ヒト免疫不全ウイルス

出典: Wikipedio


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Template:生物分類表 ヒト免疫不全ウイルス(ヒトめんえきふぜんウイルス、Template:Lang-en-short)は、人の免疫細胞に感染し免疫細胞を破壊して、最終的には後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症させるウイルスである。俗に「エイズウイルス」と呼ばれることがあるが、正式な名称ではない(病原性の項目を参照)。

目次

概要

thumb|200px|right|ヒト免疫不全ウイルス(模式図)上段:細胞から出芽直後の未成熟(immature)なウイルス粒子。下段:出芽後に成熟(mature)したウイルス粒子。 ウイルスの分類上は、エンベロープを持つプラス鎖の一本鎖RNAウイルスであるレトロウイルス科レンチウイルス属に属する、HIV-1(Human Immunodeficiency Virus type1)とHIV-2(Human Immunodeficiency Virus type2)が存在する。

霊長類を自然宿主とするサル免疫不全ウイルス(Simian Immuno-deficiency Virus, SIV)が、突然変異によってヒトへの感染性を獲得したと考えられている。ウイルスの塩基配列を比較すると、HIV-1はチンパンジーから分離されたSIVcpzに近く、HIV-2はマカクやマンガベーなどのサルから分離されたウイルスSIVmacSIVsmmに近い。この様な事から、SIVに感染したサルからヒトへと感染し、HIVに進化した物と考えられている。HIV-1とHIV-2の基本的な遺伝子の構造はほぼ同じであるが、塩基配列の相同性は低く60%ほどである。最も大きな遺伝子の相違は、HIV-1にはvpu、HIV-2にはvpxがそれぞれに存在する事である。またこの相違はSIVcpzSIVsmmの間にも見られる事から、HIV-1とHIV-2はそれぞれ独立した祖先から、人間に感染する能力を持ったウイルスに進化したものと考えられている。

HIV-1は塩基配列により3群に分類されている。グループM(Major)、グループO(Outlier)、グループN(non-M/non-O)に分けられるが、世界的に分布しているウイルスの多くがグループMに属している。グループMはさらにA、B、C、D、E(後に組換え体であるCRF01_AEである事が判明。純粋なEは未発見)、F、G、H、J、Kの10のサブタイプに分類される。更にこのサブタイプ間での組換え体が存在し、CRF(circulating recombinant form)が15種類確認されている。日本の感染者の主なサブタイプは、BとCRF01_AEであり、サブタイプBがおよそ75%、CRF01_AEが20%、残りがそのほかのサブタイプとなっている。

2009年、HIV-1にゴリラ由来とみられる新種が発見され、グループPとして分類された。<ref>Template:Cite news</ref>

歴史

1983年パスツール研究所リュック・モンタニエフランソワーズ・バレシヌシらによってエイズ患者より発見され、LAV(Lymphadenopathy-associated virus)と命名された。1984年アメリカ国立衛生研究所(NIH)のロバート・ギャロらも分離に成功しており、HTLV-III(Human T-lymphotropic virus type III)と命名した。続いてカリフォルニア大学サンフランシスコ校のレヴィらも分離に成功しARV(AIDS-associated retrovirus)と命名された。1985年にモンタニエらが別のエイズの原因ウイルスを分離し、LAV-2(Lymphadenopathy-associated virus-2)と命名された。LAV、HTLV-IIIおよびARVは、後にいずれも同じウイルスである事が明らかとなりHIV-1と改称され、LAV-2はHIV-2と改称された。

最初の発見者をめぐってモンタニエとギャロの仏米の研究チームが長年にわたって対立し、1994年に両者がともに最初であるとして決着したが、長期の対立はエイズ治療薬の特許が絡むもので、治療薬の発売を遅らせないための政治的決着であった。

2008年10月6日、フランスのモンタニエとバレシヌシの二人がウイルスの発見者として2008年のノーベル生理学・医学賞を授与されることが発表された<ref>読売新聞「ノーベル生理学・医学賞、ウイルス発見の独仏3氏に」2008年10月6日</ref> <ref>Template:Cite news</ref> 。

ウイルスの性質

thumb|200px|right|HIV-1に感染し細胞変性効果(cytopathic effect,CPE)によって多核巨細胞化したT細胞(矢印) 非常に変異しやすいウイルスでありウイルスの表面抗原がそれぞれ違うといえるほど多種多様な型がある。その為、ワクチンを作成する事は困難である。特定の抗原に対して抗体を作ることが出来るワクチンを作成する事に成功したとしても、すぐに変異ウイルスが出現してしまい、臨床で実用することが難しい。

病原性

HIV免疫機能の発動に必要なCD4+T細胞というリンパ球などに感染し、比較的長い潜伏期の後に活性化してCD4+T細胞を破壊してしまう。CD4+T細胞が著しく減少すると体内の免疫力が極度に低下し、免疫が正常であれば排除できるような病原体にも簡単に感染する日和見感染を起すようになり、容態が不安定になる。進行すれば、その他の合併症等を引き起こし死に至る事も多い。

エイズとはこのように感染後の潜伏期を経て陥ってしまう免疫不全状態を指し、単にHIVに感染しただけ(HIVキャリア)ではエイズとは呼ばない。他にも、HIVは脳神経の免疫を担うミクログリア細胞に感染する事が判明しており、HIVに感染したミクログリア細胞が神経系組織に影響を及ぼし、精神障害や認知症など神経症状を呈するエイズ脳症を引き起こす。

感染経路

HIVは通常の環境では非常に弱いウイルスであり、一般に普通の社会生活をしている分には感染者と暮らしたとしてもまず感染することは無い。感染する原因の内訳は、肛門性交によって感染する割合が最も高い(必然的に同性間での性的接触による割合が多くなる)。それは妊娠のリスクが無い為、性交時にコンドームを使用せず、直腸内で射精する行為が多い為である。次いで異性間の膣性交によるものが多い。全体の多くは性行為による感染で、注射器の使い回しによる感染、母子感染などが後に続く。

一般に感染源となりうるだけのウイルスの濃度をもっている体液は血液精液膣分泌液母乳が挙げられる。

一般に感染しやすい部位としては粘膜(腸粘膜、膣粘膜など)、切創(せっそう)や刺創(しそう)などの血管に達すような深い傷などがあり、通常の傷のない皮膚からは侵入する事はない。その為、主な感染経路は以下の3つに限られている。

性的感染
性交による感染では、性分泌液に接触する事が最大の原因である。通常の性交では、女性は精液が膣粘膜に直接接触し血液中にHIVが侵入する事で感染する。男性は性交によって亀頭に目に見えない細かいができ、そこに膣分泌液が直接接触し血液中にHIVが侵入する事で感染する。その為、性交でなくても性器同士を擦り合わせるような行為でもHIV感染が起こる恐れがある。また肛門性交では粘膜に精液が接触しそこから感染するとされている。腸の粘膜は一層の為に薄く、HIVが侵入しやすい為、膣性交よりも感染リスクが高い。
コンドームの着用がHIVの性的感染の予防措置として有効である。ただし使用中に破れたり、劣化した物を気付かずに使用する場合があるため、完全に感染を防ぐことができるとは言えない。コンドームの使用に際しては、信頼できる製品を使用期限内に正しい用法で用いることが推奨される。
また割礼によって感染リスクが低減するという研究結果が複数ある。傷つきやすく、免疫関連細胞の多い包皮を切除することで、HIVの侵入・感染が抑えられる為だと考えられている。
なお口腔性器を愛撫する場合も、口腔内に歯磨きなどで微小な傷が生じていることが多く、そこに性液が接触することで、血液中にウイルスが侵入する恐れがある。
血液感染
感染者の血液が、輸血麻薬まわし打ち等によって、血液中に侵入する事で感染が成立する。特に麻薬・覚醒剤中毒者間の注射器・注射針の使い回しは感染率が際立って高い。以前は輸血血液製剤からの感染があったが、現在では全ての血液が事前にHIV感染の有無を検査され、感染のリスクは非常に低くなっている。医療現場においては、針刺し事故等の医療事故による感染が懸念され、十分な注意が必要である。
母子感染
母子感染の経路としては三つの経路がある。出産時の産道感染、母乳の授乳による感染、妊娠中に胎児が感染する経路である。
産道感染は子供が産まれてくる際、産道出血による血液を子供が浴びる事で起こる。感染を避ける方法として、帝王切開を行い母親の血液を付着させない方法があり、効果を上げている。
母子感染の経路として母乳による感染が報告されており、HIVに感染した母親の母乳を与える事は危険とされている。この場合は子供に粉ミルクを与える事によって、感染を回避する事が出来る。
胎内感染は、胎盤を通じ子宮内で子供がHIVに感染する事で起こる。物理的な遮断が出来ない為、感染を回避する事が難しい。感染を避ける方法として、妊娠中に母親がHAART療法により血中のウイルス量を下げ、子供に感染する確率を減らす方法がとられている。

臨床像

通常感染してから長期間経過した後に日和見感染症などを発症する。23の日和見感染症のいずれかを発症した場合にAIDS発症と判断される。

検査

Template:国際化 血液を採取することにより、HIVの感染の有無が検査される。

日本における検査機関について

検査は全国の保健所で匿名・無料で受ける事が出来るHIV検査・相談マップ)。また、自分の居住地以外の保健所でも検査を受ける事ができる。有料であるが、医療機関でも検査を受ける事が出来る。

都市部の保健所では、夜間や休日にも検査を行っている所があり、仕事や学業に影響を与えず検査できる体制を整えつつある。結果はおよそ一週間ほどで判明するが、近年は30分以内で判明する即日検査も普及し始めている。

通常は抗体検査(抗体スクリーニング検査)を行うが、ウインドウ期間が短くより感度の高いNAT検査(詳細は後述)を実施している保健所や医療機関もある。

検査が可能になる時期・ウインドウ期間

日本における保健所などの検査機関では現在、感染の機会があってから3ヶ月以上経過した後であれば、採血による血液検査でHIV特異抗体を確実に検出する事ができ、感染の有無を確認する事ができる。

これはHIVの感染初期においては抗体が十分に作られず、血液検査では検出できない期間があるためである。この期間をウインドウ期間(ウインドウピリオド・空白期間)と呼んでおり、この間に血液検査を行った場合、HIVに感染していても陰性(感染なし)と判断されてしまう。また、この期間には個人差もある。

HIV感染初期の体内でウイルスが増加するウイルス血症<ref>ウイルス血症に陥ると、人により発熱頭痛筋肉痛咽頭痛リンパ節の腫脹、皮疹などや風邪に似た症状が出る場合がある。</ref>に陥ってから(感染後~最大1ヶ月ほどと個人差がある)体内に抗体が作られる血清学的ウインドウ期間が平均22日(感染後4日~41日の間に陽性化するケースが95%<ref>ふたつのウインドウ・ピリオドとは</ref>)、通常の抗体検査で検出が可能なほど抗体が十分に増加するのは、感染後およそ1ヶ月~3ヶ月かかるといわれている<ref>HIV検査まめ知識(HIV検査・相談マップ)</ref>。この最大3ヶ月を考慮して、日本における保健所などの検査機関では検査を受けられるのは「感染の機会があってから3ヶ月以上経過した後」とされている。

ただし、最近は判定キットの精度の向上やNAT検査を同時に行うことにより、感染の機会があってから2ヶ月程度でも問題ないとされる検査機関もある

非感染者でも陽性反応が出るケース・偽陽性

抗体検査では非特異的な反応によって、HIVに感染してなくともあたかも陽性である(感染している)かのような「偽陽性」の結果が出る場合が0.3%(約1000人に3人の割合)ほどある。また、日本における保健所が行っている抗体検査でのHIV感染者の割合も0.3%であるため、日本の保健所で抗体検査を行った場合、陽性者の50%が偽陽性ということになる。即日検査(抗体迅速診断試薬)においては、さらに割合が高く非感染者の1%(約100人に1人)に偽陽性が確認されている<ref>HIV検査Q&A(HIV検査・相談マップ)</ref>。

そのため、抗体検査で陽性反応が出た場合、本当にHIVに感染しているかの確認検査が再度行われる(確定診断として、血中のウイルスRNART-PCR法によって検出するウイルスDNA検査も広く行われている)。

HIV感染の早期発見も参照。

献血における対応とNAT検査

献血で採取された血液からHIVやその他のウイルスの感染の有無を調べるため、日本赤十字社による献血では現在、抗体検査やNAT検査が行われている。

献血においては安全性の面から上述の検査を行っているが、HIVの感染においては陽性であってもその結果は献血者本人に知らせる事はない<ref>http://www.hivkensa.com/mame.html</ref>。「陽性であっても、その結果は献血者本人に知らせることは無い、と公表しているが、実際のところ告知を行っているかどうかは不明(場合によっては告知する場合がある)である」などという言説がよくあるが、これは全くの誤りであり、悪質なデマである。それは感染リスクのある人間が、検査目的で献血することを防ぐためである。一方で、通知しないことにより感染者が再び献血をしてしまう懸念もある。ウイルスが検出できないウインドウ期間があり、この期間に献血をしてしまうと、汚染血液が検査をすり抜けて輸血患者にウイルスを感染させてしまう。その為、決して検査目的で献血を行ってはならない<ref>http://www.pref.osaka.jp/chiiki/shippei/tokutei/aids/kenketsu.html</ref>。

感染が疑われる場合は、第一に上述の全国の保健所及び医療機関などに相談する事が先決である。また、被輸血者の自己防衛としては、緊急時以外の手術の際の輸血は、医療側に自己輸血や、家族・友人など信頼出来る人からの輸血のみで行うように申し出ることなどが考えられる。

HIVの感染後に抗体を検出できないウインドウ期間はおよそ1ヶ月~3ヶ月ほどである。ウイルス遺伝子を特別な方法で検出するため通常の抗体検査より感度の高い核酸増幅試験(NAT検査)<ref>核酸増幅試験(社団法人 日本血液製剤協会)</ref>では、感染初期の体内でウイルスが増加するウイルス血症に陥ってから(感染後~最大1ヶ月ほどと個人差がある)、平均11日から22日後に検出可能であり、NATより時間はかかるが平均22日以降では抗体によって検出が可能となる<ref>HIV検査まめ知識(HIV検査・相談マップ)</ref>。NATで検出が出来ない期間を「NATウインドウ期間」、抗体による検出が出来ない期間を「血清学的ウインドウ期間」という。感染が疑われる機会があった場合は、それから最低でも1ヶ月半以上経過の後に血液検査を行ってから献血を行うことが望まれる。

現在、NATは試薬が大変高価で検査費用が高い事、完全自動化されておらず一度に大量の検査ができない為、20検体を1つにプールしてNATを実施し(ミニプールNATと呼ばれている)、あるプール検体が陽性となった場合はプールされている20検体に対し、個別に再検査を実施し<ref>http://www.hokkaido.bc.jrc.or.jp/laboratory/info007.htm 個別に再検査を実施</ref>(個別NATと呼ばれている)、陽性の検体を特定して、その検体に対応する血液のみを輸血に使用しないという方法をとっている。

治療

HIVがレトロウイルスである事から、HIV自身が増殖に必要な酵素を阻害する、逆転写酵素阻害剤(NRTI)プロテアーゼ阻害剤非核酸系逆転写酵素阻害剤 (NNRTI) が開発され治療薬として使われている。現在のHIV治療はこれらを複数組み合わせて使用する。これは多剤併用療法、HAART(HAART療法、Highly Active Anti-Retroviral Therapy)、カクテル療法などと呼ばれている。また、ウイルスが細胞に取り付くところを抑制する薬剤(フュージョンインヒビター)の開発もされ、米国及び、EUで認可されている。HIV治療薬は適正な使用によりHIVの増殖を抑制し、患者の免疫機能を回復させ病勢の進行を遅らせるのに一定の効果があり、現在ではHIV感染症は長期にわたりコントロールできる疾患になりつつある。しかしHIV自体を体内から排除する根本治療ではない。

抗ウイルス薬を参照。

また、現在では抗ウイルス薬とは全く違うアプローチでHIVを阻止しようという試みもあり、臨床実験が行なわれている。

HIVとAIDS治療の一般論

一般的な医療機関にて

HIVに関しては、ガイドラインが半年ごとに改訂されるほど治療の進歩が激しい分野である。そのため、専門家以外治療することはできない。一般内科医としてできることは、スクリーニングと、安定期に入った場合のフォローアップだけである。そのあたりを重点的に纏める。

HIVは主に、CD4陽性Tリンパ球とマクロファージ系の細胞に感染する、レトロウイルスである。HIV感染症は大きく分けて、急性感染期、無症候期、AIDS期の3段階に分かれる。 感染後1~2週間で、急性感染期(大抵は感冒症状)が認められ、その後、無症候期となり患者ごとのHIVRNA量(セットポイント)に落ち着く。

無症候期が10年程度続くが、その間にCD4陽性T細胞数は徐々に減少していき、200/μl以下になると日和見感染症、日和見腫瘍が発生しAIDSとなる。 無治療の場合は、AIDS発症後2年程度で死亡する。急性期とAIDS期の長さに個体差は少なく、無症候期の長さに大きな個体差があることが知られている。 かつてはHIV感染者とAIDS患者を厳密に区別していたが、現在治療が極めて進歩したため、AIDS発症によって医療機関を受診した人も、日和見感染を起こさないCD4数まで回復するようになっており、あくまでもスペクトラムで理解するべき概念となった。

日本においてHIV感染者は、かつては血友病患者が大多数である、極めて特殊な疾患であった。その後、普通の性行為で感染するSTIとして認識がされるようになった。 重層扁平上皮で酸性に維持されている膣壁に比べて、単層立方上皮である直腸粘膜は、感染防御という点では弱く、アナルセックスを行う場合はリスクファクターとなる。事実、男性同性愛者のHIV感染者が多い傾向がある。 日本は先進国中、例外的にHIV感染者が増加する傾向がある。 HIV感染自体は、殆ど無症候であるために感染者、患者の多くは一般病院、診療所で発見されることが多い。具体的には梅毒、クラミジアといったSTIを契機に、または結核(HIVでは結核をおこしやすく、さらに重症化しやすいことが知られている)、帯状疱疹(繰り返す場合は特に重要)、肺炎、腔内カンジダなど、繰り返される感染症での発見が多い。

HIVというと日和見感染の方が有名だが、細胞性免疫の低下が起こるため、不自然な発症年齢で繰り返される感染症では、特に疑わなければならない。 好中球減少症では、好気性グラム陰性桿菌、腸球菌カンジダアスペルギルスが問題となるため、エンピリカルな治療が行われやすい。これに対して、細胞性免疫不全は、あらゆる種類の病原微生物の感染を起こすため、エンピリカルな治療を行わないのが通常である。強いて言えば細胞内寄生菌や麻疹、ヘルペスといった一般ウイルスの感染症が、細胞性免疫不全を疑える所見となる。 簡単に培養、検出ができず生検などが確定診断となるような感染症が多く、治療薬に毒性が強いものが多いというのも特徴の一つである。とはいえ、細胞性免疫不全は標準的な感染症の頻度も高くなるために、これらの特徴のみで診断を行うのは注意が必要である。

HIV患者の病勢は、PCRによって行うウイルス量とフローサイトメトリーによって行うCD4陽性細胞数で把握されることが多い。CD4数は現在の病態を反映する数値である。 正常ならば800~1200個/μlであるが、HIVに感染すると徐々に低下していく。500個/μl程度では帯状疱疹、結核、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫、200個/μl程度ではカリニ肺炎、トキソプラズマ脳症、100個/μlではクリプトコッカス髄膜炎、50個/μlではサイトメガロウイルス、非定型抗酸菌症を起こしやすいとされており、それぞれに適した予防投与やスクリーニング検査が求められる。

サイトメガロウイルス感染症は眼、消化器、神経で起こることが多いが、眼病変、サイトメガロウイルス網膜炎は、眼科医による視診がなければ診断は難しい。黄斑部に病変があれば視力低下にて気が付けることもある。 もう一つの指標が、PCRにて測定されるウイルス価である。ウイルス価は病気の進行速度を示す。おおよそ50個/μl以上のウイルスがあれば検出可能とされている。

ただし、現在のHIV療法である多剤併用療法は、決して根治的な療法ではなく、たとい血中のウイルス量が検出限界以下となっても、依然としてリンパ節や、中枢神経系などにウイルスが駆逐されずに残存(Latent Reservoir)していることが知られており、服薬を中止すると直ちにウイルスのリバウンドが起こってくる等の問題がある。

治療に関して

HIVの治療はHAART(ハート)療法と言われるものがある。2008年の3月に発行された厚生労働省のガイドラインによると、CD4陽性T細胞数が350個/μl以下になる前、あるいはAIDSを発症している場合に、HAART療法を開始するべきとしている。これは生命表解析から、3年後、AIDS発症のリスク30%以上とするデータと治療を行った場合、安定期には、正常人と同様のCD4陽性Tリンパ球数が得られる(安定期のリスク軽減目的)というデータに基づいて作られている。一般に感染症の化学療法は、1剤投与にて開始するのが通常である。

例外としてあげられるのが結核、ハンセン病、HIVなどであり、耐性の問題から最初から多剤併用化学療法を行う。標準的には、NRTI(ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤)2剤+NNRI(非ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬)1剤か、NRTI2剤+PI(プロテアーゼ阻害剤、HIV治療としては、原則として少量RTV、リトナビルを使用し、PIの血中濃度を上昇させる)1剤の併用療法が知られている。これらの治療効果は、HIV増殖を十分に抑制し、CD4陽性Tリンパ球数を増加させることである。

重症のカリニ肺炎などで緊急入院した場合、免疫機能の回復を目指し、抗HIV薬を開始したくもなるのだが、これは意味がない。むしろ、耐性を作り出し、HIVを難治化させるだけである。 さらに悪いことに、免疫再構築症候群という現象も知られている。免疫不全の患者は、感染量に比べると炎症は、実は軽度である。日和見感染症治療中に、HAART療法を開始すると免疫が賦活化することによって、日和見感染症が悪化することがある。 これが免疫再構築症候群(IRIS アイリス)である。そのようなことから、HAART療法は日和見感染症治療後に、開始することとなっている。

一般的には、免疫不全のあるHIV感染者に対して、HAART療法開始後数か月以内に、日和見感染症などの疾患が発症、再発、再増悪した場合に、免疫再構築症候群が疑われる。 治療は、プレドニゾロン1mg/kgにて開始し、週から月単位での減量や、デキサメサゾン8~16mg/日を、一日2回に分けて投与するという方法が知られている。 最悪の場合は、HAART療法中止に追い込まれる。

いずれにせよ、このような危険が付きまとうため、HAART療法は感染症専門医の下で開始されることが推奨されている。特に、CD4陽性Tリンパ球が低値、例えば50個/μl以下の場合は、眼底検査、胸部X線写真、真菌抗原といった検査を行ってから、HAART療法を行うことになっている。

HAART療法は、安定期まで持っていければ、殆どAIDSで死亡することはなくなった。ガイドラインで用いられているデータも、10年生存率まで記載されており、おそらく平均余命まで行くであろうというのが、大方の予想である(HIVの発見が1981年ということを考えると、ここまでデータがあれば十分である)。

治療効果判定に、治療開始後24週、48週のHIVウイルス量などが用いられるが、判定及び治療変更は、専門医の領域である。一般的にウイルス量は検出不能とするのが目標だが、そうならないことも多々ある。 400~1000copy/ml(治療開始前は55000copy/mlとかである)位でも、治療失敗の可能性が高い。その場合、服薬の問題、耐性の問題を考慮する。

遺伝子型耐性検査を行う際、耐性ウイルスが30%以上を占めない限り検出されないうえ、変異は多数見つかり、それにより発生する薬剤耐性が相加的でない。そのため、その解釈は非常に難しく、その結果に基づいた継続可能な、患者に合わせた多剤併用療法の作成というのは、非専門医では不可能である。 サルベージ療法として、新しいPIダルナビルなどが認可されているが、その効果予想や併用薬剤の選択などは極めて難しい。

治療留意点としては、基本的にHAART療法は、一生継続しなければならない。近年の薬は副作用も軽減され、剤型、内服時間もだいぶ改善されてきた(かつては食前薬、食中薬、食後薬と様々存在した)。 それでも基本的に3剤飲み、副作用対策の薬もあり、CD4陽性Tリンパ球数が十分に回復しなければ、日和見感染予防薬も、飲まなければならない。

有名な副作用としては、開始直後から出現し徐々に軽快する胃腸障害や精神障害、開始後1~3週で一過性に生じる皮疹、開始後1カ月以上経過してから生じ、持続する高脂血症、リポアトロフィー(脂肪分布の変化)、糖代謝異常(高脂血症と併せて年間30%リスクで虚血性心疾患のリスクが高まる、かつ、PIとNNRTIはスタチン系と併用禁忌)、末梢神経障害、稀だが重篤な乳酸アシドーシス(NRTIにてミトコンドリアDNA合成を阻害するため)などが知られている。

HIVはアメリカ、欧州で莫大な研究費をかけて、積極的に研究されてきた経緯があるために、過去の疾患と考えられがちな結核や、未だに培養すら満足にできない(うさぎの睾丸内では育つのだが)梅毒よりも、よく分かっている側面がある。いつまでも古い(副作用が強い)治療薬を使いまわしている結核とは異なり、最新鋭の治療が行えるという魅力はある。

安定期に入れば、一般内科でフォローアップし、専門医外来の通院数を減らすのが主流である。しかし、HIVによる消化器障害、脳症などもあり、少し頭痛がするというだけで、髄膜炎であったり、調子が悪いというだけの主訴で、乳酸アシドーシスであることもある。治療開始が遅れ、十分にCD4陽性T細胞数が回復しなかった場合は、特に症状に対する鑑別疾患が、通常の生活習慣病管理とは全く異なるため、何かと難しい側面もある。

HIV感染の早期発見

HIV感染症のCDC分類では、

  • 急性感染 (Acute seroconversion) - 伝染性単核球症様あるいはインフルエンザ様症状
  • 無症候性感染
  • 持続性全身性リンパ節腫脹 (PGL)
  • その他の疾患合併

の4群に分類されている。

このうち感染後2-4週で起こるといわれている、急性感染期の症状は、無自覚から無菌性髄膜炎に至るまで様々である。しかし多くの場合、数日から10週間程度で症状は軽くなり、長期の無症候性感染期に入るため、感染には気付きにくいのが現状である。

いずれにしても、HIV感染後の治療法が確立されてきている現在、いかに早期に発見し、可能な限り適切な時期に治療を開始できるかが、感染後の予後を左右する最重要事項である。

ただし検査の時期については、感染が疑われる時から最低1~3カ月以降とされている。体内にHIV抗体が出来るまでにある程度の時間を要するためで、感染後すぐだと正確な判別が困難とされているからである。

HIV感染症の診断は、HIV抗体検査が主流である。抗体スクリーニング検査である酵素抗体法 (ELISA)・粒子凝集法 (PA)などの結果が陽性で、かつ抗体確認検査であるWestern Blot法・蛍光抗体法 (IFA)もしくはHIV抗原検査・ウイルス分離及び核酸診断法(PCRなど)などの HIV 病原検査で陽性であった場合、HIV感染と診断される。

HIV-1の生物学

形態

成熟したウイルスの形状は球状の粒子であり、直径は約100nmである。球形の膜に囲まれた中心に、ウイルス遺伝子RNAとGAGタンパク質からなる核様体がある。核様体はGAGタンパク質のマトリックス(MA, p17)、キャプシド(CA, p24)、ヌクレオキャプシド(NC, p7)と2本のRNA、そしてプロテアーゼ(p10)、逆転写酵素(p66/p51)、RNaseH(p15)、インテグラーゼ(p31)などのウイルス酵素群からなる、正二十面体の結晶構造をしている。ウイルスの表面はエンベロープタンパク質であるGp120およびGp41と、宿主細胞膜由来の膜タンパク質が主成分である。

遺伝子

ウイルス粒子中のRNAはプラス一本鎖のRNAである為、宿主内ではmRNAの構造となる。RNAは5'末端にキャップ構造を持ち、3'末端にポリAを持つ。RNA全長はおよそ9000塩基対であり、9個の遺伝子と、両端にウイルスの転写及びその制御を行う配列を持つ。ウイルスRNAは逆転写酵素(RT)によって二本鎖DNAに変換され、インテグラーゼによって宿主DNAに組み込みプロウイルスを形成する。

LTR

LTR(Long Terminal Repeat)はウイルスゲノム両端にある、ほぼ同じ塩基配列が繰り返されている領域である。転写制御を行うプロモーターエンハンサー、NRE(Negative Regulatory Element)を有している。また、ウイルスゲノムを宿主ゲノムに挿入するインテグラーゼの認識配列がある。このように、LTRは核酸の制御を行う配列がまとまっている領域である。

gag

gag (group specific antigen) は、ウイルスの構造タンパク質をコードしている。翻訳されたタンパク質は、ウイルスのプロテアーゼによって6つのタンパク質とペプチドに切断される。

  • MA - マトリックス(matrix)の略である。MAは中心部の核様体と外套部(エンベロープ)を繋げる役割をもつ。タンパク質の質量からp17とも言われる。
  • CA - キャプシド(capsid)の略である。CAは核様体の基本骨格であり、正十二面対の構造を形成する。タンパク質の質量からp24とも言われる。
  • p2 - CAとNCの間にある、スペーサーペプチドである。
  • NC - ヌクレオキャプシド(nucleo capsid)の略である。ウイルスのゲノムRNAに直接結合し、RNAの凝集および保護を行っている。外側をCAに覆われて核様体を形成する。タンパク質の質量からp7とも言われる。
  • p1 - NCとp6の間にある、スペーサーペプチドである。
  • p6 - 細胞内でGAGタンパク質やVprを細胞膜に集め局在させるモチーフがある。このモチーフを破壊するとウイルスは出芽できなくなり、増殖する事ができない。

pol

polgag の下流にある、ウイルス酵素群をコードしている遺伝子が結合した領域である。pol開始コドンを持っておらず、リボソームgag のmRNAを-1フレームシフトする事によって翻訳される。従って、翻訳産物はGag-Polの融合タンパク質となる。そしてフレームシフトした結果、プロテアーゼが翻訳され自己消化し、プロテアーゼを融合タンパク質から切り出す。そしてプロテアーゼは残りのPolタンパク質を消化して、各ウイルス酵素を切り出す。

  • pro - プロテアーゼ(protease)の略である。翻訳産物は二量体を形成するアスパルティックプロテアーゼであり、活性中心にはアスパラギン酸スレオニングリシンからなるアスパルティックプロテアーゼ特有のモチーフを持つ。プロテアーゼは翻訳後、オートプロセッシングによって切り出された後、ウイルスのタンパク質を切断する。細胞質中での活性は低いが、ウイルスの発芽後にウイルス粒子内のpHが変わり最適な状態になると、Gag、Gag-Polを切断し、成熟(mature)したウイルス粒子を完成させる。ウイルスの成熟、各種ウイルス酵素の活性化に重要な役割を果たしているため、プロテアーゼ阻害剤による化学療法のターゲットとなった。
  • RT - 逆転写酵素(reverse transcriptase)をコードしており、プロテアーゼによって切り出された後、完全長のp66と一部プロセスされたp51とが二量体を形成する。レトロウイルス特有の逆転写を行う酵素であるため、逆転写酵素阻害剤による化学療法のターゲットとなった。RTによる逆転写はフィデリティ(正確性)が低い為、しばしば突然変異を引き起こす。このRTの不正確さがウイルスの変異を早める結果となり、ワクチンの作成を困難にし、更に薬剤耐性ウイルスの出現の要因となっている。
  • RNaseH - 一部プロセスされたRTの残りの部分p15には、RNaseHとしての機能領域がある。RNaseHは、DNAとRNAのハイブリッドからRNAだけを特異的に分解する酵素である。逆転写酵素がRNAを鋳型にDNAを合成した後、鋳型であるRNAを分解する事に作用している。
  • IN - インテグラーゼ(integrase)の略である。インテグラーゼは翻訳後に多量体を形成し、逆転写されて二本鎖DNAになったウイルスゲノムを、宿主ゲノムに組み入れる働きを持つ酵素である。ウイルス特有の酵素である為、その阻害剤 (en:Raltegravir) が開発され、米国で認可された。

vif

vif(Virion Infectivity Factor)は細胞質に存在し、ウイルス粒子が感染性を持つようになる因子であると考えられていた。しかしvif変異体の研究では、宿主細胞によって機能がまちまちであり、機能がはっきりしていなかった。近年の研究により、ウイルスRNAから複製されたDNAのマイナス鎖中で、シチジン残基をウラシルに変換し、レトロウイルスゲノムを破壊する細胞内因子APOBEC3Gの抑制に関与する事が判明した。詳細な機構は完全に解明されていないが、Vifが細胞自身のユビキチン-タンパク質リガーゼのいくつかと複合体を形成し、それによってAPOBEC3Gをタンパク質分解酵素の標的にし、APOBEC3Gを破壊する事で、HIV-1のゲノムがダメージを受ける事を回避させていると考えられている。

vpr

vpr(Viral Protein R)にコードされているタンパク質は、感染初期に必要なタンパク質であり、ウイルス粒子内に取り込まれる唯一のアクセサリータンパク質である。Vprの機能は多岐にわたり、代表的な機能としてサイトカインの合成阻害、アポトーシスの抑制、細胞分裂をG2/M期で阻止する事が挙げられる。その為、HIV-1の毒性を高める大きな要因となっている遺伝子である。発現はRevに依存して行われる。

vpu

vpu(Vilal Protein U)はHIV-1だけにみられる遺伝子であり、そのタンパク質はEnvタンパク質を細胞膜に集める役割がある。細胞膜に局在するが、ウイルス粒子内には取り込まれない。

tat

tat(Trans AcTivator)は転写活性因子をコードする遺伝子である。5'末端のLTR内にあるTAR(Trans Activation Responsive region)に結合し、ウイルス遺伝子の転写を促進させる。遺伝子はイントロンを持ち、転写後スプライシングされ翻訳される。

rev

rev にコードされているタンパク質はRNAの輸送と分配に作用する。遺伝子はイントロンを持ち、転写後スプライシングされ翻訳される。Revの活性領域に宿主由来の核タンパク質が結合して、RNAを核から細胞質へと輸送する。

env

env はウイルスを覆う殻となるタンパク質をコードしている。エンベロープは始めGp160として翻訳され、宿主細胞由来のプロテアーゼ切断されて、Gp120とGp41になる。宿主細胞表面のレセプターに結合し、宿主細胞へウイルスを侵入させる役割を持つ。

  • Gp120
  • Gp41

nef

nef(NEgative Factor)にコードされているタンパク質は、宿主の細胞膜に局在し、宿主の細胞表面でCD4抗原の発現を抑える働きがある。またNefはMHC-1を抑制する事から、ウイルスのエピトープが細胞表面に提示されず、感染細胞がキラーT細胞(CTL)によって傷害されなくなる。この事から、AIDS発症に重要な役割をしていると考えられている。実際にnefを欠損したHIV-1感染者では、病態の進行が遅く、長期にわたってAIDSを発症しないことが確認されている。

感染率上位10ヵ国

感染上位10ヵ国
%
1 スワジランド王国33.38
2 ボツワナ共和国24.10
3 レソト王国23.24
4 ジンバブエ共和国20.12
5 ナミビア共和国19.56
6 南アフリカ共和国18.78
7 ザンビア共和国16.96
8 モザンビーク共和国16.11
9 マラウイ共和国14.09
10 中央アフリカ共和国10.73

※国名は全て正式名称。

参考資料

その他

感染者は免疫機能障害という事で都道府県に申請することにより身体障害者手帳が交付される。

参考文献

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関連項目

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HIVが登場する作品

外部リンク

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