東急2000系電車
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東急2000系電車(とうきゅう2000けいでんしゃ)は、1992年(平成4年)3月31日に営業運転を開始した東京急行電鉄の通勤形電車。
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概要
田園都市線の輸送力増強に伴い、1992年(平成4年)から1993年(平成5年)にかけて10両編成3本(30両)が東急車輛製造で製造された。
1986年(昭和61年)に登場した9000系をベースにしており、基本的に9000系の設計を踏襲しつつも地下鉄半蔵門線乗り入れへの対応、客室内の改良、乗り心地の向上などが図られた。また、設計に当たっては「より良い居住性」「運転操作性の向上」「省エネルギー化」「保守性の改善」などの9000系からの基本理念に加え「人にやさしい車両」を目指している。
1992年に第1・2編成が田園都市線に投入され、1993年2月には第3編成が8両編成で東横線に暫定投入された。第3編成はその後、同年11月に10両編成化の上で田園都市線に転属した。
田園都市線での運用は2003年(平成15年)3月19日の東武線への直通運転開始までは既存の8500系などと共通運用されていたが、東武線への直通運転が始まってからは、東武線内での乗務員教習の手間の問題から同線への乗り入れ対応の機器類は搭載せず、東武線へ乗り入れない運用で使用されている。また、前面非常扉の窓には東武線乗り入れ非対応を示す、「K」のマークを貼付している。
東急では1999年(平成11年)ごろまで車両寿命を40年から50年程度とする方針の下で車両の更新を行なっていたため、2000系の導入後は2000年(平成12年)に開業する目黒線向けとして1999年(平成11年)に登場した3000系まで、東急では旅客営業用電車の製造が途絶えることになった。
その後、車両施策が従来より短い寿命で車両を取り替える方針に転換され、2002年(平成14年)から5000系が田園都市線の車両取り替え用および輸送力増強用として導入されている。
車体
9000系とほぼ同様の軽量ステンレス鋼製20m級車体の4扉車である。そのため、外見はほとんど同系と同じである。これは車両設計費の低減や構体・扉・窓などの部材を共通化することで予備品の低減、さらに運転時・検修時の取り扱い作業の標準化・統一を図る目的である <ref name="RM1992-5">「レイルマガジン」1992年5月号記事から。</ref> 。前面と側面には東急のコーポレートカラーである赤色のラインカラーを巻く。
前面は非常口貫通式としており、地下鉄線内での非常用の梯子が設置してある。当初は小形であったが、後年に大形のものへと交換された。2005年(平成17年)1月に3編成すべてに補助排障器(スカート)を装着した。
行先表示器は当初2001Fと2002Fは幕式、2003Fは3色LED式(落成から営業運転開始までは幕式)だったが、2003Fは2005年(平成17年)、2001Fと2002Fは2006年(平成18年)に5000系列と同じフルカラーLED式に交換した。このうち2003Fの種別表示器は当初8500系と同じ小型の表示器としたが、2001Fと2002Fでは専用の大型表示器とし、2003Fについても後に交換された。
なお、前面の表示器の横には急行標識灯があり、急行列車・快速列車で運転される際に点灯していたが、2002年(平成14年)4月より使用が停止され、前述のフルカラーLED化の際に撤去、塞がれた。
3号車にあたるデハ2200形の外側妻面には半蔵門線用の誘導無線アンテナが設置してある。当初このアンテナは棒状であったが2008年(平成20年)頃に角形のものへ交換された。また、後年に車両間転落防止幌が設置された。
冷房装置は1000系1006F以降と同一の東芝製で10,000kcal/hのもの(RPU-2214C形)を1車あたり4台搭載しているが、2台をまとめて1つのキセに収めることにより、見ばえの向上とパンタグラフ搭載車と非搭載車での配置の共通化を図った。
内装
第1・2編成のの3・9号車以外の客室内装は9000系とほぼ同じ内装である。ただし、冷房ダクト方式や網棚の形状などは1000系に準拠している。また、従来客室壁に取り付けていた消火器は収納キセに収めるように変更した。客室はすべてロングシート(1人の掛け幅は440mm)配置である。各車上り側に優先席がある(クハ2000形は下り側)。天井補助送風機としてラインデリアを設置しているが、田園都市線の混雑に配慮して先頭車に9台、中間車に10台と9000系よりも多くしてある。
- 1992年製の1次車の3・9号車では「人にやさしい電車」・「快適な空間づくり」を目指して在来各系列では見られなかったアイデアを試験的に施している。これは今後の通勤電車の内装のモデルケースとしての意味合いもある<ref name="RM1992-5"/>。
- 試作した座席モケットとカーテンは経年により汚れが目立つことが判明したため、後年に従来車と同じ無地のものへ交換された。
これらの試みは2次車以降で一部改良の上、全面的に採用した。
2次車の第3編成は東横線使用時、車椅子スペースは編成の3・7号車、座席モケットは渋谷方から奇数号車が花柄、偶数号車がストライプとされた。その後、田園都市線への転属の際、新たに増備されたサハ2703はストライプ、サハ2803が花柄となり、10両編成におけるモケットの順番が不規則となった。
落成時から自動放送装置を搭載しているが、田園都市線だけでなく、乗り入れ先の半蔵門線でも自動放送を行っている。ただし、半蔵門線内は英語放送の設定はない。側面に車外スピーカーを搭載し、車掌の操作で「扉が閉まります。ご注意ください」の乗降促進放送を流すことができる。
2003年(平成15年)10月から2004年(平成16年)3月にかけて、側入口の鴨居部にLED式の2段式旅客案内表示器とドア開閉を予告するランプを千鳥配置で設置した。ともにドアチャイム用のスピーカーを内蔵している。また、優先席のつり革は後年にオレンジ色で三角形のものに交換されている。
乗務員室
乗務員室についても9000系と基本的に大きな変更はない。これは乗務員が取り扱う機器を統一するためであり、このことから前面形状も同車と同じとなっている<ref name="RM1992-5"/>。本系列では左側の壁に半蔵門線用の誘導無線の送受話器がある。計器盤の配色は茶色。主幹制御器はT字形ワンハンドルマスコン(デッドマン装置)付である。フロントガラスの日除けにはロール式のカーテンが設置してある。また、後年に非常扉部にもカーテンが追加された。
乗務員室仕切りは前面窓と同じ配置で仕切窓が3枚あり、そのうち客室から見て左側2枚の窓には下降式遮光板が設置してある。
車掌スイッチは当初は機械式であったが、2007年(平成19年)に間接制御式(リレー式)に交換された。
諸元
GTO素子を用いた日立製作所製VVVFインバータ制御装置(VF-HR-132形)を採用し、京王電鉄の8000系や西武鉄道の6000系、南海50000系電車ラピートと類似の仕様であり、1台の制御器で2両分8個のモーターを制御する1C8M制御方式である。
主電動機はTKM-92形かご形三相誘導電動機(出力170kW、端子電圧1100V、電流115A、周波数64Hz、回転数1860rpm)である。9000系での反省を活かしてか、粘着性能が高く空転はほとんど見られない。
ブレーキ装置はATCと連動したHRA(ハイ-レスポンス-アナログ)方式であり、回生ブレーキを併用したアナログ指令式の全電気指令式空気ブレーキである。また、遅れ込め制御も併用している。
空気圧縮機 (CP) は低騒音形のレシプロ式の装置HS-20-1形を編成で4台搭載している。補助電源装置は東芝製GTO素子を使用した静止形インバータ(SIV)であり、出力170kVAを編成で3台搭載している。編成での電源容量は同線の5000系よりも大きい。
集電装置は剛体架線に対応した菱形パンタグラフ(PT44-S-D-M)であり、9000系と同一品である。
現在の保安装置はいずれも東急線・東京メトロ用のATC装置を搭載している。
台車
9000系(試験車を除く)から採用しているボルスタレス台車を基本としているが、円筒形積層ゴム式軸箱支持装置の採用などにより、高速時の乗り心地を向上させた。形式はTS-1010・TS-1011形である。基礎ブレーキは電動車が片押し式踏面ブレーキ、付随車はディスクブレーキとしている。なお、本系列での採用を前に9000系9015号において1991年(平成3年)3月 - 6月にTS-1009台車として実車試験を実施した。
運用
- 全車が長津田検車区に配置され、田園都市線から東京地下鉄半蔵門線への直通運用に使用する。前述の通り東武線には直通できず、2006年(平成18年)3月18日のダイヤ改正から2008年(平成20年)3月27日までは例外を除き平日のみ運用されていた。
- 2008年(平成20年)3月28日のダイヤ改正からは平日ダイヤに加え、約2年ぶりに土曜・休日に東武線非直通運用36K~38Kが設定されたため、2000系が運用に入ることもあった。また、日中を通して終日運用される38K運行が設定されていた。なお、土休日38K運行は東京メトロ08系および8000系が精算運転のためこの運用に入ることもあった。
- 2009年(平成21年)6月6日のダイヤ改正以降は原則として東武線非直通運用である34K~44K運用に就く。日中を通して終日運用されるのは44K運行のみであり、3編成共平日の朝ラッシュ時中心の運用となっている。なお、このダイヤ改正で土休日に日中を通して終日運用される東武線非直通運用は廃止され、朝と夜に東武線非直通運用が存在する。
- 第3編成は東横線においてサハ(中間付随車・T)2両を抜いた8両編成で落成し、1993年(平成5年)2月3日より運用を開始した。これは8000系更新に伴う車両不足のためである。同年11月にサハを2両新製して田園都市線に移籍するとともに東急形ATSを撤去した。
編成
- 電動車(M)6両と付随車(T)4両による6M4T構成の10両編成
←押上・渋谷 中央林間→
| 製造年 | ||||||||||
号車 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
形式 | クハ2000 (Tc2) | デハ2250 (M2) | デハ2200 (M1) | サハ2700 (T2) | デハ2350 (M1) | デハ2300 (M2) | サハ2800 (T1) | デハ2450 (M2) | デハ2400 (M1) | クハ2100 (Tc1) | |
搭載機器 | SIV,CP | CONT | SIV,CP | CONT | CP | SIV,CP | CONT | ||||
車号 | 2001 2002 | 2251 2252 | 2201 2202 | 2701 2702 | 2351 2352 | 2301 2302 | 2801 2802 | 2451 2452 | 2401 2402 | 2101 2102 | 1992年 |
2003 | 2253 | 2203 | 2703 | 2353 | 2303 | 2803 | 2453 | 2403 | 2103 | 1993年 |
- 凡例
- CONT:主制御器(1C8M)、SIV:補助電源装置(静止形インバータ)、CP:空気圧縮機
その他
- 1992年夏に開催された東急のスタンプラリーでは、景品として本系列の模型がプレゼントされていた。
脚注
参考文献
- 渡辺峰男「新車ガイド 東急2000系」『鉄道ファン』1992年5月号(通巻373号)、交友社。
- 尾崎正明「東京急行電鉄2000系」『鉄道ピクトリアル新車年鑑1992年版』1992年10月臨時増刊号(通巻566号)、鉄道図書刊行会。
- 川口雄二「東京急行電鉄2000系電車」『鉄道ピクトリアル』1992年5月号(通巻559号)、鉄道図書刊行会。
- 渡辺峰男「東京急行電鉄 2000系」『電気車の科学』1992年4月号(通巻528号)、電気車研究会。
- 川口雄二「東京急行電鉄2000系について」『レイルマガジン』1992年5月号 、ネコ・パブリッシング。