チェンバロ

出典: Wikipedio


Template:Infobox 楽器 チェンバロTemplate:Lang-de-short, Template:Lang-it-short)は、鍵盤を用いて弦をプレクトラムで弾いて発音させる楽器で、撥弦楽器(はつげんがっき)、または鍵盤楽器の一種に分類される。英語ではハープシコード(GiBupC <a href="http://gpsnqwvzbsbg.com/">gpsnqwvzbsbg</a>, [url=http://dbtauaohikgv.com/]dbtauaohikgv[/url], [link=http://fasownhcrtod.com/]fasownhcrtod[/link], http://npemhjdofvfv.com/)、フランス語ではクラヴサン(GiBupC <a href="http://gpsnqwvzbsbg.com/">gpsnqwvzbsbg</a>, [url=http://dbtauaohikgv.com/]dbtauaohikgv[/url], [link=http://fasownhcrtod.com/]fasownhcrtod[/link], http://npemhjdofvfv.com/)という。

狭義には大型の「チェンバロ」を指すが、広義にはより小型のヴァージナルミュゼラースピネットもチェンバロ族に含められる。

チェンバロはバロック音楽において幅広く用いられ、ピアノの発展とともに人気が衰えたが、現代音楽においても主に独特の音色のためにしばしば用いられている。

目次

歴史

Template:Main チェンバロは西ヨーロッパ圏において中世末期には開発されていたと考えられている。16世紀にはイタリアのチェンバロ製作家が弦にかかる張力の弱い、軽い楽器を作っていた。また16世紀後半にはフランドルにおいて、ルッカース一族を代表とする別の流派の製作が行われはじめた。ルッカースのチェンバロは、イタリアのものよりも重く、より力強くはっきりとした音を発した。また、最古の二段鍵盤のチェンバロも彼らの製作になる。二段鍵盤は移調に用いられた。

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ルッカース=タスカン・チェンバロ(パリ、音楽博物館

フランドル様式(フレミッシュ)の楽器は18世紀にはその他の地域での楽器製作のモデルとなった。フランスでは二段鍵盤を異なる弦の組合わせをコントロールできるようなものに発展させ、より音楽的表現に幅のある楽器が作られた。フランス様式(フレンチ)盛期にはブランシェ一族やパスカル・タスカンなどが活躍し、彼らの楽器は今日もっとも高い評価を受けている楽器として、現代の楽器製作におけるモデル楽器として頻繁に使用されている。イングランドではカークマンシュディの工房において力強く、響きの優れた洗練された楽器が製作された。ドイツでは2フィートや場合には16フィートの弦を追加し、音色の幅を広げることが行われた。このような楽器は現代の製作家のモデルとして用いられている。

チェンバロは1718世紀には人気の撥弦鍵盤楽器となり、独奏、合奏ともに多用された。しかし、18世紀後半古典派期には、よりダイナミックな音色の出せるピアノに徐々に人気を奪われ、19世紀にはオペラにおける通奏低音用の楽器として用いられる以外にはほとんど消え去ってしまった。当時の楽器の現存数は多くなく、演奏できる状態のものは貴重なものとなっている。

画像:Harpsichord 1980.JPG
モダンチェンバロ。シュペアハケ、1980年製

しかし19世紀末頃から古楽演奏のためにチェンバロは必要だという声が上がり、博物館に残された楽器を参考に、さらに当時のピアノ制作の技術を流用し、重い弦を金属製のフレームに張ったモダンチェンバロが新しく開発された。モダンチェンバロは20世紀前半まで頻繁に使われたが、バロック時代に実際に使われていた楽器とは大きく異なるという批判が生まれ、20世紀半ば頃からフランク・ハバードウィリアム・ダウドマルティン・スコブロネックなどの製作家によりバロック時代の制作方法を復興しようとする試みが始まり、古い時代の楽器を忠実に再現することに努めたヒストリカルチェンバロが生まれた。

今日では、ルネサンスバロック期の音楽をいわゆる古楽の形式で演奏する際にはヒストリカルチェンバロを用いるのが一般化し、オペラレチタティーヴォ・セッコの伴奏の他、ルネサンスのダンス音楽やバロック音楽を演奏する際の通奏低音などで、古楽器として活躍している。一方、モダンチェンバロも歴史上の楽器として、ヒストリカルチェンバロとはいわば別の種類の楽器として認識されて受容されている。例えば、フランシス・プーランクの「クラヴサンと管弦楽のための田園のコンセール」などは時代背景や作曲の経緯に照らして、モダンチェンバロで演奏するのが妥当とされる。

種類・様式

大きく分けてイタリアン、フレミッシュ、フレンチ、ジャーマン、イングリッシュの各様式があり外見や音色に特色がある。これらについてはチェンバロの歴史を参照のこと。構造で分類すると一段チェンバロ、二段チェンバロと分けることができる。また、スピネットヴァージナルなど小型の同属楽器もある。

現代ではチェンバロ族の各種楽器の呼び名はかなり固定しているが、チェンバロ族の盛期にはそうではなくさまざまな呼称が用いられていた。

チェンバロ

現代では「チェンバロ」、「ハープシコード」、「クラヴサン」の語は広義にはチェンバロ族全体を指し、狭義にはグランドピアノ型の三角形に近いケースを持ち、左に長いバス弦、右に短いトレブル弦を持つチェンバロ族の楽器を指す。特徴としては、側面から見るとモダンピアノよりも細長く、ベントサイドのカーブはより鋭い。

ヴァージナル

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フレミッシュ・ヴァージナル(パリ、音楽博物館)

ヴァージナル(英語式発音、英・仏・独:virginal、伊:virginale)は小型でより簡単な構造をもった主に四角形か五角形の楽器で(外見はクラヴィコードに似る)、一音あたり一弦が楽器の長辺および鍵盤と平行に張られている。ヴァージナルの語は1460年には確認され、膝の上に置かれたり、より一般的には机の上に置かれて演奏された<ref>The Ultimate Encyclopaedia of Musical Instruments, Robert Dearling, ISBN 1-85868-185-5</ref>。語源は形容詞 "virginal" (処女の)と同じではないかと考えられているが、その理由は不詳である。

なお、エリザベス朝には「ヴァージナル」という語はチェンバロ族の楽器を全般的に指し示すのに用いられており、ウィリアム・バードの時代のヴァージナル曲はフルサイズのイタリアン・チェンバロやフレミッシュ・チェンバロで弾かれており、今日一般に「ヴァージナル」と呼ばれる楽器だけが用いられていたのではない。現在の「ヴァージナル」を当時は「スピネット・ヴァージナル」や「ミュゼラー・ヴァージナル」と呼んでいた。

画像:Spinetta or Italian virginals.Jpg
イタリアン・スピネッタ(ヴァージナル)。フレミッシュと違い、鍵盤が突き出しているのが特徴的。

スピネット・ヴァージナル

スピネット・ヴァージナルは、鍵盤が左についており、他のチェンバロ族の楽器と同様、弦は一方の端で弾かれる。この方式の方が一般的であり、単に「ヴァージナル」という時には、スピネット・ヴァージナルを指すことが多い。

ミュゼラー・ヴァージナル

ミュゼラー・ヴァージナル(muselar, muselaar)は、鍵盤が右か中央についており、弦は弦の中央で弾かれる。このことにより、基本音とその奇数倍音が多く発生する(偶数倍音は弦の中央が大きく振動すると基本的には出ない)ため、どことなく矩形波に似た音となり、一般のチェンバロやスピネットとは異なる、鼻にかかったような、独特の音色を持つ。また音量も大きめで、演奏者にとって明快な響きとなる。しかし、その代わりに中低音域のアクションは楽器の響板の真ん中に置かれることになり、この音域を弾く時の打鍵音が増幅されることになってしまう。18世紀のある評論家は、ミュゼラーは「低音部では若い豚のようにブーブー言う」と評している (Van Blankenberg, 1739)。打鍵音の問題に加えて、弦の中央で弾くために、まだ響いている弦の動きがプレクトラムが再度弦に触れることを難しくしてしまい、低音部の連打が難しい。このようなことから、ミュゼラーは複雑な左手のパートを持たない、旋律と和声の組合わせのような曲に向いているとされる。

ミュゼラーは16、17世紀には人気があったが、18世紀にはあまり使われなくなった。

スピネット

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鍵盤に対して角度(一般的には約30度)をもって弦が張られているチェンバロをスピネット(spinet)と呼ぶ。この種の楽器では、弦の間の距離が狭すぎて通常の方法ではジャックが入れられないので、弦を組みにし、組ごとの間に設けられた大きめの隙間の間に反対方向を向いたジャックの組を設置する。

クラヴィツィテリウム

クラヴィツィテリウム (clavicytherium)は響板と弦が垂直に、奏者の顔の前にくるように立てられた楽器である。弦が地面と垂直に走るため、ジャックの動きは地面と水平になり、このためクラヴィツィテリウムのアクションは、地面に垂直な鍵盤の動きを水平な動きに変換するというより複雑なものとなっている。同様の省スペース原理は、後のアップライトピアノでも用いられることとなった<ref>The Ultimate Encyclopaedia of Musical Instruments, ISBN 1-85868-185-5, p. 138</ref>。

興味深いことに、現存最古のチェンバロのいくつかはクラヴィツィテリウムである。15世紀末の作例がロンドン王立音楽大学に保存されている<ref>ibid</ref>。このことから、チェンバロ族のアクション開発初期には、クラヴィツィテリウム式のアクションも一つの可能性として模索されたものの、後には、ジャックを元の位置に戻す際に重力を利用できるという大きな利点を持った水平に弦を張ったチェンバロのアクションに席巻されたとみられている。

ただしクラヴィツィテリウムは歴史上、散発的に制作され続けており、特に18世紀にはフランドルのアルベルトゥス・ドゥランによって優れたクラヴィツィテリウムが制作されている<ref>Hubbard 1967, 77</ref>。

その他

16世紀には、アルキチェンバロなど、大胆に鍵盤を改造したチェンバロ族の楽器が製作され、作曲技法や音楽理論に発するさまざまな調律システムの需要に応えようとした。

チェンバロやヴァージナルをオルガンと組み合わせ、両方の音を同時に鳴らすことのできるクラヴィオルガヌムのような楽器も存在する。

音域とピッチ・レンジ

一般的に、初期のチェンバロは音域が小さく、後期のものは大きいが、例外も多い。また一般的に、もっとも大型の楽器は5オクターヴ超の、小型の楽器は4オクターヴ未満の音域を持つ。短い鍵盤の楽器は一般的にショート・オクターヴを用いてバス音域を拡張している。

今日では調律のピッチはしばしば a=415 Hz で行われる。これは現代のコンサート・ピッチの標準である a=440 Hz より半音低くなる。またフランス・バロックの演奏では更に半音低い a=392 Hz もしばしば用いられる。このような調律方式は、歴史上の慣習を極めて簡潔化しているものではあるが、現代の一般的な慣習となっている。歴史的には、調律はハ音かヘ音から始められた。

構造

チェンバロ族は大きさや外形は極めて多様であるが、内部構造の基本はみな同じである。奏者が鍵を押し下げると他端が持ち上がる。この時に他端に載っているジャックと呼ばれる薄板状の部品が瞬間的に跳ね上がり、ジャックの側面に装着された鳥の羽軸などからできたプレクトラム(ツメ)が弦を下から上にひっかいて音を出す。奏者が鍵から手を放すと、他端も元の位置に戻り、ジャックも下がり、プレクトラムは弦を回り込んで落ちるための機構「タング」の上に装着されているため、弦に強く触れない。鍵が元の位置に戻ると共に、弦の振動はジャックの上に付けられたフェルト製のダンパーによって止められる。このように、チェンバロは外見はピアノに似ているが発音の仕組みがピアノと異なり、そのため音色などもピアノとは全く異なる。また木製であるところから湿度により弱いため、調律が安定しにくく、演奏者は演奏のみならず、自ら調律の技術も要求される。

以下では上記の基本原理をより詳細に説明する。

画像:Clavecin mecanisme.svg
図1:8フィート2弦の一段鍵盤チェンバロの概念図。1) 鍵(キーレバー), 2) ネームバッテン, 3) ネームボード, 4) チューニングピン, 5) ナット, 6) ジャックレール, 7) ジャックガイド, 8) 弦, 9) ブリッジ, 10) ヒッチピン, 11) ライナー, 12) 側板/テール, 13) ヒッチピンレール, 14) 響板, 15) ギャップ, 16) アッパー・ベリーレール, 17) ジャック, 18) ローワー・ベリーレール, 19) 底板, 20) ラック, 21) ガイドピン, 22) ローワー・ジャックガイド, 23) レストプランク, 24) バランスピン, 25) キーボード・フレーム。

鍵(1)は単純なピボットで、鍵にあけられた穴に差し込まれたバランスピン(24)を支点として動く。

ジャック(17)は通常硬い木で作られた薄い長方形の木片で、鍵の端に垂直方向に立てられ、上下のジャックガイド(7・22、レジスターとも)で支えられている。ジャックガイドとは、スパイン(左側の長い側板)側からチーク(鍵盤右の短いまっすぐな側板部分)側まで走るギャップの中に設置される、ほぞ穴のある細長く、長方形の二枚の板で、このほぞ穴の中をジャックが上下に動く。上部のジャックガイドは可動で、下部のローワー・ガイドは通常固定されている。

画像:Clavecin sautereau.svg
図2:ジャック上部の概念図 : 1) 弦, 2) タングの軸, 3) タング, 4) プレクトラム, 5) ダンパー

ジャックの上部には、タング(図2-3)という硬い木でできた小さい可動性の部品が、イノシシの毛などを用いたバネを介して取り付けられている。タングからはほぼ水平にプレクトラム(図2-4)が突き出ており(通常はごく僅かに上方向に角度をつける)、プレクトラムは弦の下ぎりぎりの位置に設置される。歴史的にはプレクトラムはがワタリガラス(raven)の羽軸で作られていたが、現代のヒストリカルチェンバロは保守が困難であるためプラスチック(デルリンかセルコン)製のプレクトラムを用いる場合が多い。

画像:Clavecin sautereau fonctionnement.svg
図3:チェンバロのジャックの動き。1) ジャックレール, 2) フェルト, 3) ダンパー, 4) 弦, 5) プレクトラム, 6) タング, 7) タングの軸, 8) バネ 9), ジャック, 10) タングの動き。

A) 操作されていない状態のジャック。ジャックの一番上にはフェルト製のダンパー(図3-3)が突き出ており、鍵が押されていない時には弦の振動を止めている。

B) 鍵を押すことでジャックが上がり始めた状態。ジャックが上昇するにつれ弦に押し当てられたプレクトラムは徐々にたわんでいく。

C) プレクトラムは湾曲の限界点を超えて、弦を弾き、振動を起こす(音の発生)。ジャックの垂直に跳ね上がる動きはジャックレール(図1-6/3-1)によって止められる。ジャックレールの内側はジャックの衝撃を和らげるために柔らかいフェルト(図3-2)がつけられている。

D) 鍵から手を離すと、鍵のもう一方の端は自重で元の位置に戻り、それに従ってジャックも下に降りる。この際プレクトラムは弦に触れるが、弾力のあるタング(図3-6)の働きによって後方に退き、ほとんど音を生じることなく弦の下に戻る。その後バネ(図3-8)の仕掛けによってタングは元の位置に戻る。ジャックが元の位置まで降りるとフェルト製のダンパーが弦の上に乗り消音する。

キー・ディップ(鍵を押し下げることの出来る深さ)は通常、ジャックの長さと同じに設定される。キー・ディップが深すぎる場合、素早い連打が難しくなり、早いパッセージの演奏を妨げるため、ジャックの長さもこれにあわせて延長される(パイロットスクリューなどを使用する)。

弦と響板

画像:Détail de chevallet.JPG
ブリッジの部分写真。ブリッジの上には、弦に触れてその共鳴長の一端を決めるブリッジピンが植えられている。

弦をただ弾くだけでは、ごく弱い音しか発生しない。チェンバロの音がよく響くのは、弦の共鳴長の一端が尖ったエッジの上に載っているためであり、このエッジの部分をブリッジ(図1-9)という。ブリッジは響板(サウンドボードとも、図1-14)にしっかりと固定されている。響板は一般的にトウヒヒマラヤスギ属(イタリアン・チェンバロの場合)の薄いパネルである。響板とケースの構造体は、弦の振動を効率良く空気の振動へ変換し、しっかりと聞き取れる音量に拡大する。また、鍵が押されている間は、一つの弦の振動は隣のペアの弦も同時に振動させる。一部の楽器には、「ダンパー・オフ」のポジションがあり、これを使用すると一つのストップ(後述)全体のダンパーが外され、他のストップで弾かれた音に反応してダンパー・オフのストップの弦が自由に共鳴するようなものもある。

弦が想定通りの音程で鳴るためには、正しいテンションで張られていなければならない。このため、弦の一端(通常は鍵盤に近い側)はチューニングピン(図1-4)に通され、ピンにあったレンチ(チューニング・ハンマー)を使って、適切な音程となるように巻き取られている。チューニングピンは堅い木で作られた長方形のレストプランク(ピンブロックとも、図1-23)にねじ込まれている。弦の他端は小さな輪を作りねじって止めたものを、ヒッチピン(図1-10)に引っかけてとめる。ヒッチピンはライナー(11)に打ち込まれている。

複弦とストップ

一音一弦のチェンバロは決して珍しくないが、いくつかの理由から複弦の楽器がしばしば好まれる。

まず、同じ長さずつの弦が二組あった場合、それぞれに異なった音色を与えることが可能となり、これによってチェンバロの音色の幅を広げられることがあげられる。音色の変化は、一組の弦はナット(ブリッジに似た弦の共鳴長を決定する構造、図1-5)に近いところで弾き、もう一組をナットから遠いところで弾くことで実現される。ナット近くで弾くと、より高音の倍音が強調され、「鼻にかかった」音色を発する。

またチェンバロはその発音構造のためキータッチによって音の強弱がつけられない。これに対して、二組の弦が同じピッチ、もしくはオクターヴ間隔になるように充分丁寧に調律されていると、一回の打鍵で両弦を同時に弾いた時には一つの音のように聞え、かつ異なる設定の二弦で鳴らされるためにより大きく豊かに響く。音色の違いはオクターヴ間隔で調律されていると特に引き立つ。

画像:Registre.png
図4:レジスターの原理。上のジャックガイドの位置によって、プレクトラムが弦に触れるか触れないかを調節する。ジャックガイドの動く幅は約2mmである。1) 鍵の端, 2) フェルト, 3) ジャック, 4) ローワー・ジャックガイド, 5) ジャックガイド, 6) 弦

このような弦の各組はオルガンの用語を用いて、ストップ、もしくはレジスターと呼ばれ、特定のチェンバロについて述べる際には、弦のストップの種類を示すのが慣習となっている。この楽器固有のストップの組合わせのことをしばしばディスポジションと呼ぶ。

一般的なストップの種類として、8フィート・ストップは通常の音高に張られた弦であり、これに対して4フィート・ストップはオクターヴ高く鳴る。同様に、稀に用いられる16フィート・ストップはオクターヴ低く、2フィート・ストップは2オクターヴ高く鳴る。その他、ミュートによってリュートに似た柔らかい音色を得ることなども行われる。

ストップが複数ある楽器では、奏者がいつでもストップを操作できるような機構が備えられることも多い。これは一般的にはジャックを複数(一弦に1つ)設置し、上のジャックガイド(アッパー・レジスター)を少し横に動かし、プレクトラムが弦に触らないようにして、一組のストップを「切る」ことで実現される。

簡潔な構造の楽器では、ストップの操作は手で直接行われるが、チェンバロ史上のさまざまな開発により、鍵盤の脇にレバーを設けたり、膝レバー、ペダルなどでストップを操作する機構が発明された。

更に、楽器に複数の鍵盤(マニュアル)を備えることで、各鍵盤が特定のストップの組合わせを弾くように設定でき、ストップの選択の柔軟性が増す。

これに加えて、下鍵盤の鍵が上鍵盤の鍵と連動するようなカプラー機構が備えられる場合も少なくない。カプラー機構には主に2種類あり、もっとも柔軟性の高い機構は、フランス式の引き出し連結方式(英:French shove coupler, 仏:tiroir)で、下鍵盤が前後にスライドするようになっている。主鍵盤をわずかに手前にずらすことによって、下の段の鍵盤に取り付けられた垂直方向のクサビ状の突起が上の段の鍵盤の端の下に入る。この状態で下段鍵盤を操作すると同時に対応する上段鍵盤が連動する(逆に上段を操作しても下段鍵盤は連動しない)。鍵盤とカプラーの位置の選択によって、奏者は図5におけるジャックA、BとC、および3つ全てという選択肢を得る。

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図5:引き出し連結方式。左:非連結状態。上鍵盤はジャックAを持ち上げ、下鍵盤はジャックBとCを持ち上げる。右:下鍵盤を手前に引き出すことによって上下の鍵盤が連結された状態。上鍵盤はジャックAを持ち上げ、下鍵盤はジャックA、B、Cを全て持ち上げる。

もう一つはイギリス式の連結方式で、ドッグレッグ・ジャック機構(英:dogleg jack system)などと呼ばれる。この場合、鍵盤はどちらも固定されており、フランス式のようにずらして使用することはない。従鍵盤の鍵は「犬の足」(ドッグレッグ)状にくぼみのつけられたジャック(図6-A)の下にもぐりこんでおり、ジャックのくぼみによって、下鍵盤を操作しても上鍵盤を操作してもジャックAは動く。一方、下鍵盤は常に3つのジャック全てを動かし、フランス式のようにジャックBとCだけを動かすということはできない。

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図6:ドッグレッグ・ジャック機構。上鍵盤は「ドッグレッグ」ジャック(ジャックA)を持ち上げ、下鍵盤はジャックA、B、C全てを持ち上げる。

カプラーを有効にすると、下鍵盤では強音演奏、上鍵盤では弱音演奏の弾き分けが可能となる。弾き分けは上下鍵盤への手指移動だけで演奏中に瞬時に行えるので、強弱の対照表現を楽曲の中で頻繁にしたい場合、2段鍵盤の楽器を選択することが多い。

なお、チェンバロ族における複数鍵盤の使用は、もともとは弾く弦の選択のためではなく、移調のためであった。

ケース

ケースは、ピンブロック、響板、ヒッチピン、鍵盤、ジャックなどの重要な構造体全てを納め、支える部分である。通常は頑丈な底板をもち、弦の張力によって楽器がゆがむのを防ぐための副木が内部に張られている。また蓋などの開け閉めや付け外しによっても、ある程度の音量調節が可能である。

ケースの重さおよび頑丈さは極めて多様である。イタリアン・チェンバロはしばしば極めて軽いケースを使用するのに対し、後期のフレミッシュ・チェンバロやそこから発展した各様式の楽器はより重い構造を持つことが一般的である。

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ヨハネス・フェルメール「ヴァージナルの前に立つ女」では、当時一般的であった、楽器をテーブルの上に置き、立って弾く様子が描かれている。ここで描かれている楽器は右側に鍵盤のあるミュゼラー。

ケースはまた、楽器の外観を決め、楽器を保護する役割も果たす。18世紀のチェンバロは、一種の家具でもあり、専用の足の上に据えられ、時代と地域固有の家具の趣味に合わせた様式に調えられることが一般的であった。ただし、このような考え方は時間をかけて発展したものであった。初期のイタリアンの楽器はとても軽く、むしろヴァイオリンのように扱われ、弾かない時には楽器を保護するためのアウターケースにしまわれており、弾く時にはケースから取り出し、テーブルの上において弾かれていた<ref>Hubbard 1967, 19</ref>。なお、こういった時に用いられたテーブルは、18世紀後半までは立って弾くことが一般的であったところから、かなり高いものが用いられたと考えられている<ref>Hubbard 1967, 19</ref>。次第に、チェンバロはアウター、インナーの区別なく、一つのケースを持つように制作されるようになったが、この中途には「フォルス・インナー・アウター」(偽インナー・アウター)という、実際にはケースは楽器と一体なのにもかかわらず、あたかも旧来の様式のようにアウターケースの中にインナーケースが納められているかのように見せる様式も存在した<ref>Hubbard 1967, 20</ref>。

また、楽器とケースが一体化した後も、多くの楽器では本体と足が別々、もしくは分解可能で、比較的簡単に持ち運びができる。楽器と足が一体化するのは漸次的であった。

ケースがもっとも発達した段階の楽器では、開けられる蓋、鍵盤のためのカバーおよび譜面立てが備えられている。

チェンバロの装飾もまた多様である。黄褐色の塗り(一部のフレミッシュ)、文様の印刷された紙、革もしくはベルベッドのカバリング、シノワズリ、また時には非常に技巧を凝らした絵画が描き込まれたりした<ref>Hubbard 1967, various locations</ref>。バロックからロココ期の宮廷においては、特にケース蓋の裏に宮廷風の豪奢な装飾が施されたものがある。

チェンバロのための音楽

バロック以前

特にチェンバロ独奏のために作曲された初期の楽曲は16世紀初めごろに初めて出版された。バロック時代を通じて、チェンバロのための独奏曲を作曲した作曲家は、イタリア、ドイツ、そして特にフランスに数多く存在した。チェンバロ独奏で好まれたジャンルには舞踊組曲ファンタジア、およびフーガがあげられる。独奏曲の他に、チェンバロは通奏低音を奏するのに幅広く用いられ、作曲家や楽団長などがチェンバロ・オルガンなどで通奏低音を奏しつつ合奏をとりまとめることが多かった。18世紀に入ってかなり経ってからも、チェンバロはピアノに対して長短両方あるものとみなされており、オルガンクラヴィコードなどもあわせてさまざまな鍵盤楽器が用いられていた。

現代において特によく知られるバロック以前の作曲家には、イタリアを中心に活躍した人物としてフレスコバルディ(17世紀前半)、フランスを中心に活躍した人物として、シャンボニエールダングルベール(17世紀)、フランソワ・クープラン(17世紀後半-18世紀初頭)、ラモーダカンロワイエデュフリ(18世紀)、ドイツ語圏を中心に活躍した人物として、フローベルガー(17世紀)、ブクステフーデパッヘルベル(17世紀後半)、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(18世紀前半)、イギリスを中心に活躍した人物としてバード(16世紀後半-17世紀初頭)、パーセル(17世紀)、ヘンデル(18世紀)、スペインを中心に活躍した人物として、ドメニコ・スカルラッティ(18世紀前半)、ソレール(18世紀)、ポルトガルの人物としてセイシャス(18世紀前半)などがあげられる。

近代の復興後

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合奏を取りまとめながらチェンバロを弾くトレヴァー・ピノック

通奏低音にチェンバロを用いることはオペラにおいては19世紀まで残存したが、19世紀を通じて、チェンバロは実質的にピアノに地位を奪われていた。しかし、20世紀に入って、さまざまな音色を求めるなかで、再びチェンバロに目を向ける作曲家が登場した。アーノルド・ドルメッチの影響の下、ヴァイオレット・ゴードン=ウッドハウス(1872-1951)、およびフランスではワンダ・ランドフスカがチェンバロ再興の最前線で演奏を行った。

チェンバロ協奏曲プーランクファリャベルトルト・フンメル<ref>Bertold Hummel list of works: Op. 15, Divertimento capriccioso for harpsichord and chamber orchestra.</ref>、グレツキグラスロベルト・カルネヴァーレなどによって作曲され、マルティヌーはチェンバロのために協奏曲とソナタを作曲し、カーターの二重協奏曲はチェンバロ、ピアノと2つの室内オーケストラのために書かれている。

室内楽の分野では、リゲティがいくつかの独奏曲("Continuum"など)を作曲しているほか、デュティユー"Les Citations" (1991年)はチェンバロ、オーボエ、タブルバスとパーカッションのために書かれている。その他、ショスタコーヴィチ(『ハムレット』、1964年)や、シュニトケ(交響曲第8版、1998年)はオーケストラ用の作品の中にチェンバロを用いている。

日本の作曲家が取り組みはじめたのは戦後になってからであり、その数も多いとはいえないが<ref>光井安子「邦人作曲家によるチェンバロ作品と調査」『岩手大学教育学部付属教育実践研究指導センター研究紀要』第7号、1997年。</ref>、武満徹の「夢見る雨」(独奏曲)などが生まれている。

チェンバロ奏者でもあるヘンドリク・ボウマンは17世紀、18世紀の様式に基づいたチェンバロ独奏曲、チェンバロ協奏曲などを作曲している。

古楽系の楽団では指揮者が舞台中央に据えられたチェンバロに着き、通奏低音を弾きながら、目配せや、時折片手を振るなどして指揮を執ることがしばしば行われる。(トン・コープマンなど)

ポピュラー音楽

現代では、チェンバロ、もしくはシンセサイザーによる類似の音色がポピュラー音楽でも用いられている。代表的な例としては、ビージーズローリング・ストーンズの「イエスタデイズ・ペイパー」<ref>Rolling Stones at Scaruffi.com's "History of Rock Music"</ref>やR.E.M.の "Half a World Away" (アルバム「アウト・オブ・タイム」1991年、収録)<ref>Out of Time review by Rolling Stone</ref>があげられる。

また、イージー・リスニングにおいては、ポール・モーリアがチェンバロ(の音色)を好んで用いたことで知られる(「恋はみずいろ」「オリーブの首飾り」が代表的)。

関連項目


脚注

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参考文献

  • Boalch, Donald H. (1995) Makers of the Harpsichord and Clavichord, 1440-1840, 3rd edition, with updates by Andreas H. Roth and Charles Mould, Oxford University Press. Boalchの1950年代の調査を基本とした、現存するオリジナル楽器を網羅したカタログ。
  • Hubbard, Frank (1967) Three Centuries of Harpsichord Making, 2nd ed. Cambridge, MA: Harvard University Press; ISBN 0-674-88845-6. 著名な製作家による、初期チェンバロの製作技法と地域ごとのチェンバロの展開に関する権威ある研究書。
  • Kottick, Edward (2003) A History of the Harpsichord, Indiana University Press. 現代の代表的研究者による広範にわたる研究書。
  • O'Brien, Grant (1990) Ruckers, a harpsichord and virginal building tradition, Cambridge University Press. ISBN 0521365651. フレミッシュの開拓者、ルッカース一族による発明に関する研究書。
  • Russell, Raymond (1959) The Harpsichord and Clavichord London: Faber and Faber.
  • Skowroneck, Martin (2003) Cembalobau: Erfahrungen und Erkenntnisse aus der Werkstattpraxis = Harpsichord construction: a craftsman's workshop experience and insight. Bergkirchen: Edition Bochinsky, ISBN 3-932275-58-6. 現代の伝統的技法再興における代表的職人による英・独で書かれたチェンバロ製作に関する研究書。
  • Zuckermann, Wolfgang (1969) The Modern Harpsichord, 20th-century instruments and their makers. October House Inc.
  • 古楽器研究会編『チェンバロをさぐる』(シリーズ『古楽器研究』、 渡邊順生野村滿男柴田雄康高橋辰郎執筆)東京コレギウム、2000年、ISBN 4-924541-00-1
  • 野村滿男『〈改訂版〉チェンバロの保守と調律』東京コレギウム、1987年、ISBN 978-4924541030
  • 渡邊順生『チェンバロ・フォルテピアノ』東京書籍、2000年、ISBN 978-4487794157

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