投手

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thumb|250px|投球する右投げの投手 thumb|250px|野球のポジション図

投手(とうしゅ)とは、野球ソフトボールにおいて打者ボールを投げる役割の選手である。英語からピッチャー(pitcher)とも呼ぶ。公認野球規則2.60により投手は定義されている。

野球における守備番号1。また、英略字はPPitcherから)。クリケットの投手はボウラー(bowler)と呼ぶ。

投球の速度(球速)を表示する単位として一般に日本ではキロメートル毎時 (km/h)、アメリカではマイル毎時 (mph) が使われる。

目次

投手の役割

投球

投手の最大の役割は、相手チームより失点を低く抑えることで自チームを勝利に導くことである。決勝点を先取した投手は勝利投手、相手チームの決勝点を許した投手は敗戦投手になる。勝利投手と敗戦投手は、その試合の勝敗の責任を負う。また、最終アウトを取ることで自チームのリードを守り抜き勝利を確定させた救援投手にはセーブが記録される。 thumb|塁上の走者を牽制する投手 投手の役割は、単にボールを投げるだけではなく「打者に安打を打たせないこと、走者を生還させないこと」であるとも言える。投手は打者から三振を奪ったりゴロフライを打たせるなどしてアウトを取る。そのために捕手とサインを通じて連携して個々の打者が苦手とするコースや球種を投げるなどする。

投手は、全ポジションの中で試合の勝敗に及ぼす影響が最も大きく、また、肉体的・精神的負担が最も厳しいポジションである。スタミナの消耗は激しく、あまりに数多くの球を投げるとを故障(負傷)する危険性がある。ボークの適用や全選手中唯一の白いグラブの着用禁止など、もっとも多くの規則に縛られるポジションであり、暴投といった投手のみに課せられうるミス、チームの守りの要としての責任なども挙げられる。しかし、その反面、打者と一対一で対戦できる事や、打ち取ることの楽しさ、投手のみが得られるタイトルや表彰もある。日本では、投手は、野球の主役であり、もっとも華のあるポジションであるとされる。自分が中心だというわがままな性格もピッチャーには必要だと言われる(一方、北中米においては遊撃手が花形のポジションとされ、運動能力に優れた選手は優先的に遊撃手となり、日本における「エースで四番」が「ショートで四番(あるいは三番)」に置き換わる)。

守備

投手は投球を終えた時点で他の内野手と同様守備をすることになるが、ピッチャーゴロやピッチャーフライはさばきやすいことが多く、それほど高い守備力は求められない。但し一塁手がゴロを追い一塁を離れた時、打者走者アウトにするために投手は打者走者より先に一塁をカバーし、送球を受けてアウトを完成させる。

またヒットなどで外野から本塁(三塁)への送球が考えられる時、外野と本塁(三塁)を結ぶ線上のファウルゾーンに入り、送球が逸れた場合に備える。さらには走者三塁で暴投捕逸が出ると、走者の生還を許し失点に繋がりかねない。このような状況では投手は本塁上に立ち、捕手からの送球を受ける準備をしなければならない。

バントによる小飛球を除くと、投手の守備範囲内のフライの多くは、捕手や一塁手、三塁手が処理する。これは投手の疲労や怪我を回避する目的や、打球処理機会が多く慣れていると思われる選手に任せた方が確実、との考えから来ている。

稀に強打のライナーが投手めがけて飛んでくることがあるが、これを「ピッチャー返し」という。投球後バランスが崩れた体に最短距離かつ高速で飛んでくるピッチャー返しは非常に危険で、投手が大怪我を負うこともある。

さらに、塁上の走者に盗塁されない、または、進塁されにくくするために、その塁をカバーする選手に牽制球を投げることもある。

打撃

投手は守備の中心を担うため、打撃に関しては多くは求められないことが多い。リーグによっては打撃を務める指名打者という打撃専門の選手を置くルールを採用することもあり、そのルールの下では投手が打撃を行わない場合がほとんどである。指名打者制がない場合も投手は作戦上安打を打てないのを前提として、走者がいる時にはバントを試みることが多い。また「2死」や「大差でリード」、「凡退でチャンスが潰れる」場面で打席が回った際にわざと本塁から最も離れて立って三振し、投球に負担を掛けない(走者になると接触プレー等での怪我の可能性がある)、ランナーがいる場合に安易に打っての併殺を防ぐ、自軍の攻撃を上位打線から始めさせ、次打者以降に安打を期待という先を見越した作戦を取る事もよくある。ただしこれには「わざと三振するのはスポーツマンシップ上問題」とする意見もある。

このように様々な理由で、特にプロ野球の投手に打撃力は求められないが、稀に打撃に優れる投手も存在する。メジャーリーグベースボールナショナルリーグでは、最も打撃に優れた投手にシルバースラッガー賞が与えられる。マイク・ハンプトンは2001年には7本塁打を放つなどし、同賞を投手として最多の5度受賞している。また2009年、川上憲伸代打として2試合に出場した。

少年野球などでは、運動能力に優れている選手が、投手と打者の両方の実力で他の選手を上回ることがある。高校野球でも、投手が上位打線に組み込まれていることが多い。そのため、嶋重宣石井琢朗などのように投手としてプロ入りした後、打者に転向する選手は比較的多い。対照的に、野手がプロ入り後に投手に転向した例は野口正明ティム・ウェイクフィールドなど極少数である。その理由は、投手の技術は野手の技術と大きく異なり、習得に時間を要するからである。

野手は右投左打の選手も多いが、投手は利き腕と同じ側の打席に入る選手が多い。理由は右投左打(左投右打)の場合、打席に立った時に投球腕である右側(左側)を相手投手に向けることになってしまい、死球を受けるなどして負傷すると投球に支障をきたすからである。

進塁した投手がウインドブレーカーを着ることがある。これは肩を冷やさない、擦り傷を防ぐ意味があり、コーチ監督が着ているが、選手としては投手のみ許されている。

分類

利き腕による分類

投手は利き腕でボールを投げることが多く、右投げ左投げサウスポー)の区別がある。極稀に「両投げ」の投手(スイッチピッチャー) も存在する。

カーブ」「シュート」「スライダー」などの左右に変化する変化球は、投手の利き腕の左右により逆方向に変化する。即ち、右投げ投手のスライダーが右打者視点で外角に逃げていくのに対し、左投げ投手のスライダーは右打者視点では内角に食い込む変化となる。

右腕投手・左腕投手の状態的差違はセットポジション(投球前に制止する姿勢)で最も如実に現れる。右投手が3塁方向を向いて静止するのに対し、左投手は1塁方向を向いて静止する。走者が1塁にいる場合、左投手は投球の直前まで走者の動きを捉えることができるため有利と言われる。

特に左打者は左投手を苦手にする場合が多いとされるため、左打者を専門に抑える「ワンポイントリリーフ」などと呼ばれる起用法がある。

なお、先発で登板した投手は同一イニング内に最低1人の打者との対戦を終えるまで交代できない。救援投手は最低1人の打者との対戦を終えるか、そのイニングが終了するまで交代できない。投手コーチ等がマウンドに行ける回数についても、1人の投手につき、同一イニング内に1回と決められている。

投法による分類

thumb|400px|オーバースローの投球モーション(右投げの場合) 投手は投球腕の左右にかかわらず、投球のフォーム(投球の際に球を放す位置)で以下の3ないし4種類に分類される。

  • オーバースロー:肩より上にあげた腕を振り下ろして球を投げる投げ方。<ref name="chi">朝日新聞社知恵蔵2007』 2007年</ref>「オーバーハンド」、「上手投げ」とも。
  • サイドスロー:腕を地面とほぼ並行にして投げる投法。<ref name="chi"/>「サイドハンド」、「サイドアーム」、「横手投げ」とも。
  • スリー・クォーター:オーバースローとサイドスローの中間の投げ方。<ref name="chi"/>
  • アンダースロー:腕を下からすくい上げるようにして投げる投げ方。<ref name="chi"/>「サブマリン」、「下手投げ」とも。

大まかな分類は上記の通りであるが、投手の投球フォームは千差万別であり、同じ投法に分類されていても必ず個人差は存在するため、あくまでも概念的な分類でしかない。

特に個性豊かな投球フォームにはニックネームが付けられることがある。野茂英雄の「トルネード投法」、村田兆治の「マサカリ投法」、山内泰幸の「UFO投法」、村山実の「ザトペック投法」などが知られる。

役割による分類

投手は役割によって大きく2つに分類される。試合開始からマウンドに立つ先発投手スターター)と、試合展開によって途中イニングから先発投手に代わり登板する投手救援投手リリーフ)である。リリーフはさらに試合を決める終盤イニングに登板する抑え投手クローザー)、先発投手と抑え投手の間に投げる中継ぎ投手セットアッパー)、などに分類される。

野球の歴史における役割の変化

日本プロ野球草創期では、野球の人体に与える影響が全くの模索段階にあったことと、不人気による人員不足のため、戦前から戦後の混乱期までしばしば無謀な先発連投が強要された。さらに戦時中は、国威発揚の為の非科学的な精神論の横行も先発投手酷使の大きな原因となった。セントラル・リーグパシフィック・リーグの2リーグ制に移行後、人員不足はある程度解消され、先発投手の登板間隔を2日、3日と長めにとるようになり、間隔日数を表す「中○日」(中2日、中3日など)という言葉が使われるようになった。それでもエースピッチャーが先発・リリーフに連投する姿が見られ、1958年日本シリーズでは稲尾和久西鉄)が先発とリリーフで4連投4連勝する大活躍で「神様仏様稲尾様」と称えられた。1961年中日ドラゴンズに入団し、酷使により数年で投手生命を絶った権藤博の教訓から、「投手分業制」が近藤貞雄によって提唱され、「先発完投」から「先発-抑え」の投手起用へ移行。抑え投手を確立することで先発投手、特にエースの疲労軽減を図った。1980年代以降は「先発-中継ぎ-抑え」という継投策が一般化している。先発投手の登板間隔は日本プロ野球では試合日程の都合から中4〜6日が主流。5〜6人の先発投手でローテーションを組み、順番に先発登板する起用法が行われている。

プロで先発投手の合理的な起用法が研磨されている一方で、高校野球では「負ければ終わり」の一発勝負の大会がほとんどということもあり、抜きん出た投手が先発連投することが珍しくなく、投手の選手寿命を縮めているという批判が根強い。しかし、2000年代以降は高校野球でもプロに習い、多投手で試合を乗り切るチームも出てきている。

メジャーリーグベースボールでは、先発投手が1登板で120球以上を投げた場合には、その後の登板成績に影響が出て怪我のリスクが高まるという統計結果が出ているため<ref>Template:Cite web</ref><ref>Template:Cite web</ref>、100球を超えた回で交代させるケースが多いが<ref>Template:Cite web</ref>、ダスティ・ベイカーの様に投球数をあまり気にしない監督も存在する。また、若年期でのトミー・ジョン手術等も問題視されているため、リトルリーグでは年代ごとに投球数・登板間隔制限が設けられている<ref>Template:Cite web</ref>。

投手の記録

勝敗に直接関わった投手を「責任投手」と呼び、「勝利投手(勝ち投手)」と「敗戦投手(負け投手)」がある。また、自チームのリードを最後まで守り抜き、自チームの勝利を確定させた救援投手には「セーブ」が記録される。これらの記録の条件について詳しくはそれぞれの項目を参照のこと。なお、引き分けとなった試合でも各チームの最後に登板した投手に対して「引分」が記録される。

防御率など上記以外の投手の各記録については、野球の各種記録を参照のこと。

表彰

プロ野球で投手に与えられる表彰または賞には以下のものがある。

日本プロ野球

公式タイトル
特別表彰および非公式タイトル

MLB

公式タイトル
特別表彰および非公式タイトル

投手の敬称

一般に日本のメディアでは選手への敬称として内外野手・捕手を問わず「○○選手」と呼ぶが、投手だけは「○○投手」と呼ぶ。

投手と背番号

日本において、背番号18番はピッチャーでエース格に与えられて来た。これは日本独自の慣習で、阪神の若林忠志が元祖とされている。また、別所毅彦村山実斎藤雅樹野茂英雄などが背負っていた11番も投手の番号として定着している。中日では歴代のエースに20番を与えている。 他にも、34番(金田正一)・47番(工藤公康)=左投手や、巨人において17番=完全試合・右のエース(藤本英雄槙原寛己)などのイメージが定着している。

用語

本節では投手に帰せられる野球用語について解説する。

  • 一発病
被安打が少ない代わりに被本塁打が多い投手(の状態)に対する俗称。
投手が打者を打ち取るために敢えて投げるボール球(捨て球・遊び球・見せ球・釣り球)のこと<ref name="MLB">Frisaro, Joe "Are 'waste' pitches truly a waste?" - MLB.COM、2009年6月18日、2010年4月21日閲覧。</ref>。
  • エース
チームで最高の投手<ref>先発投手であることが多い。チームで最高の救援投手は「リリーフエース」と呼ばれることがある。</ref>のこと。19世紀の投手エイサ・ブレイナードが語源とされている。
  • 炎上
投手が自分の投げたイニングで相手打線を抑えられず大量失点すること。
  • 逆球
アウトコースを狙った投球がインコースに向かうなど、投手の意図や捕手のリードとは逆方向に向かう投球のこと。
  • 劇場型投手
失点のピンチを招くが、結果的に抑える投手に対する俗称。
  • 失投
投手の意図や捕手のリードに反する投球のこと。逆球と同様に制球が定まらない場合のほか、変化球が変化しない場合などにも使用される。
  • 速球派
速い速球を投げる投手のこと。パワーピッチャー (power pitcher) とも。
  • 軟投派
速球は遅いが、変化球や制球に優れた投手に対する俗称。技巧派、コントロールピッチャー (control pitcher) とも。
  • ノーコン<ref>「ノー・コントロール」の略。和製英語。</ref>
投手の制球が定まらないこと、またはその投手自身のこと。制球難とも。
投げた投手本人にも球がどこに行くのかわからないので、打者にとってはコースの予測が難しいという面もある。しかし反面投球テンポが安定せず、そのため野手の集中力が途切れて失策を誘発する要因にもなりかねない<ref name="野球の科学" >『野球の科学』 32頁</ref>。
ノーコンになる原因は、投球フォームが安定しない、つまり投げる度にリリースポイントや腕の出し方がずれていくことによることが多い。フォームが安定しない原因としては、精神面の動揺や経験不足、下半身の力不足などが挙げられる。直球のスピードにこだわってフォームを崩すこともある。また、ボールの握り方に問題があり、回転が安定していない場合もある<ref name="野球の科学" />。ノーコンを装って故意に危険球を投げる投手もいる。
盗塁やスクイズプレイを警戒・阻止するためにストライクゾーンから大きく外れた投球をすること。
  • 本格派
速い速球と先発完投能力を兼ね備えた投手に対する俗称。

脚注

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参考文献

関連項目

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