヨーロッパ諸国では、4番目のカテゴリーとして市民社会の一員であるとされる。
- 日本では、家族とまとめて「共助・互助」カテゴリーを構成する。
社会福祉政策
日本の社会福祉政策の歴史
日本では、一般的には、福祉六法やそれに派生、関連した政策を指すが、広義には狭義の社会福祉に加え、社会保障と公衆衛生の政策を含む(=公共の福祉)。 近代国家としての社会福祉政策は明治時代の「恤救規則」を皮切りに大正時代から昭和初期にその発展が見られるが、当時は、貧民や弱者に対しては慈善的・救貧的・恩賜的要素が強く、その他の国民に対しては富国強兵政策としての要素が強かった。国家の責務として、本格的に始まったのは終戦後で、まずは敗戦処理として始まった。まず復員軍人や遺族の経済問題に対処するため生活保護法が作られ、続いて戦争孤児のため児童福祉法が制定、児童養護施設が次々と民間でつくられた。次に傷痍軍人などを救済するため1950年に身体障害者福祉法が施行されるなど、社会福祉政策として確立していくようになる。以上の3つの法律を「福祉三法」と呼ぶ。
その後1960年代に現在の知的障害者福祉法、老人福祉法、現在の母子及び寡婦福祉法が制定された。これらを併せて「福祉六法」と呼ぶ。
本格的な少子高齢社会を背景に1997年に児童福祉法が改正、2000年には、高齢者向けの保健・福祉サービスを統合した介護保険法が施行され、児童福祉や高齢者福祉サービスを皮切りに社会福祉政策はこれまでの措置制度から契約中心の制度へと大きく転換し、2006年には障害者自立支援法が施行されることとなったが、一連の改革を「社会福祉基礎構造改革」と呼んでいる。
日本の社会福祉政策
日本では、まず、日本国憲法第25条第2項(生存権)を保障する政策として取り組まれている。同条では「国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定されており、社会福祉は、慈善や相互扶助のみではなく、国の責任で向上・増進させるべきとの規定がなされている。
- 福祉六法
- その他の社会福祉法
社会福祉政策の課題
社会福祉分野においては、政策を行うにあたっての財源の確保が大きな課題である。「小さな政府」を指向する先進諸国では、税収が増えないなかでの人口の高齢化による義務的経費の増加により、今まで必要なサービスを受けられていた人間が、逆に十分なサービスを選択したり受けられなくなるという「対象の空洞化」「逆選択」の問題が深刻化している。
学校教育への展開
義務教育であるかないかを問わず多くの学校では福祉教育が実施されているが、2003年(平成15年度)より、高等学校の専門教科として「福祉」が設置されている。
介護・福祉職の低賃金問題
介護・福祉職は社会的に重要な仕事であるが、重労働ないし低賃金であることが多く、特に介護分野で離職率が高い。福祉系大学卒業の新卒者も一般企業に就職する傾向にある。介護分野における不足労働者を補うために、外国人労働者を介護福祉士として養成する政策が他国との協定で実施されている。
日本における福祉の組織
社会保障の柱のひとつである福祉を担当する組織(行政機関)には以下のようなものをあげられる。
- 福祉事務所:社会福祉法によって規定されている。福祉業務を担当する第一線機関である。
- 児童相談所:児童福祉法によって規定されている。児童に対するあらゆる相談に応じる。
- 身体障害者更生相談所および知的障害者更生相談所:身体障害者福祉法および知的障害者福祉法によって規定されている。福祉事務所では扱えない高度な問題を担当する。
- その他、老人福祉法による「在宅介護支援センター(老人介護支援センター)」、介護保険法による「地域包括支援センター」などがある(こちらは多くが民間福祉事業者へ委託)。
脚註
関連項目
外部リンク
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