東急5000系電車 (初代)

出典: Wikipedio


東急5000系電車(とうきゅう5000けいでんしゃ)は、東京急行電鉄に在籍していた通勤形電車1954年昭和29年)から1959年(昭和34年)までに105両が製造された。 Template:右

目次

概要

航空機の技術を応用した超軽量構造と、アメリカからの技術導入による最新鋭の電装機器を兼ね備え、それ以前の日本電車とは隔絶した高性能と軽快な車体スタイルを実現した。

下ぶくれの愛嬌ある車体形態はライトグリーン(萌黄色)1色に塗装されていたことからカエルを連想させ、「青ガエル」「雨ガエル」などの通称で利用者に親しまれた。工業デザインの見地からも秀逸な車両である。このライトグリーンは当初透明度が高かったが、退色しやすく後に彩度を落とし東急鋼製車の標準色とされ、8500系が登場するまで東急電車を象徴する色になっていた。

東急では1980年(昭和55年)頃までに東横線の運用から退き、1986年(昭和61年)までに全車廃車されたが、1970年代以降地方私鉄に大量譲渡され、ローカル線近代化にも貢献した。

外観・性能

  • 正面はいわゆる湘南スタイルの2枚窓。
  • モノコック構造・高抗張力鋼による軽量車体。
  • 日本で初めて本格的に直角カルダン駆動方式を採用した新性能車の嚆矢。
  • 東芝製・SE-518形直巻電動機(定格出力110kW、端子電圧750V、電流162A、定格回転数2000rpm、最高許容回転数4500rpm、最弱め界磁率50%)が採用され、定格速度を高く取り高速性能を確保した。出力は当初75kWの計画もあったが最終的には110kWとなった。
  • 歯車比は52:9(5.78)である。
  • 起動加速度MT比2M1T(電動車(M)2両・付随車(T)1両)で2.7km/h/s。電動車は1M方式で、MT比を自在に変えることができる。
  • 発電制動併用自動空気制動を採用。ブレーキハンドルを「全弛め」位置に回すと空気制動も発電制動も動かず、「弛め」位置で発電制動の作動準備が行われ、「制動」位置に回すと発電制動が作動し、「重なり」に戻すと発電制動力が保たれる。その際、自動的に不足分のブレーキ力だけブレーキシリンダーに圧力が込められる現在でいう「遅れ込め制御」機能が働く。発電制動が失効すると自動で空気制動が作動する。ブレーキシリンダーに込められる圧力は発電制動のノッチによって決まる。
  • 主幹制御器の段数は4段であり、1~3ノッチは通常の直並列制御であるが最終4ノッチは限流値が引き上げられ、起動加速度が引き上げられる。
  • 東横線の急行運転開始後、車内放送装置にはオープンリール式のテープレコーダーにより、女性のアナウンスが流されるようになったがメンテナンス性の困難により、短い期間で終了した。その後、東急で自動放送が再び使用されるようになるのは1986年(昭和61年)に9000系が登場してからである。

形式・運用

下記の4形式が製造された。

  • デハ5000形 - 5001~5055
    制御電動車。5001~5050はデハ5100形、サハ5350形と3・4連の基本編成を組んだ。5051~5055は新製当初クハ5150形と編成を組んで増結用の2連で使用されたが、クハが長野電鉄へ譲渡されてからは5001~5050と同様に使用された。
  • デハ5100形 - 5101~5120
    基本編成の4連化用に製造された中間電動車。
  • クハ5150形 - 5151~5155
    東横線の5・6連運用のために5051~5055とともに製造された増結用2連の制御車。長野電鉄への初回譲渡時に全車譲渡され、最初の消滅形式となった。2004年になって東横線に投入された新5000系(5050系)にも同じ「クハ5150形」が存在する。
  • サハ5350形 - 5351~5375
    付随車で、5001~5050による基本編成の中間に挟まれる。登場当初はサハ5050形だったが、本系列の増備が進んでデハ5000形の番号が5050に近接するようになったため、サハ5350形に形式変更された。

当初東横線に投入された。東横線でステンレスカーが主力になった頃からは主に、田園都市線大井町線で運用され、最終期には目蒲線で使用された。大井町線では5両全車電動車編成を組んだこともある。1986年に東急での運用を終了した。

以後への技術的波及

本系列の注目点の一つとして、当初から付随車を組み込んだMT編成であることが挙げられる。直角カルダン駆動の大トルク電動車が、軽量なトレーラーを牽引することで、製造コストを低減できると同時に、カルダン駆動用の高速電動機による瞬間的な消費電力をある程度抑制することが可能であった。

同時期の、特に1067mm狭軌の私鉄の高性能電車は、WNドライブと小形主電動機の組み合わせによる全電動車方式で、起動加速度2.7km/h/s~3.3km/h/sの性能を目指していた。日本国有鉄道(国鉄)のモハ90系電車(後の101系)も、駆動方式に中空軸平行カルダン駆動方式を採用していたこと以外は、同じであった。しかし、この方式は製造費や給電施設の強化などイニシャルコストが高くつき、急増する輸送需要に対応しなければならない状況では、現実的ではなくなり、ほとんどの鉄道事業者(国鉄を含む)はMT編成の新車を矢継ぎ早に投入しなければならなくなった。

本形式に採用されたPE-11形電動カム軸式抵抗制御器は、後に国鉄のCS12形制御器のモデルとなり、さらに改良されて国鉄の電車用抵抗制御器としては決定版となるCS15形へと発展した。

PE-11形制御器の制御段数は直列12段、並列11段、弱め界磁3段、発電制動20段である。弱め界磁制御は高速域のみならず加速を滑らかにするため発進時にも弱め界磁を使用する「弱め界磁起動」装置が導入された。弱め界磁は高速域でも当初使用されていたが終期には発進時のみ使用されるようになった。

モノコックの車体構造は、鉄道車両用としては、断面積がやや小さくなり詰め込みが効かなくなること、腐食によって極端に強度が低下すること、より大型の車体に適用しづらいこと等から、以降の鉄道車両に応用されることはなかった。しかし、5000系の車重は、ステンレスカーの5200系より軽く、経済性の面でも有利であると言われていた。モノコック構造は後に、スバル360を嚆矢とした自動車において開花することになる。

他鉄道事業者への譲渡

Template:右 東急で運用を離脱した後に、旧型車の置き換え・サービス向上のために64両が地方私鉄に譲渡された。これだけ大量の車両が譲渡された理由として、経年が浅かったことのほか、軽量のため橋梁など重量制限のある構造物への支障がない、1M方式のため短編成が組みやすいなどの特徴により、地方私鉄でも導入が容易だったことが挙げられる。しかし、構造上冷房装置設置改造が困難なことに加えて、直角カルダン駆動の保守部品調達も難しくなってきていることから、京王電鉄3000系などに代替されて、譲渡されたほとんどの車両がすでに廃車となっている。2010年平成22年)現在でも稼動しているのは熊本電気鉄道の2両を残すのみとなり、東急時代の緑一色の塗装に戻されて運用されている。

塗色変更で「赤ガエル」などになった車両、中間車へ運転台が取り付けられて切妻型の先頭車「平面ガエル」となった車両もある。

また、1986年に台車(TS301)のみが西日本鉄道に譲渡され、宮地岳線120形のカルダン駆動化に使用された。のち、本線から転属した600形の一部にも受け継がれている。

デハ5001号は譲渡先の上田交通で1993年(平成5年)に廃車となった後、静態保存のため東急に返却され、登場時の緑塗装に復元の上、長津田検車区での保存を経て、東急車輛製造の構内で保管されていたが、2006年(平成18年)に車体の短縮が行われ、同年10月26日から渋谷駅ハチ公口で昔の渋谷駅の写真とともに、ダルマ状態で展示されている。

その他

  • 2002年に新5000系が登場してからは、本系列を「旧5000系」と呼ぶことが多くなっている。

関連項目

Template:東京急行電鉄の車両

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