坊つちやん
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Template:出典の明記 Template:Portal 『坊っちゃん』(ぼっちゃん)は、夏目漱石の中編小説。1906年、「ホトトギス」に発表。のち『鶉籠』(春陽堂刊)に収録された。
作者の松山での教師体験をもとに、江戸っ子気質の教師が正義感に駆られて活躍するさまを描く。漱石の作品中、最も多くの人に愛読されている。
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作品解説
漱石が高等師範学校(後の東京高等師範学校)英語嘱託となって赴任を命ぜられ、愛媛県尋常中学校(松山東高校の前身)で1895年4月から教鞭をとり、1896年4月に熊本の第五高等学校へ赴任するまでの体験を下敷きに、後年書いた小説である。主人公は東京の物理学校(東京理科大学の前身)を卒業したばかりの江戸っ子気質で血気盛んで無鉄砲な新任教師である。人物描写が滑稽で、わんぱく坊主のいたずらあり、悪口雑言あり、暴力沙汰あり、痴情のもつれあり、義理人情ありと、他の漱石作品と比べて大衆的なため、より広く愛読されている。それ故、青少年への読書課題にも、よく選出され、しばしば、映画やテレビドラマの原作としても取り上げられている。
漱石自身は自らが示唆するように、作品中では教頭の「赤シャツ」なのだろうか。『私の個人主義』には、次のように書いている。
- 「当時その中学に文学士と云ったら私一人なのですから、もし「坊ちゃん」の中の人物を一々実在のものと認めるならば、赤シャツはすなわちこういう私の事にならなければならんので、――はなはだありがたい仕合せと申上げたいような訳になります。」『現代日本の開花』には、「現代日本の開化は皮相上滑(うわすべ)りの開化であると云う事に帰着するのである。」(「上滑り」は漱石が作った言葉)
漱石は当初、人生に対して余裕を持ってのぞむ『余裕派』と言われていたが、実際は、文明開化により急速に流れ込む圧倒的な西洋文明の中で、「上滑り」に苦しんでいたのである。
『坊っちゃん』は、決して、単純な勧善懲悪の物語などではなく、現に、善玉たる坊っちゃん達は、悪玉たる赤シャツ達に勝利してはいない。何故なら、うらなりの左遷を防いだ訳でもなければ、山嵐の濡れ衣を晴らしたり復職を勝ち取った訳でもなく、むしろ、邪魔者である坊っちゃん達が去った後の中学校における赤シャツ達の立場は安泰であろう。故に、『坊っちゃん』は、むしろ、敗北と挫折の物語と言える。だが、漱石の独特なリズムとテンポに満ちた文体の魅力によって、読者は深い感銘に満ちた爽やかな読後感を得る事が出来る。だからこそ、所詮、敗残者が一矢報いたに過ぎぬ赤シャツ達に対するリンチ事件が痛快無比な悪人退治に感ぜられるのである。
井上ひさしは、『坊っちゃん』の映像化が、ことごとく失敗に終わっているとする個人的見解を述べ、その理由として、『坊っちゃん』が、徹頭徹尾、文章の面白さにより築かれた物語であると主張している<ref>『児童文学名作全集1』 福武文庫 あとがき</ref>。
『坊っちゃん』は『仮名手本忠臣蔵』を下敷きにしているとする見方もある。
あらすじ
「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている」坊っちゃんは、父親と死別後、親の残した遺産を学費に東京の物理学校に入学。卒業後は学校の誘いに「行きましょうと即席(そくせき)に返事をした」ことから四国の旧制中学校に数学の教師として赴任した。初めての宿直の夜に寄宿生達から手ひどい嫌がらせを受けた坊っちゃんは、寄宿生らの処分を訴えるが、教頭の赤シャツや教員の大勢は事なかれ主義からうやむやにしようとする。坊っちゃんは、このときに唯一筋を通すことを主張した山嵐には心を許すようになった。やがて坊っちゃんは、赤シャツがうらなりの婚約者への横恋慕からうらなりを左遷したことを知り義憤にかられる。このことで坊っちゃんと山嵐は意気投合する。しかし、赤シャツの陰謀によって山嵐が辞職に追い込まれることになってしまう。坊っちゃんと山嵐は、赤シャツの不祥事を暴くための監視を始め、ついに芸者遊び帰りの赤シャツと その腰巾着の野だいこを取り押さえる。芸者遊びについて詰問するが、しらを切られたため、業を煮やし鉄拳により天誅を加えた。即刻辞職した坊っちゃんは、東京に帰郷。街鉄(後に都電と呼ばれるようになる路面電車のこと)の技手となった。
登場人物
- 坊っちゃん
- 本編の主人公、語り手。「坊っちゃん」とは、清が主人公を呼ぶ呼び方である。無鉄砲な江戸っ子気質の持ち主で、四国の中学校で数学教師になる。多田満仲(ルビは「ただのまんじゅう」)の子孫と称している<ref>夏目漱石は、満仲の弟、満快の子孫。</ref>。
- 清
- 坊っちゃんの家の下女。明治維新で零落した身分のある家の出。坊っちゃんを溺愛している。なお漱石の妻鏡子の本名は「キヨ」である。
- 山嵐
- 数学の主任教師。会津出身。正義感の強い性格で生徒に人望がある。坊っちゃんとの友情を得る。名字は堀田。
- 赤シャツ
- 教頭。文学士。陰湿な性格で、坊っちゃんから毛嫌いされる。
- 野だいこ
- 画学教師。東京出身。赤シャツの腰巾着。名字は吉川。
- うらなり
- 英語教師。お人よしで消極的な性格。延岡に転属になる。名字は古賀。
- マドンナ
- うらなりの婚約者だった令嬢。赤シャツと交際している。坊っちゃん曰く、「水晶の珠を香水で暖ためて、掌へ握ってみたような心持ち」の美人。作中のキーパーソンだが、セリフはなく出番もわずか。名字は遠山。
- 狸
- 坊っちゃんの学校の校長。事なかれ主義の優柔不断な人物。
「坊っちゃん」の表記
「坊っちゃん」のタイトルは「坊ちゃん」と誤って書かれることがある。初期の書籍を見ると、「っ」付きとなしとが混在している。作者である漱石自身も表記は一貫していなかったとされる。ただ、原稿(複製)を見ると、確かに「つ」付きとなっている。
関連作品
小説
- 羽里昌『その後の坊っちゃん』1986年5月
- 小林信彦 『うらなり』2006年2月 - 延岡に転属となった英語教師古河(うらなり)のその後を描く。
映画
- 『坊つちゃん』(1935年 監督山本嘉次郎 坊っちゃん:宇留木浩、マドンナ:夏目初子、清:英百合子、山嵐:丸山定夫、赤シャツ:森野鍛冶哉、野だいこ:東屋三郎、うらなり:藤原釜足、狸:徳川夢声)
- 『坊っちゃん』(1953年 監督丸山誠治 坊っちゃん:池部良、マドンナ:岡田茉莉子、清:浦辺粂子、山嵐:小沢栄、赤シャツ:森繁久弥、野だいこ:多々良純、うらなり:瀬良明、狸:小堀誠)
- 『坊っちゃん』(1958年 監督番匠義彰 坊っちゃん:南原伸二、マドンナ:有馬稲子、清:英百合子、山嵐:伊藤雄之助、赤シャツ:トニー谷、野だいこ:三井弘次、うらなり:大泉滉、狸:伴淳三郎)
- 『坊っちゃん』(1966年 監督市村泰一 坊っちゃん:坂本九、マドンナ:加賀まりこ、山嵐:三波伸介、赤シャツ:牟田悌三、野だいこ:藤村有弘、うらなり:大村崑、狸:古賀政男、小使:三木のり平、その他:桜むつ子)
- 『坊っちゃん』(1977年 監督前田陽一 坊っちゃん:中村雅俊、マドンナ:松坂慶子、清:荒木道子、山嵐:地井武男、赤シャツ:米倉斉加年、野だいこ:湯原昌幸、うらなり:岡本信人、狸:大滝秀治、小夜:五十嵐めぐみ、〆香:宇都宮雅代、小使:今福将雄)
テレビドラマ
- 『坊っちゃん』(1957年 日本テレビ 坊っちゃん:宍戸錠、赤シャツ:十朱久雄、野だいこ:西川敬三郎、うらなり:春日俊二、その他:村瀬幸子、浜田寅彦)
- 『坊っちゃん』(1960年 NET(現テレビ朝日) 坊っちゃん:高島忠夫、マドンナ:安西郷子、山嵐:田島義文、赤シャツ:十朱久雄、野だいこ:谷晃、うらなり:瀬良明、狸:中村是好)
- 『坊っちゃん』(1965年 フジテレビ 坊っちゃん:市川染五郎、マドンナ:喜浦節子、山嵐:加藤武、赤シャツ:北村和夫、野だいこ:三木のり平、狸:三島雅夫)
- 『坊ちゃん』(1966年 NHK 坊っちゃん:津川雅彦、マドンナ:入江若葉、山嵐:ハナ肇、赤シャツ:佐藤慶、野だいこ:谷啓、うらなり:石橋エータロー、その他:益田喜頓、横山道代、浦辺粂子、なべおさみ)
- 『坊っちゃん』(1968年 MBS 坊っちゃん:石田太郎、マドンナ:三井美奈、山嵐:名古屋章、赤シャツ:仲谷昇、野だいこ:藤岡琢也、うらなり:西本裕行、狸:高木均)
- 『ザ・ドリフターズの坊っちゃん』(1970年 NET 坊っちゃん:加藤茶、マドンナ:松原智恵子、山嵐:荒井注、赤シャツ:いかりや長介、野だいこ:仲本工事、うらなり:高木ブー)
- 『坊っちゃん』(1970年 日本テレビ 坊っちゃん:竹脇無我、マドンナ:山本陽子、山嵐:田村高廣、赤シャツ:米倉斉加年、野だいこ:牟田悌三、うらなり:小松政夫、狸:松村達雄、その他:財津一郎、木田三千雄、佐々木すみ江、江戸家小猫、野島昭生、安原義人)
- 『新・坊っちゃん』(1975年 NHK 坊っちゃん:柴俊夫、マドンナ:結城しのぶ、山嵐:西田敏行、赤シャツ:河原崎長一郎、野だいこ:下條アトム、うらなり:園田裕久、狸:三國一朗)
- 『新 坊っちゃん』(1987?年 フジテレビ 坊っちゃん:渡辺徹、伊藤麻衣子、下川辰平、庄司永建、小野ヤスシ、及川ヒロオ、八木昌子、奥田圭子(奥田佳子)、藤井一子、小沢なつき、石丸謙二郎、佐渡稔、嶋英二、幸内康雄、花井直孝、工藤静香、利根川龍二、向井薫、原作:羽里昌『その後の坊っちゃん』)
- 『坊っちゃん -人生損ばかりのあなたに捧ぐ-』(1994年 NHK 坊っちゃん:本木雅弘、マドンナ:千堂あきほ、清:加藤治子、山嵐:所ジョージ、赤シャツ:江守徹、野だいこ:渡辺いっけい、うらなり:宮川一朗太、狸:フランキー堺、ぎん:由紀さおり、森田:中条静夫、モナリザ:高岡早紀)脚本:内舘牧子
- 『坊っちゃんちゃん』(1996年 TBS 坊っちゃん:郷ひろみ、マドンナ:清水美砂、清・クロ(二役):樹木希林、いか銀:名古屋章、山嵐:金田明夫、赤シャツ:井上順、野だいこ:嶋大輔、うらなり:平田満、狸:ケーシー高峰)
舞台・ミュージカル
アニメ
- 『坊っちゃん』(1980年フジテレビ版) 監修:出崎統、キャラクター原画:モンキー・パンチ、声の出演 坊っちゃん:西城秀樹、山嵐:納谷悟朗、赤シャツ:八奈見乗児、野だいこ:田の中勇、うらなり:山田康雄、狸:永井一郎、清:麻生美代子、チビ:野沢雅子、北村弘一、鈴木れい子、嶋俊介、ナレーター:久米明
- 当時フジテレビで放送されていた『日生ファミリースペシャル』の中の一作品として放送される。マドンナは登場するが、台詞が一切無い。
- 『坊っちゃん』(1986年日本テレビ版)キャラクターデザイン:本宮ひろ志、声の出演 坊ちゃん:安原義人、山嵐:飯塚昭三、赤シャツ:中村正、マドンナ:滝沢久美子、野だいこ:はせさん治、狸:神山卓三、うらなり:林一夫、清:京田尚子、語り手:木内みどり
- 日本テレビで放送された青春アニメ全集の中の1作品として放送された。
マンガ
- 『「坊っちゃん」の時代』(原作:関川夏央 作画:谷口ジロー) - 本作執筆中の漱石を中心に明治末期の文学者達を描いた作品。
- 『BOCCHAN 坊っちゃん』(作画:江川達也) - コミック・ガンボ連載、「坊っちゃんは、明治のサムライである」という観点の元、『坊っちゃん』を江川流の解釈でコミカライズした作品。
- 『坊っちゃん』(作画:水島新司) - 若干アレンジしてある。
パロディ
- テレビドラマ『浅見光彦シリーズ』「坊っちゃん殺人事件」(2001年9月24日放送)
- アニメ『ヤッターマン』の第103話「シッパイツァーだコロン」(1978年12月23日放送)では、ゾロメカが坊っちゃん仕立てとなっている。ヤッターマン側がカボッチャン(カボチャ+坊っちゃん)・イモアラシ(イモ+山嵐)、ドロンボー側がアカシャツノカブ(赤シャツ+カブ)・ノダイコン(野だいこ+ダイコン)・プリマドンナ。
- 石原豪人 『謎とき・坊っちゃん』 作品の疑問点は、登場人物が全員ホモなら説明がつくという怪著。
- 小説
「坊っちゃん」を付けた施設・商品等
作品中では舞台は「四国」としか表現されてないが、漱石の体験や方言から推測することにより松山が舞台となっていると考えられる。市内及びその周辺部には「坊っちゃん」や「マドンナ」を冠した物件等が多数存在する。代表的なものは下記に示すとおりである。
- 坊っちゃん湯 - 道後温泉本館のこと
- 坊っちゃん列車
- 坊っちゃんスタジアム(サブグラウンドは「マドンナスタジアム」)
- 坊っちゃんエクスプレス(松山-高松間の高速バス。なお岡山方面は「マドンナエクスプレス」)
- 坊っちゃん団子
- 坊っちゃん文学賞
- 坊っちゃん劇場
- ぼっちゃりん(松山けいりん公式マスコット)
- 坊っちゃん(東京理科大学創立125周年記念公式キャラクター)
その他、商品名、店舗名に「坊っちゃん」冠したものがある。なお、「坊ちゃん」と「っ」抜きで誤って表記されているものも散見される。
脚注
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参考文献
- 島田裕巳著『誰も知らない『坊っちゃん』』(牧野出版、2008年) ISBN 978-4-89500-121-2
関連項目
- 粟飴 - 作中では「越後の笹飴」として登場する。
- 伊予弁 - 「なもしと菜飯は違うぞな、もし」など誇張された松山の方言が登場する。語尾に「~なもし」とつけるのは大正生まれの人あたりまでで、現在はほとんど使われていない言い方。
外部リンク
- 『坊っちゃん』:新字新仮名(青空文庫)
- 坊っちゃん列車に乗ろう(伊予鉄道株式会社)
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