検察官

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Template:日本の刑事手続 検察官(けんさつかん、Template:Lang-en-short)は、日本の法律上「検察」、すなわち刑事事件に関して捜査および公訴裁判の執行の監督などをその職分とする国家公務員、またはその刑事訴訟法上の地位をいう。

日本以外の国において、刑事訴訟原告としてその追行を担当する法律家たる公務員もやはり「検察官」と呼ぶが、その職分範囲は多様である。以下は日本国の検察官について詳述する。

目次

地位

検察庁」は「検察官」の事務を統括する官署に過ぎず、行政組織上の検察官は建前上一人一人が独任制の官庁として、単独で公訴を提起し公判を維持する権限を有するが、職務執行上、上命下服の関係に立つ。そのため、訴訟中に検察官が交代するなどしても、訴訟上の効果は変わらない。また、決裁制度を通じて個々の検察官の裁量は制限され、一貫した取扱いが図られている。三権のうち、行政権に属する官庁であるが、国民の権利保持の観点から俗に準司法機関とも呼ばれる。

2006年平成18年)の統計では、合計で2,490名(うち副検事899名)となっている。

身分証票はなく、「検察官徽章」が使われる。これは旭日に菊の花弁と葉をあしらったもので、別名「秋霜烈日」と呼ばれる。

業務

刑事事件について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、かつ、裁判の執行を監督し、また、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に通知を求め、又は意見を述べ、また、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う(検察庁法第4条)。

主として、刑事裁判における公判を受け持ち、その他、大型経済犯罪や政界絡みの汚職事件など単独で犯罪の捜査を行う場合もあるが、警察とは異なり「犯罪を予防鎮圧する権限」等は有しておらず、警察官に認められている武器の携帯使用、職務質問、立入権限、保護、交通規制などは認められていない(警察官職務執行法道路交通法参照)。

変わった例としては、人事訴訟において訴訟担当者として被告となる場合がある。

また、訟務検事として行政訴訟国家賠償請求訴訟で国の代理人を務めることがある。

権限

検察官は以下の非常に強い権限を与えられている。

検察官起訴独占主義・国家訴追主義
検察官が国家を代表して国家の名の下に犯罪者を裁きにかける、という近代刑事法学上重要な考え方の一つである(刑事訴訟法247条)。
検察官起訴便宜主義
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないと検察官が判断した場合には、検察官は公訴を提起しないことができる(刑事訴訟法248条)。これは起訴便宜主義と呼ばれ、訴追を必要としないと判断された事件については起訴猶予処分(不起訴処分の一種)にすることができる。検事でパス(パイ)してシャバに出られることから、俗に検パイ(けんパイ)とも呼ばれる。
起訴独占主義の例外
起訴独占主義の数少ない例外として準起訴手続(刑事訴訟法262条~269条)がある。これは、刑法、破壊活動防止法(破防法)、団体規制法(オウム規制法)における公務員の職権濫用などの罪について検察官が公訴を提起しない場合に、その罪の告訴・告発者が不服なときに裁判所に付審判を請求できる制度で、付審判の決定があったときは、公訴の提起があったものとみなされる(刑事訴訟法267条)。またこの時、裁判確定までの検察官としての職務は、裁判所が指定する弁護士(指定弁護士)が務めることとなり、この職務に当たる弁護士はいわゆる「みなし公務員」となる(刑事訴訟法268条)。
さらに起訴独占主義の例外として2009年(平成21年)5月21日から検察官が不起訴にした事件で検察審査会が起訴相当を2回議決した場合も、公訴が提起されたものと看做され、指定弁護士が検察官の職務にあたる制度が設けられた。

任官

最高検察庁検事総長国務大臣級待遇)・次長検事大臣政務官級待遇)、各高等検察庁検事長(準副大臣・大臣政務官級待遇<ref>東京高等検察庁検事長のみ大臣政務官よりも高く副大臣よりも低い待遇であり、その他の高等検察庁の検事長は大臣政務官に相当する待遇である。</ref>)は認証官であり、内閣によって任免され天皇から認証される<ref>本項に記した待遇は、俸給(給与の本給)の額の比較に基づく。次長検事及び検事長について「大臣政務官級」とあるが、大臣政務官は認証官でなく、給与以外の側面から見れば次長検事及び検事長は副大臣級とみなすことも間違いではない。</ref>。

また、事件処理に必要な検察官が足りないとの理由の際に、法務大臣は区検察庁の検察事務官のうち一定の者にその庁の検察官の事務を取り扱わせており(検察庁法附則36条)、このような検察事務官を検察官事務取扱検察事務官という。

また、法務省設置法附則4項は、「当分の間、特に必要があるときは、法務省の職員(検察庁の職員を除く)のうち、百三十三人は、検事をもってこれに充てることができる。」と定めている。この規定に基づき、法務省の要職(官房長・局長レベルを含む)は検事(裁判所から出向した裁判官出身者が検事に任命された上で行われる場合もある)が、検事としての官職を保持したまま兼任、併任(ともに法務事務官の官職に兼ねて任命される)又は充て職(法務事務官の官職を兼ねず、検事の官職のみを有したまま法務省の職に就く)の形で占める例が多い(課長などの役職者とならない場合は「局付(きょくづき)検事」と呼ばれる)。ただし、法務事務次官については、検事出身者が、一時的に検事の官職を解かれて就任するのが慣例である。

採用

検察官は裁判官弁護士と同様、原則として、法科大学院課程を修了し新司法試験に合格した者、もしくは旧司法試験に合格した者で、最高裁判所司法研修所における修習(司法修習)を終えた者が検事として採用され、この者が「検察官」となる。

この他に検察事務官裁判所書記官警察官皇宮護衛官海上保安官自衛隊警務官等を一定年数経験した者が、「副検事」として採用され、更に考試を経て「検事」となり「検察官」となる場合(特任)や、3年以上法律学を研究する大学院が設置されている大学における法律学の教授准教授であった者などから採用されることもある。

なお、法曹一元制をとっているアメリカでは「検察官」は国や州に雇用された「弁護士(lawyer)」の一種という位置づけである。

名称

検察庁法に基づく職階制上の官名としては検事総長次長検事検事長検事副検事が、職名としては検事正上席検察官があるが、単独の「検察官」という表記はこれらの総称であり、あるいは訴訟法上の地位であって官名・職名ではないため、辞令等での表記に「検察官」は用いられない。

ただし、検察官も「(旧)刑訴規則五六条二項にいわゆる官名と解することができる」とした判例がある<ref>最高裁判所昭和27年6月5日決定・最高裁判所裁判集刑事65号73頁</ref>。これに対し「検事」は身分を指す。

大日本帝国憲法下の官吏区分呼称であった勅任官奏任官判任官の名残で、検察庁官吏には一級二級三級(算用数字でなく漢数字で表記)の別があり、検事長以上は一級、検事は一級または二級、副検事は二級となっている。各自に発せられる辞令に「検事一級」、「副検事二級」のように記載される。かつては、「一級に叙する」又は「二級に叙する」と叙級発令の形式であった。また、検察官以外の検察庁の官僚にも同様の区別があり、検事総長秘書官は二級、検察事務官は二級または三級、検察技官は二級または三級とすることとなっている。これらの級の区分はいずれも検察庁法に定められている。

検察官の官名

検事総長
検察官の職階の最高位にして最高検察庁の長であり、全ての検察庁の職員を指揮監督する(7条1項)。認証官である。詳細は検事総長の記事を参照。
次長検事
検察官の職階の一つ。認証官である。最高検察庁に属し、検事総長を補佐する。また、検事総長に事故のあるとき、又は欠けたときは、その職務を行う(7条2項)。「次長検事」の職は一般的に「検事長」より上位の職であるものの、検察官俸給法における報酬額については「検事総長」、「東京高等検察庁検事長」に次いで3番目であり、東京高等検察庁の検事長以外の検事長と同額である。
ただし、給与体系=指揮命令系統上の階級ではないことに留意する必要がある。
検事長
検察官の職階の一つ。高等検察庁の長。認証官である。所属の高等検察庁、並びにその管轄区域内の地方検察庁及び区検察庁の職員を指揮監督する(8条)。なお、検察官俸給法における報酬額については、東京高等検察庁検事長は他の検事長とは区別されており、その俸給の額は検事総長についで2番目とされ、次長検事及び東京高等検察庁以外の検事長を上回る。
検事
検察官の職階の一つであり、検事一級と検事二級とに分かれる。
副検事
検察官の職階の一つ。詳細は副検事の記事を参照。

検察官の職名

検事正
検察官の職名の一つで、地方検察庁の長。一級の検事をもって充てられる。所属の地方検察庁、並びにその管轄区域内の区検察庁の職員を指揮監督する(9条)。
次席検事
検察庁法ではなく、検察庁事務章程に定められている職。高等検察庁及び地方検察庁にそれぞれ1名が置かれ、その庁に所属する検察官の中から法務大臣が任命する。所属する庁の検事長又は検事正の職務を助け、また、検事長又は検事正に事故のあるとき、又は欠けたときは、その職務を臨時に行う。また、記者会見に出席し、発表を行う。
上席検察官
検察官の職名の一つ。2人以上の検事又は検事及び副検事の所属する区検察庁にそれぞれ1名置かれ、検事をもって充てられる。区検察庁の長として、職員を指揮監督する。
上席検察官の置かれない区検察庁においては、所属の検事又は副検事(副検事が2人以上属する場合は検事正の指定する副検事)が区検察庁の長として、職員を指揮監督する。
その他、各検察庁の、総務部長、刑事部長、特別捜査部長、特別刑事部長、公安部長、交通部長、公判部長など

法務大臣の指揮権

検察官はそれぞれが検察権を行使する独任官庁であるが、検察官は刑事裁判における訴追官として審級を通じた意思統一が必要であることから、検察官は検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する(検察官同一体の原則)。

検察官は、例外を除き起訴権限を独占する(国家訴追主義)という極めて強大な権限を有し、刑事司法に大きな影響を及ぼしているため、政治的な圧力を不当に受けないように、ある程度の独立性が認められている。端的なものが法務大臣による指揮権の制限である。

検察庁は行政機関であり、国家公務員法の規定に基づき、その最高の長である法務大臣は、当然に各検察官に対して指揮命令ができるのであるが、この指揮権については検察庁法により「検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」として、具体的事案については検事総長を通じてのみ指揮ができるとした。

法務大臣と検事総長の意見が対立した場合、かつては法務大臣の指揮に従わないこともあり得る旨を述べた検事総長もいて、国会等で国家公務員法違反にあたると問題とされたが、上司の職務命令には一種の公定力が認められているため、法的には「法務大臣の職務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り違法なものでも服従する義務がある」とされ、個々の事件についても検事総長を通じて各検察官に対して間接的に法務大臣の指揮命令が及ぶことになる。その結果の是非については、指揮権を発動した際の国民世論が決定することとなり、政治責任の問題である。

法務大臣の指揮権は民主主義的な支持基盤を持たない行政機関である検察が独善的な行動をとらないよう掣肘する目的も有しており、閣議決定による認証官人事及び法務大臣の人事権とあわせて行政機関の民主主義的コントロールを意味している<ref name="nakanishi">Template:Cite journal</ref>。

この指揮権は、1954年昭和29年)4月21日、吉田内閣の法務大臣犬養健造船疑獄に際して当時の自由党幹事長佐藤栄作逮捕を通常国会の会期終了まで延期せしめた例が存在(注:会期終了後その指示は解除されたが逮捕は見送りとなった)し、それ以後発動されたことはない。本来、政から官への民主主義的なチェックシステムだった指揮権発動が、佐藤など一部の吉田茂系の政治家を救うためまったく正反対の趣旨で発動されてしまい、制度の政治的正当性が失われてしまった。以後、指揮権発動はおろか政治が検察に対して関心を持つことすらタブーとなってしまったといわれている<ref name="nakanishi"/>。

犬養は、後に、『文藝春秋』1960年5月号に、「指揮権発動により法務・検察幹部を軒並み引責辞任させ、意中の男を検事総長に据えようという某政治家と検察幹部の思惑があった」とする手記を寄せている<ref>『ドキュメント検察官』 135頁。</ref>。

造船疑獄での指揮権発動以降、大臣と検事総長の間には常に緊張感が漂っていると言われており、ある検事総長経験者は、もし、指揮権が発動されたら指揮には従わず、辞表を出す覚悟だったと証言している<ref>『ドキュメント検察官』 135-136頁。</ref>。

元検察幹部は、指揮権発動があるとすれば大臣との間に「誤解」が生じてしまっているということ、双方の立場をわきまえた上で大臣に極力情報を上げるようにすることが、造船疑獄以降、組織が得てきた教訓だと思うと述べている<ref>『ドキュメント検察官』 136頁。</ref>。

公訴権濫用論

原則として公訴権を検察官のみに付与し、広い裁量を認めていることから、権限濫用の危険性がある。起訴が行われなかった場合には検察審査会が一応のチェック機能を果たすことが期待されている。しかし、起訴が行われた場合に権限濫用の有無を判断する制度的な担保は存在していないことから、これら不当な起訴を行った場合には「公訴権の濫用」として公訴は棄却されるべきであるとする説が有力に唱えられた。

最高裁は、原審が検察官の公訴権濫用を認定し公訴を棄却した事件の上告審において、検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効とすることはありえるが、それは公訴提起自体が犯罪行為を構成するなどの限定的な場合に限られるとして極めて限定的な解釈を示した上で、検察官の上告を棄却し公訴棄却の原審判決を維持するという判示を行っている。

他の捜査機関との関係

検察官は訴追機関であると同時に、あらゆる犯罪を捜査する権限も有する(実際には補充的な捜査にとどまることが多い)ことから、他の捜査機関(一般司法警察職員特別司法警察職員)との関係が問題となる。

戦前、検察官は捜査を主宰するとされ、強力な指揮権限が認められていた。もっとも、指揮に反した場合でも、警察は内務省管轄であったため、内務省警保局の管理権と検事の指揮が反した場合は、その指揮を貫くのは難しかったとされる。戦後は原則としていずれも対等・独立の協力関係であるとしつつ、公訴提起・公判維持の観点から検察官に一定の指揮権限を与えている。

具体的には、検察官は警察官等に対して、一般的指示権、一般的指揮権、具体的指揮権を有するほか、正当な理由がなくこれらの検察官の指揮に従わない場合、検事総長、検事長、検事正は従わない司法警察職員の懲戒の請求を公安委員会に対してすることができる。検察官自身には懲戒権限はない。懲戒の請求自体が重大問題であることから、この請求権者は検事総長、検事長、検事正に限られており、また、むやみに請求を行うことは公務員職権濫用罪にも問われる可能性があり、現在まで一度も請求がなされたことはない。

検事総長、検事長又は検事正自身には懲戒権限はないため、この正当性の判断や必要性等は国家公安委員会が独自に判断する事となっている。公安委員会の管理権と検察官の指揮権が相反する場合にどちらが優先されるかが問題となるが、あくまでも正当性の判断主体は公安委員会であるため、公安委員会の管理権が優先されると解されている。

これは司法警察活動(犯罪の捜査)に関してのものであり、行政警察活動(犯罪の予防・鎮圧等)に関しては戦前、戦後ともに検察官の権限はなく、当然指揮の問題も発生しない。

検事総長を務めた伊藤栄樹は、自著『秋霜烈日』(朝日新聞社)で検察と警察との関係に触れ、「検察は、警察に勝てるか。どうも必ず勝てるとはいえなさそうだ」としている。

検察官のチェック機能

  • 検察官適格審査会は個々の検察官が職務遂行に適するか否かを審査する機関である。全ての検察官を3年ごとに定時審査するほか、法務大臣の請求により、または職権で各検察官を随時審査する。

脚注

<references/>

関連項目

参考文献

  • 別冊宝島編集部編『暴走する「検察」』(宝島社)
  • 産経新聞特集部『検察の疲労』(角川書店)
  • 魚住昭『特捜検察の闇』(文藝春秋)
  • 郷原信郎『検察の正義』(ちくま新書)
  • 野村二郎『日本の検察』(講談社現代新書)
  • 秦野章『角を矯めて牛を殺すことなかれ』(光文社)

外部リンク

de:Staatsanwalt en:Prosecutor nn:aktor no:Påtalemyndighet pl:Prokuratura zh:檢察官

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