ジェットエンジン

出典: Wikipedio


ジェットエンジンTemplate:Lang-en-short)とは、外部から取り込んだ空気熱エネルギーを与えることで噴流(ジェット)を生み、その反作用あるいはエネルギーを利用する内燃機関の一種で、主に航空機固定翼機回転翼機)やミサイルの推進機関または動力源として使用されるものを指す。

狭義には空気吸い込み型の内燃式噴流エンジンだけを指すが、「ジェット推進」と「ジェットエンジン」を混同、あるいは原動機と出力作用の観点からの航空機用エンジンの分類法と混同されている。

ジェット推進とは噴流の反作用を推進力とするところから、具体的には噴流がダクトノズルやプラグノズルに圧力を与えて推進力となる。これを利用していないプロペラやファン推力などはジェット推進ではない。プロペラやファンは回転翼の揚力を推力としている。

ジェット推進を利用している内燃エンジンにはジェットエンジンとロケットエンジンがあるが、両者を混同してはならない。「ジェット推進」と「ジェットエンジン」は別の単語と概念であり、ジェット推進を利用しているエンジン全てをジェットエンジンと定義しない。用途とメカニズムの異なるエンジンは区別される。

ジェットエンジンとロケットエンジンの違いとして、ジェットエンジンは外部から空気(酸化剤)を取り入れる必要があるがロケットエンジンは酸化剤を搭載しているため宇宙でも使用可能である点が強調される<ref>Template:Harvnb</ref>、その代わりにロケットエンジンの燃焼器より前に噴流は全くない。そのため吸気側の噴流も推進力に利用するジェットエンジンと比較して構造も大気中の効率も大幅に異なり、区別して扱われる。学識として本項を読む際はこの点に注意されたい。(超音速時ジェットエンジンの大半の推力は吸気ダクトで発生する。)

タービンとはラテン語の回転するものという語源から来た連続回転機のことである。回転機関によって直接的に生み出される推力はジェット推進ではない。回転翼の揚力が連結されている回転軸に伝わって軸推力となり、ノズルに推力は発生しない。

現代の実用ジェットエンジンのほとんどは噴流の持続的な生成にガスタービン原動機を使っているためにジェットエンジンと混同されているが、回転機を使わないジェットエンジンも多数あり、タービンはジェットエンジンであるか否かの本質とは関係ない。ジェットエンジンは熱機関や内燃機関の分類からも独立した概念である。

いったん、ジェットエンジンにガスタービン原動機を使うとなると、回転翼推力とジェット推力の複合出力エンジンとして様々な最適化が必要(可能)になり、複数の形式が生まれた。

[[ファイル:AirBaltic Boeing 737-500 turbine.jpg|thumb|270px|ナセルに覆われたボーイング737-500CFM56ジェットエンジン(ターボファン)。]] [[ファイル:Engine.f15.arp.750pix.jpg|thumb|270px|right|アメリカジョージア州ロビンス空軍基地でテスト中のF-15 イーグルのF100ジェットエンジン(ターボファン)。]]

目次

概要

広く実用されているジェットエンジン(ターボジェット、ターボファン、ターボプロップ、ターボシャフト)は原動機にガスタービンエンジンを使用しているので、内燃機関としての仕組や熱機関としてのサイクルもそれに準じている。すなわち作業流体・酸化剤として外部から取り込んだ空気を圧縮機で加圧し、燃料(主にケロシン)と混合してブレイトンサイクルの下に連続的に燃焼させ、その燃焼ガスによるジェットの反動そのものを推力として利用したり、羽根車(タービン)を用いて回転力を生成しプロペラやファンの揚力に変換し軸推力にする。そして回転力の一部は圧縮機を回転させる動力となり、自身の持続運転に使われる。

ガスタービンエンジンは(レシプロエンジンの間欠燃焼と異なり)連続燃焼による連続回転機であるため、連続的なジェットガス生成用の原動機としても最適であった。もしジェットエンジンを間欠燃焼で作るとレシプロエンジンを原動機に使うまでもなくパルスジェットを実現できる。

上記ガスタービン型の航空用エンジンに加え、エアブリージングエンジン(作業流体および酸化剤として空気を吸入・排出する内燃機関の総称でレシプロエンジンも含む)の内、何らかの方法で空気を圧縮して燃料と混合し、燃焼後に高速の排気流を得て推力とする機関(ラムジェット、パルスジェット、モータージェット等)もジェットエンジンとして言及される。このうち圧縮機やタービンを用いず燃焼ガスをそのまま出力として利用するラムジェットとパルスジェットはガスタービンエンジンに対してダクトエンジンに分類されることもある。タービンの入り口温度が限界に達しているために、今より高効率、超高速ジェットエンジンを目指す手段として再び注目されている。

なお空気燃焼以外でジェット流を生み、その反動を利用する推進装置にはロケット(非エアブリージングエンジン)や水中翼船用のウォータージェットなどもあるが、それらはジェットエンジンとして言及されない場合が多い<ref>ジェットエンジンが実用化される前の未熟な時代には、様々な呼称や代替構成要素の実験機が用いられたが、いまさら、それに引きずられるべきではない。例えば、モータージェット機カプロニ・カンピーニ N.1を製作したセコンド・カンピニ(Secondo Campini)はウォータージェット推進式のボート(ポンプの駆動はレシプロエンジン)を製作して航空用ジェットエンジンのデモンストレーションとした。また、戦前の日本の研究機関では現在で言うところのジェット推進のことをロケット推進と呼び、カプロニ・カンピーニ N.1はカンピーニロケットと言われることもあった。</ref>。発電用もしくは船舶戦車の動力として航空用ガスタービンエンジンが転用される事例も多いが、それらは回転力を利用するだけなのでジェットエンジンとは呼ばれない(単にガスタービンもしくはターボシャフトと記載される)。

開発の歴史

thumb|200px|オハインが最初に試作したHeS 1の断面図(軸対称な下部断面は省略されている)。圧縮機、タービン共に遠心式であり、非常に簡潔な構造である。 thumb|200px|世界初のターボジェット機He178のレプリカ thumb|200px|フランク・ホイットルの名が刻まれた支柱の上に設置されたグロスターE.28/39のレプリカ ライト兄弟が1903年に初めて飛行に成功した時から第二次世界大戦頃まで、飛行機の推進装置の主流はレシプロエンジンとプロペラの組み合わせであった。飛行機の軍事的価値が高まるに従い、より高速で上昇性能も優れた機体が希求されるようになったが、レシプロエンジンの構造的制約からくる出力の頭打ちとプロペラ推進の空力的な限界により、機体の性能向上にも陰りが見え始めていた。そのような潮流の中で新しい航空機用推進機関が検討されるようになり、1930年代にはイギリスナチス・ドイツを中心として本格的な研究・開発が始められた。

この時期に今日ロケットやジェットエンジンとして知られる噴流推進機関の基本形が考案されることとなり、ガスタービン型のジェットエンジン(ターボジェットエンジン)開発も同時に始まっている。圧縮機とタービンを備えたガスタービンの概念そのものは1791年にイギリスのジョン・バーバー(John Barber)によって既に提出されていたが、それから100年以上経った1903年になってノルウェーの技術者エギディアス・エリング(Ægidius Elling)が初めて実動させることに成功した。主な困難はタービン出力から圧縮機を回転させる事にあった。また、以後のガスタービン実用化に際しては耐熱合金の開発や、熱膨張によるタービンブレードの亀裂を克服する必要があった。

ガスタービン型ジェットエンジン研究の初期にはタービン出力のみで圧縮機を回転させることが難しかったため、折衷案としてレシプロエンジンによる圧縮機駆動を行うモータージェットも考案された。この形式を採用した代表的な機体は1940年に初飛行したイタリアカプロニ・カンピーニ N.1である。当時はファシスト党プロパガンダの影響もあってプロペラの無い先進的な飛行機として注目されたが、性能は通常のレシプロ機に及ばず、ジェット流により得られる推力も微々たるものであった。なお、カプロニ・カンピーニに先立ってルーマニアアンリ・コアンダが製作したコアンダ=1910というモータージェット機が存在し、第二次世界大戦中には日本や旧ソ連でいくつかのモータージェット機開発が見られたが、結果的に後の技術史へ大きな影響を与えることはなかった。

現代につながるジェットエンジンは、イギリス空軍の技術士官フランク・ホイットルとドイツの技術者ハンス・フォン・オハインがそれぞれ独立に考え出したターボジェットエンジンである<ref>Template:Harvnb</ref>。ホイットルは1920年代からジェットエンジンの研究を始め、1937年4月にパワージェットと呼ばれるターボジェットを完成させた。ホイットルのチームがジェットエンジンの実験を最初に行なった時、燃料の供給を止めた後に燃料が逆流して溢れ出し、それが燃え尽きるまでエンジンが止まらずパニックになりそうになったというエピソードが残っている。一方、オハインは当時の航空機業界の大物だったエルンスト・ハインケルに招聘され、ハインケルで1936年からジェット推進機関の研究を始めた。そうしてオハインが水素燃料式のHeS 1を経て完成させたHeS 3He178に搭載され、同機は1939年8月に世界初のターボジェットエンジンによる飛行を成し遂げた。またホイットルが開発に参加したターボジェット機グロスター E.28/39はHe178に約2年遅れて1941年5月に本格的な飛行を行っている。

こうして第二次世界大戦後半にはドイツ、イギリス、アメリカでジェットエンジンを搭載した航空機が次々に開発された。ドイツではハインケル以外の航空機メーカーでもターボジェットエンジンが完成し、ユンカースBMW軸流式圧縮機を備えたターボジェットを製造した(なおHe178やE.28/39は信頼性は高いが圧縮率の低い遠心式圧縮機を採用していた)。製造されたエンジンはジェット軍用機Me262Ar234等に搭載され大戦末期に実際に運用されている。また、パルスジェット推進のV1飛行爆弾が実戦投入され、ラムジェットを用いた奇抜な兵器(トリープフリューゲルアレキサンダー・リピッシュが設計したP.13aなど)もいくつか計画された。アメリカ、イギリスでは遠心式圧縮機を備えたジェットエンジンが実用化され、グロスター ミーティアをはじめとしたジェット戦闘機開発が進んだ。戦後、ドイツで製造・計画されたジェット推進の軍用機はアメリカや旧ソ連で徹底的に研究され、各国が独自に進めてきた技術研究と相まってジェットエンジンを爆発的に普及させた。戦時中の日本でもドイツのBMW 003を参考に軸流圧縮式ターボジェットのネ20が完成し、試作ジェット攻撃機橘花の飛行を成功させたが実戦には間に合わなかった<ref>Template:Harvnb</ref>。

原理

内燃機関としての特徴

[[ファイル:Brayton cycle.svg|thumb|300px|ガスタービン動作の概念図とブレイトンサイクルのサイクル線図。線図の左は縦軸・圧力<math>P</math>、横軸・体積<math>V</math>としたもので、右は縦軸・温度<math>T</math>、横軸・エントロピー<math>S</math>としたもの。<math>q_{in}</math>と<math>q_{out}</math>はそれぞれ吸収した熱量と放出した熱量を示す。]] thumb|300px|最も基本的な航空用ガスタービンであるターボジェットの仕組・動作の概要。 ガスタービン型のジェットエンジンの場合、熱力学的にはブレイトンサイクルに従う。ブレイトンサイクルは断熱圧縮、吸熱・等圧膨張、断熱膨張、放熱・等圧圧縮の4プロセスからなるが、その特性から燃焼(吸熱)を行う時点の圧力が高いほど取り出せる仕事量は増大する。よってジェットエンジンでは燃焼前に空気を十分に圧縮することが重要となる。なおガスタービン以外のジェットエンジンが従う理論サイクルはブレイトンサイクルではないが、一般的に似たようなサイクルであり、やはり圧縮の方式が成否を分ける。

レシプロエンジンでは爆燃が間欠的に行われるが、ジェットエンジンでは(パルスジェットを除いて)燃焼は連続的に行われる。まず、吸入口から取り込まれた空気は圧縮機(コンプレッサー(Compressor))によって大気圧の数十倍(現行のエンジンでは約30倍)まで圧縮される。圧縮された空気は燃焼室内において燃料と混合・燃焼されて高温・高圧の燃焼ガスとなる。燃焼ガスはエンジンから排出される前にタービンを回転させる。タービンの回転は圧縮機へ伝わり、連続的に空気を吸入・圧縮するための動力になる。燃焼ガスはそのまま推力となるか、タービンもしくはその後段に設置された追加タービン(フリータービンとも)を回転させ軸出力として取り出される。なお、ブレイトンサイクルの吸熱・等圧膨張過程は燃焼室内での燃焼に対応し、断熱膨張過程はタービンおよび排気口におけるガスの膨張に対応している。

推進力を得る仕組

ジェット推進もプロペラ推進と同様に空気の運動量を変化させ力積を得ることで機体を前進させる。ジェットエンジンあるいはプロペラ回転面を仮想的な円盤と仮定した、単純化したモデルを考えてみる。この円盤を通過する流体によって得られる推力 T は、単位時間当たりの運動量変化(力積)に等しいので、単位時間に円盤が吸いこんだ空気の質量(質量流量)を <math>\dot{m}</math>, 円盤への流入空気速度(≒飛行速度)を V, 円盤から十分離れた下流における気体の排出速度を <math>V_{\infty}</math> とすると、次のように書ける<ref>この場合、燃料の質量は空気の質量に比べ小さいと仮定し、無視している。</ref>。

<math>T = \dot{m} (V_{\infty} -V)</math>

プロペラ推進では主に質量流量 <math>\dot{m}</math> を大きくすることで推力を発生させる。すなわちプロペラを大型化したりブレード数を増やしたりして推力 T の増強を図る。しかし、プロペラブレードと機速の合成速度が音速を超えると衝撃波が発生することで効率が著しく落ちるため、通常のプロペラを装備した機体の速度は 700-800 km/h が上限となる。一方、上式で気流速度差 <math>V_{\infty} - V</math> を大きくする(排気流を高速にする)ことでも T を増すことが可能であり、これに基づいて考案されたのがジェット推進である。ジェット推進でも回転物体(圧縮機やタービン)は存在するが、ダクトやブレードの形状を工夫することで衝撃波が抑えられるのでプロペラ推進の場合に発生する悪影響を防ぐことができ、実際にその発想がブレークスルーとなった。ただし、ジェット推進では気体に与えられえる運動エネルギーの割合が大きくなり、パワーロスは一般的に大きくなる。なおプロペラ推進ではプロペラ効率または推進効率<ref>推進効率 <math>\eta</math> は、最終的に機体の推進に使われた仕事率 TV と、エンジンが発生する出力 P との比で表され、<math> \eta = TV/P = 2V/(V+V_{\infty})</math> と書ける。<math>V_{\infty} \, := V</math> となるように排気速度を調節してやれば最大の効率 <math>\eta = 1.0</math> が得られるように思えるが、このとき推力は <math>T = \dot{m} (V_{\infty} - V) = \dot{m} (V - V) = \dot{m} \cdot 0 = 0</math> となるので現実には達成できない。プロペラ推進の場合は <math>\eta = 0.8</math> 程度が限度であり、ジェット推進の場合はそれより低くなる。</ref>というパラメータを用意し設計の指針とする(特に出力が限られたレシプロ機では重要視された)が、ジェット推進で同様の効率を計算するとプロペラ推進の場合より低くなりがちである。このため純粋なターボジェットは燃費が悪いので、ターボプロップやターボファンではプロペラやファンを併用することで効率の改善を図っている。

なお、機速<math>V</math>が増加すると次第に <math>V_{\infty} - V</math> が小さくなっていくが、その一方で流入する空気量<math>\dot{m}</math>が増加するので互いの効果が相殺されて推力 <math>T</math> はほぼ一定に保たれる(この点は機速によらずほぼ一定出力<math>P</math>を仮定するレシプロエンジンと異なる)。また <math>V_{\infty} - V</math> が小さくなるほど推進効率が増加するので、一般的にジェット機(特にターボジェット)は高速時のほうが燃費が良い。

ターボジェットエンジンの構成要素

ガスタービン型のジェットエンジンは主に圧縮機、燃焼室、タービンおよびそれらの周りの吸・排気口やナセルから構成される。さらにそれらに加えて搭載機の用途に応じた特殊な装置・機構が付随することもある。以下でそれぞれの構成要素を説明する。

吸気口

thumb|180px|left|ダイバージェントダクト(上)とコンバージェント・ダイバージェントダクト(下)の模式図 [[ファイル:Concordeintake.gif|thumb|180px|left|コンコルドの可変吸気口の動作概要。離陸時や亜音速時(上)は多くの空気を取り入れつつダイバージェントダクトを構成し、超音速時(中)にはコンバージェント・ダイバージェントダクトを構成する。]] ジェットエンジンに流入する空気はまず吸気口(エアインテーク (air intake)、エアインレット (air inlet)、吸気ダクト)を通過する。吸気口はベンチュリ状の構造を利用して流入空気の動圧を静圧に変換し、流速を減じる役割を担う(ベルヌーイの定理の応用)。流速をマッハ0.5程度まで下げて圧縮機の回転による衝撃波の発生を防ぎ、同時に空気を圧縮する効果を得る。ただし、流速が亜音速(音速以下)か超音速かでベンチュリの果たす役割が逆転するため、亜音速機と超音速機では使用する吸気口が異なる。吸気口はエンジン・ナセルの一部となるのが一般的であり、機体外板が吸気口となる場合もある<ref>吸気口の形状はエンジンの性能を左右するが、エンジンメーカーが製造するのではなく、機体メーカー側が作る。</ref>。

ダイバージェントダクト(divergent duct)
亜音速機ではエンジン内部に向かってダクト径が広がっていくダイバージェントダクトが用いられる。亜音速流体にベルヌーイの定理を適用すると、ダクト径の広がりと共に動圧(流れによる圧力)が低下し、その分静圧(流れの無い時の圧力)が増加するためである。
コンバージェント・ダイバージェントダクト(convergent divergent duct)
超音速機にはダクトの中間部がくびれたコンバージェント・ダイバージェントダクトが用いられる。これは超音速流ではダクト径の変化と動圧・静圧変化が亜音速の場合の逆になるからで、ダクトがすぼまっていくコンバージェント部で流速を音速程度まで減じ、その後に広がるダイバージェント部で亜音速流体の減速・圧縮効果を得ている。ただし機速が音速に達するまではダイバージェントダクトを用いる必要があるため、通常の超音速機は吸気口の形状を適宜変化させるための可変吸気口を備えている。

回転翼機はホバリングなどを行うために前進運動だけの固定翼機よりも地上から巻き上げられる異物をエンジン内に吸入する可能性が高い。レシプロエンジンではエアクリーナーによって吸入空気ははろ過できるがジェットエンジンでは吸入量が大きく、固定翼機に採用されるターボシャフトエンジンでは、エアクリーナーに代ってパーティクル・セパレーターと呼ばれる装置によって異物を除去する。パーティクル・セパレーターの代表的なものに多数の小孔を備えたものがあり、孔の中の渦発生ベーンで空気の流れがねじられ、その遠心力で異物分離し吸入空気から除去する仕組みを持つ<ref group="出典" name = "タービン・エンジン"/>。

圧縮機

thumb|220px|遠心圧縮式ターボジェットの概略図。流入空気はインペラーにより円周方向へ偏向され、その後ディフューザーを通過して加圧される。 thumb|220px|軸流圧縮式ターボジェットの概略図。流入空気は複数段のローターとステーターの組によりエンジン内部にいくにつれて圧縮されていく。 thumb|180px|軸流圧縮機のローター(赤色)とステーター(青色)の配置 吸気口を通過した空気は燃焼室へ送り込まれる前に圧縮機により加圧される。初期のジェットエンジンの圧縮率は大気圧の数倍という小さいものであったが、F-15に搭載されているF100では約30倍、ボーイング777に搭載されているGE90では約40倍という高圧を生み出している。ジェットエンジンに使われる圧縮機には遠心圧縮式軸流圧縮式の2種類がある<ref name="sato2005p202">Template:Harvnb</ref>。通常、圧縮機は複数設けられ、その数は「段数」で数えられる。また、軸流圧縮機の後段に遠心圧縮機が設置されるような場合もある。

遠心圧縮式(centrifugal compressor)
流入空気を羽根車(インペラー(impeller))によってエンジン回転軸の遠心方向に90°偏向させ、その遠心力と圧縮機出口に設置されたディフューザーで圧力を高める方式である(インペラーとディフューザーの組を1段と数える)。構造が簡単で1段当りの圧縮率が高く、回転数がある程度変動しても効率が落ちないといった利点があり、小出力ならば軸流圧縮式に比べて軽量化が可能である。このような特徴からオハインやホイットルが製作した初期のターボジェットはこのタイプの圧縮機を使用している。ただし、軸流式と組み合わせなければ段数を増やすことが難しく、圧縮比を大きくするためにインペラーの直径を増すと前面投影面積が大きくなる(機体に搭載した場合空気抵抗が増加する)という欠点を持つ。したがって今日の航空機用大推力エンジンにはほとんど用いられない。しかしながら、中型輸送機用ターボプロップや中・小型ヘリコプター用ターボシャフトなどの比較的低出力のエンジンには、その構造の単純さ故に今なお使われている(その場合、軸流式との組み合わせであることも多い)。また、ホンダジェットに搭載されたターボファンエンジンHF120の高圧圧縮機(最終段の圧縮機)にもチタン合金製の遠心式圧縮機が使用されている。ちなみに航空用レシプロエンジンのスーパーチャージャーもインペラーとディフューザーを備える遠心圧縮式である。
軸流圧縮式(axial compressor)
流入空気を回転する動翼(ローター、Rotor)と固定されていて流れを整える静翼(ステーター、Stator)によって加圧し、空気がエンジン軸方向に進むにつれて加圧されていく方式。ローターは可動ディスクの周囲に細長いブレードを配列した羽根車で、ステーターはローターと同様のブレードをエンジンケースに固定することで構成される。ローターとステーターの組み合わせが交互に何段か連なっており(ローターとステーターの組を1段と数える)、空気はそれらを通過するごとに次第に高圧となっていく。構造は複雑になるが多段化しやすく、よって高圧縮比を得られ、エンジン直径を小さくすることができる。一方、ブレードの製作にはコストがかかり、加工精度如何でブレードによるフラッターを起こしやすいという欠点がある。このフラッターはステーターの角度を調節することである程度まで対応できるが、回転数は限られる。近年の大型ターボジェット、ターボファンのほとんどはこの軸流圧縮式を用いている<ref name="sato2005p202" />。

ディフューザー

圧縮機の後方に位置し、圧縮機出口と燃焼室との間をつないでいる。ディフューザー(Diffuser) は、圧縮機で圧縮された空気の流れを燃焼室で利用するのに適した速度まで落とすため、末広がりのダイバージェント・ダクト形状になっている。圧縮機から送られた空気の速度エネルギーが静圧に変換されるため、ディフューザー出口ではエンジン中でも最も圧力が高くなっている<ref group="出典" name = "タービン・エンジン"/>。

燃焼室

[[ファイル:RM2 aka De Havilland Ghost.jpg|thumb|250px|right|カン型燃焼室を採用した初期のターボジェットであるデハビランド ゴースト。左から右に空気が流れ、銀色の筒状部分が燃焼室後部でケーシングやライナおよびノズルの配置が確認できる。]] thumb|250px|right|GE J79エンジンのカン型燃焼室 空気の流れから見て圧縮機とディフューザーの後に位置している燃焼室 (Combustion Chamber) の役割は、取り込んだ空気流に熱エネルギーを与えることであり、燃料噴射による火炎を維持しながら適度の流入空気を取り込んで、空気と燃料をすばやく混合して燃焼させ、後に続くタービンや排気ノズルに高温ガスを送り出すことである。

燃焼室にはいくつか異なる形状が存在するが基本的には入れ子状の構造をしており、燃焼室の外形を構成するケーシングと内側のライナ (Liner) から成る。ライナは多数の孔が開けられており、燃焼前の空気の層流で冷却されるように配置されている。ライナの内側に燃料噴射ノズルが設置されており、点火プラグは燃料噴射ノズルに近い4時と8時付近の2ヶ所に設けられることが多い。

燃料にはジェット燃料が使用され、その主体であるケロシンの理想的な空燃比は15対1であるが、実際に燃焼室に送り込まれる空気流量の全量と噴射される燃料の総空燃比(重量比)は40-120対1程度である<ref>仮にコアエンジン部分に取り込まれた空気のすべてを燃料と均質に混合すれば希薄すぎて燃焼しない。</ref>。燃焼室の上流部では、燃料噴射ノズルの周囲のオリフィス (Orrifice) の機能を持った旋回案内羽根(Swirler、スワラー) から、14-18対1程度の混合比になるように空気流量の25%程だけがライナで囲われた燃焼領域に取り込まれ、これは一次空気と呼んで区別される。残りの空気流量の75%程は二次空気と呼ばれ、燃焼室の内部冷却と燃焼ガスの希釈、一次空気で完全燃焼しなかった燃料の二次燃焼に利用される。

燃焼室直前の圧縮空気の流速は100-200m/sであるが、ライナはその流れから火炎を保護し、部分的に10-20m/s程度に減速された燃焼領域を作り出す。ケーシングとライナの間およびその孔には空気が流れ、燃焼領域に流れる空気量が調節されるとともに高温に晒されるライナが冷却される。

燃料コントロール装置によって高圧に加圧された燃料はノズルから噴射されて霧状にされる。始動時は圧縮空気の流れの中で、ノズル近くに位置する点火プラグの電気火花によって霧状の燃料に点火される。一次空気の持っていた軸方向での運動量はスワラーによって旋回運動に変換され、燃料噴射ノズルから噴射される霧状の燃料との混合とその初期燃焼に必要な時間だけ旋回しながら燃焼領域の前部を形成する。最初に点火プラグによって点火された後は、火炎は自ら燃焼領域内で維持するため、電気火花は始動時だけ放たれる。

旋回渦(スワール)を形成しながら空気と燃料は混ざり合い燃焼することで一次燃焼領域を形成する。 ライナの冷却も兼ねた二次空気が、ライナの孔から一次燃焼領域の下流側に流入することで、二次燃焼領域を形成する。流入する二次空気の流れがその上流である一次燃焼領域内に環状渦を作り、これが火炎を持続させる効果を生む。二次燃焼領域内では一次空気で燃焼しきれなかった燃料まで燃焼されると共に二次空気による希釈が始まる。ライナ内の後部は混合希釈領域となって一次空気と二次空気が混合され、後に続くタービンノズルやブレードが部分的な高熱で損傷を受けないように高温ガスは平均化される。燃焼直後の一次燃焼領域のガスは2,000℃程になるが、二次空気と混合希釈されることでタービン直前では1,000℃前後まで低下する。

エンジンの停止時に燃料が燃焼室内に残留することで、次回の始動時に燃料過多となってホット・スタートや燃焼室の焼損の可能性があるため、底部にドレンバルブを設けてドレンタンクへ残留燃料を排出するようになっている。

thumb|300px|right|左:カン型 中央:アニュラ型 右:カンニュラ型

4つの形式

ライナなどで構成される燃焼缶の形状と配置の違いによって燃焼室には4種類の形式が存在する。

カン型
カン型燃焼室 (Can type combustion chamber) では、複数の筒状の燃焼缶が輪状に等間隔で配置され、それを包むように燃焼室ケーシング(燃焼室ケース, Combustion case)も個別に設けられる。隣接する燃焼缶同士は火炎を伝播させ圧力を平均化するためのインターコネクタと呼ばれる管でつながれていて、2ヶ所からの点火が全体に伝えられる。カン型は空間の無駄が大きく少し製造が複雑であるが強固な構造であり整備性も良い。燃焼缶ごとで燃焼が不均等になりやすく、燃焼効率も良くない。
アニュラ型
アニュラ型燃焼室 (Annular type combustion chamber) では、燃焼室に単一のドーナツ状のライナを備えている。ライナは概ね円筒形の内外2枚の金属板より構成され<ref>アニュラ型の燃焼缶は厳密には内外2枚のライナの上流部はカウルと呼ばれる覆いになっている。</ref>、2枚の間が燃焼領域となる。ライナを包むように、燃焼室外側ケースと燃焼室内側ケースより構成される燃焼室ケーシングが設けられる。アニュラ型はケーシングとその内面に沿った形状のライナの占有空間が、共に厚みを持った円筒形となるため、カン型のようなケーシング外に無駄な空間が存在せず、空気流路も直線的となる。同じ空気流量では燃焼室全体の直径を小さく作れて、ライナ冷却のための空気量も少なくて済むため、燃焼効率の向上と有害排気の減少に寄与するが、整備性は良くない。
カンニュラ型
カンニュラ型 (Can-annular type combustion chamber) は、アニュラ型の内側にカン型が置かれた構造である。ケーシングはアニュラ型と同様であるが、ライナはカン型の構成になる。
リバースフロー型
アニュラ型の変形として、燃焼室をタービン部の外周に置いたリバースフロー型燃焼室 (Reverse flow type combustion chamber) という形式もある。リバースフロー型ではエンジンの最外周部まで導かれた空気が燃焼室の後部から前方へ向けて流され、前後逆向きのアニュラ型のライナ内で燃料と混合・点火される。火炎となった高温ガスは前方に向けて燃焼しながら、混合希釈領域では中心軸方向に回り込み、再び後方へと向きを変えられてタービンを回す。圧縮機からの空気が燃焼室の周囲を回りこむ間に余熱されるため、空気と燃焼ガスの方向転換に伴うエネルギー損失を補う。エンジンの小型化が最大の長所である。

初期のジェットエンジンではカン型が、1960年代にはカンニュラ型が採用されていたが、現在では一般的にアニュラ型が主流である。リバースフロー型は小型ターボプロップやターボシャフト・エンジンで多用されている。

性能

燃焼室の性能は「燃焼効率」と「圧力損失」「燃焼負荷率」「燃焼安定性」「出口温度分布」「高空再着火性能」「有害廃出物」で示される。

燃焼効率
供給された燃料は完全に燃焼することはなく、エンジン内で生じる熱量は理論的に発生可能な熱量より小さくなる。燃料が燃焼した割合が燃焼効率 (Combustion Efficiency) であり「実際に発生した熱量/供給燃料が理論的に発生可能な熱量」で表される。燃焼室に供給される圧力と温度が高くなるほど理論値に近くなり、実際には海面高度でほぼ100%であり、巡航高度では98%ほどになっている。
圧力損失
燃焼室の入口圧力と出口圧力の比を圧力損失 (Pressure Loss) と呼び、燃焼室での圧力損失は、燃焼室出口圧力の総圧/燃焼室入口圧力の総圧で表される。これは過流や摩擦によって生じるものであり、出来るだけ1に近い方が良いが概ね0.93-0.98であり、失われた圧力が2-7%であることを示す。
燃焼負荷率
同じ大きさの燃焼室であればより多くの熱量が生み出せる燃焼室のほうが高い性能であるため、燃焼室の単位当りの空間容積でどれほどの熱量が発生できるかを示す指標として燃焼負荷率がある。燃焼負荷率は燃焼による発熱量/燃焼室内筒容積で表される。アニュラ型が高い燃焼負荷率を持つ。燃焼負荷率の向上を求めて過度に狭い空間で燃焼させると、高熱に曝される耐熱材の耐久性が損なわれる。
燃焼安定性
空気と燃料の混合比である空燃比と空気流量との相関について考え時、大きな熱出力を発生させようと空気流量を増すと、燃焼を継続できる空燃比は狭い範囲に限られ、やがて空気流量が限界を超えると最適な空燃比であっても燃焼は継続できなくなり「フレームアウト」する。これらの特性が燃焼安定性である。燃焼安定性はフレームアウトを起こさない限界の空気流量と希薄限界、濃厚限界からなる。
出口温度分布
燃焼室の出口ではガスの温度分布が均一である方が、後のブレードなどに熱的負担が少なくて済むため、その均一性を出口温度分布として示す。
高空再着火性能
飛行中にフレームアウトを起こした場合は再着火を試みるが、あまりに高空では燃焼室内の圧力が足らずに燃料に点火できない。同様に機速が不足しても圧力が足らずに燃料に点火できないか、仮に点火できても燃焼がタービンや排気部分まで及んで焼損が生じる。逆に機速が早すぎると空気流量が大きすぎてやはり点火できない。高空再着火性能では、低空も含めた空中での再点火が可能な高度と速度の一定領域を性能として示す。
有害廃出物
環境保護の観点から、運転されるエンジンから排出される一酸化炭素や窒素酸化物といった有害廃出物の量は少ないほうが良く、燃焼室の性能の1つに数えられる。
材質

燃焼室はニッケル系の耐熱合金で作られる。特にライナは二次空気による冷却でもかなり高温になるため、セラミック・コーティングが施されている<ref group="出典" name = "タービン・エンジン">見森昭編 『タービン・エンジン』 社団法人日本航空技術協会、2008年3月1日第1版第1刷発行、ISBN 9784902151329</ref>。

タービン

[[ファイル:Turbine Stage GE J79.jpg|thumb|100px|J79の軸流式タービン部]] Template:Main タービン(turbine) は燃焼ガス流の通過・膨張によって回転し、そのエネルギーの一部を回転力として回収するための機構である。すなわちタービン部の役目は圧縮機やファンもしくは出力軸を回転させることであり、それらと直結されている。基本的に圧縮機と似た形状をしており、遠心式と軸流式がある。過酷な環境の中で動作させるために様々な工夫を必要とし、エンジンの他の部分に比べて入念な検査と頻繁な交換が行われる。

現在広く用いられているのは軸流式タービンであり、軸流式圧縮機と同様に回転するローターとエンジンケースに固定されて流れを整えるステーターにより構成され、両者の組み合わせが多段階に配置されている。ただし圧縮機より段数は少ない。

多くのジェットエンジンでは圧縮機が低圧部(前段)と高圧部(後段)の2つの部分に分けられており、加えてファンや出力軸を持つ場合もあるが、それぞれを駆動するためにタービン群も分割されている。高圧用圧縮機を駆動するためのタービンは大きな力を得られる燃焼室直後にあり、低圧用圧縮機もしくは出力軸を駆動するためのタービンはより排気口に近い側にある。エンジンシャフトを中空にすることでこれらのタービンは全て同軸で回転している。

タービンブレード

thumb|100px|タービンブレード。付け根にはクリスマスツリー状の凹凸構造が設けられている。

タービンは内径側と外径側で周速度が異なり、タービン・ブレードで燃焼ガスの膨張エネルギーを効率的に取り出すためにブレード形状にひねりが加えられ、先端側と根元側で角度が変えられている。このため先端部では反動タービンとして、根元部では衝動タービンとして機能する反動衝動タービン  (Reaction-impulse turbine) 型となっているのが一般的である。
タービン部入口温度が高ければ高いほど出口へ向かう過程での膨張比が大きくなり、エンジン効率は向上する。このためタービンブレードは高温に曝されながら同時に遠心力や振動に耐えうる能力が求められ、その材質や構造には特別な注力が払われている。
実際の膨張仕事と理想的な膨張仕事との比をタービン断熱効率またはタービン効率と呼ばれ、21世紀現在では90%以上に達している。
タービン・ブレードの材質にはニッケル合金やコバルト合金といった耐熱合金が用いられ、近年ではさらなる高温に耐えうるセラミック製や溶融した金属の凝固時に結晶化する方向を揃えた単結晶のブレードも使用されている。
特に燃焼室側に近いタービン入口部の最初の数段のブレードは高効率な冷却機構を備えている。多くの場合はブレード内部に空洞があり、そこへ圧縮機からバイパスされた圧縮空気がローター取り付け部より導入される。このバイパス空気によってブレード内部を対流冷却するコンベクション冷却は最も基本的な方式であり、さらに内部を冷却したバイパス空気をブレードの翼表面や後縁部の細孔から流出させて断熱層を作り外部からもブレードを冷却するフィルム冷却方式とするものもある。多くがコンベクション冷却とフィルム冷却を組合せた方式では、ブレード内に仕切りを作り流路を複雑にすると共に強度を保つようにしている。ブレードの穿孔にはレーザーなどを用いた高精度加工法が用いられる。ただしいずれも高度な加工技術を必要とし、消耗品であるブレードに適用するとコスト高となるため、費用対効果面での考慮が求められている。
ブレードの取り付け部には高温で生じる不均一な膨張によって熱応力がかかるため、クリスマスツリーやファーツリーと呼ばれるジグザクに入り組んだ噛み合わせ形状によって、熱応力を逃がす工夫がなされている。運転後にジェットエンジンが冷えるとクリスマスツリー部分の隙間が広がる仕組みになっている。
タービン・ノズル
タービン・ノズルはタービンの静翼であるノズル・ガイド・ベーンが多数環状に取り付けられている。動翼と同様に高温に曝されるために1段目や2段目までが空冷タービン翼構造になっているものが多い。
タービン・ケース
タービン部は熱による膨張と収縮によって各部の大きさと位置が変化し、特にブレードとケースの隙間はタービン効率に大きく影響する。タービン・ケースはエンジンの最大出力時にタービン・ブレードとの隙間が最小になるように設計されているが、巡航時等ではブレードに比べてケースの膨張が大きくなり、隙間が広がるため、アクティブ・クリアランス・コントロール・システムと呼ばれる、空気を吹き付けることでケースを冷却して適正な大きさにする仕組みが備わっている物が多い<ref name = "新航空工学講座8 ジェット・エンジン(構造編)』">松岡増二著 『新航空工学講座8 ジェット・エンジン(構造編)』 日本航空技術協会 ISBN 4-930858-48-8</ref>。

排気口

[[ファイル:F110-IHI-129 01.jpg|thumb|left|180px|F-2に搭載されているF110-IHI-12の可変ノズル]] 排気口または排気ノズル (exhaust nozzle) は排気ガスを整流し、吸気口とは逆に静圧を動圧に変えて気流速度を高める役割を担っている。亜音速機では、出口側でノズル径が小さくなるコンバージェントノズルが用いられる。超音速機では、亜音速飛行時にはコンバージェントノズルに、超音速飛行時にはコンバージェント・ダイバージェントノズル(ラバール・ノズル)になる可変ノズルが用いられ、いずれも原理は吸気口の場合の逆となる。高温の排気に晒されるため、材質と構造に高度な技術と設計が要求される。

新しい戦闘機の一部には推力偏向ノズルを備えたものも存在するが、それらはノズル方向を変えることで推力発生方向に自由度を持たせ、従来の機体では不可能であったような機動を実現させている。

アフターバーナー

Template:Main 一部のターボジェットやターボファンはアフターバーナー<ref>アフターバーナーとはもともとゼネラル・エレクトリックでの呼称で、特許商標としての競合を避けるためにロールス・ロイスではリヒートプラット・アンド・ホイットニーではオーギュメンターという名称が使用されている。</ref>と呼ばれる仕組みを持つものがある。アフターバーナーでは、これに適するように延伸されデフューザーを備えた円筒状ノズルの上流部に燃料噴射ノズル、または燃料スプレーバーを設けて燃料をタービンからの排気に噴霧し、再び燃焼させることで推力を増すものである<ref>レシプロ機関と異なりジェットエンジンでは、吸い込んだ空気の25%程しか酸素を利用していないため、排気中には75%ほどが残っている。</ref>。アフターバーナーは主に戦闘機に搭載され、離陸時や緊急時の加速性の改善に使用され、超音速飛行のために使用されることもある。特にターボファンエンジンは排気流の速度が低く抑えられるため、アフターバーナーを追加する事によって高速性を補償する<ref>デフューザーによってガスの流速を落とす。ノズル内にはフレームホルダーも備える。アフターバーナーを使用しない間は、ノズルは排気ダクトとして働く。</ref><ref group="出典" name = "タービン・エンジン"/>。

高温の排気に燃料を噴射するという仕組上、非常に燃料消費率が悪く、騒音や有害ガスの発生といったデメリットも大きい。超音速機であっても燃料の消費が大きいため、緊急時以外には超音速飛行は行わずに、亜音速/遷音速領域での加速性能の向上が主目的となっているものが多い。超音速巡航(スーパークルーズ)を実現するためには、アフターバーナーを使用せずに音速を突破できる事が求められる傾向がある。

逆推力装置

[[ファイル:Reverse.thrust.klm.fokker70.arp.jpg|thumb|200px|ハの字型の偏向ドアをノズル後方に備えるフォッカー 70]] [[ファイル:Easyjet thrust reversers arp.jpg|thumb|200px|ファン経由のバイパス流をナセル側面から前方に偏向させるドアを持つエアバスA319]] Template:Main ほとんど全ての旅客機用ジェットエンジンと軍用エンジンのいくつかは、主に着陸滑走距離の短縮化のために逆推力装置や逆噴射装置、スラストリバーサと呼ばれる機構を備える<ref>「逆噴射装置」とも呼ばれるが、エンジン内の圧縮機とタービンが逆回転して吸気口と排気口が入れ替わるわけではない。</ref>。これはエンジン排気、またはファンによるバイパス流をエンジン前方に偏向することで後方への推力を発生させ、着陸時の機体を減速させるために用いられる。

ターボジェットや低バイパス比のターボファンではノズルの後ろでハの字型ドアを展開し、高温排気そのものを斜め前方に偏向するクラムシェル・ドア型やターゲット型のタービン・リバーサが多い。一方、高バイパス比のターボファンではファンでバイパスした空気流のみを斜め前方に偏向するファン・リバーサが主体である。ファン・リバーサでは、エンジン・ナセルのファンケース側面にトランスレートカウル(リバーサドア)が取り付けられており、これと連動するブロッカドアが後部へ向かう空気の流れを遮断すると同時にトランスレートカウルが後方へスライドすることでファンケース側面に開口部が生まれ、ここからカスケードベーンによって偏向されたファンエアが斜め前方に噴出される。高バイパス比ターボファンエンジンでは、ファン・リバーサの前方推力がタービン・リバーサの20-30%程度であるため、ファン・リバーサだけでタービン・リバーサを持たないものが多い。

なお、旅客機が空港でエプロンから離れる際にスラストリバーサによって後進を行うことも不可能ではないが、騒音問題や設備への悪影響、および舞い上がった異物を吸引してしまう危険性が懸念されるため、後進にスラストリバーサーを使用することは日本では禁止されている。米国でもエンジンが胴体後方についている旅客機で認められているに過ぎない。そのため旅客機の後退はトーイング・トラクタという大型自動車と前輪などを金属棒で接続しプッシュバックすることで行われ、タキシングの方向にあわせて機首の方向を変えられる。また、着陸時の使用でもエンジン内への異物混入の原因となるので、積雪などの場合を除き約60ノット(100km/h程度)まで減速したら使用を停止し、その後は車輪ブレーキを用いて減速・停止する。

アクセサリー・ドライブ

エンジンの回転力を利用する補機の一群は、アクセサリー・ギア・ボックスという名前の単一ユニットでまとめられ、圧縮機かファンケースの下部や側面、又は上部といった位置に備えられている。多くの場合、以下の補機類が含まれる。

  • トランスファーギア・ボックス
  • 燃料ポンプ
  • 燃料コントロール装置
  • 主滑油ポンプ、排油ポンプ、滑油フィルタ
  • アルタネータ(発電機/電動スタータ)、またはCSD
  • 空気圧スタータ
  • 油圧ポンプ

エンジンによっては整備性などのために滑油ポンプ類をアクセサリー・ギア・ボックスには含まずに、別にギアで接続した形式のものもある。こういったエンジンとギアで接続された補機類を総称して「アクセサリー・ドライブ」と呼ぶ。

固定翼機のターボシャフトエンジンでは、エンジン停止時でも油圧による操縦性を維持しながらオートローテーションが行えるように、油圧ポンプはアクセサリー・ギア・ボックスには含まれずに、メインローター側のトランスミッションに接続されている<ref group="出典" name = "タービン・エンジン"/>。

ジェットエンジンの種類

ジェットエンジンは便宜的に以下のような種類に分けられる。

狭義のジェットエンジン(索引)
広義のジェットエンジン(索引)

以下、上記の項目を個別に説明する。

ターボジェットエンジン

Template:Main タービンの回転力により圧縮機を駆動して空気を圧縮し、その燃焼によって得られる排気流のみで推力を得る純粋なジェット推進式エンジン。ガスタービン型のジェットエンジンとしては最も基本的なもので、フランク・ホイットルやハンス・フォン・オハインが製作した初期のジェットエンジンもこのタイプであり、第二次世界大戦前後に研究・開発が飛躍的に進んで一気に普及した。ただし、排気流速がエンジン搭載機の速度より遥かに大きいために効率が悪く、後述するターボファンエンジンが完成するとそれに取って代わられていった。 ジェット流量が1軸式ガスタービンの回転数と一体となり出力調整が自由に出来ない。

採用例
1939年に初飛行したHe178への搭載に始まり、第二次世界大戦中にはアメリカ、イギリス、ドイツといった工業先進国で未熟ながらも実用化された。初期のものは耐久時間が短く、低推力・高燃費で安全性にも問題を抱えていたが、朝鮮戦争が始まる1950年頃には一応完成の域に達し、1952年にはイギリスで世界初のジェット旅客機コメット1の運用が開始された。その後も改良が続けられアフターバーナーの使用と共に戦闘機や一部旅客機(コンコルド<ref>Template:Harvnb</ref>、Tu-144)の超音速飛行を可能足らしめたが、騒音<ref name="sato2005p196">Template:Harvnb</ref>や排煙(初期のジェット旅客機は黒煙を排出していた)、燃費<ref name="sato2005p196" />の問題からターボプロップやターボファンが実用化されると順次交代していった。ベトナム戦争ではターボジェット戦闘機F-4MiG-21が活躍するものの、それ以降は戦闘機といえど低バイパス比のターボファンが一般化し、現在では純粋なターボジェットの需要はほとんどなくなっている。

ターボファンエンジン

thumb|250px|低バイパス比ターボファンの概略図。戦闘機に搭載されるものは上図のようにバイパス空気流を燃焼部と外周部の間に通し、ノズル部で合流させる。 thumb|250px|高バイパス比ターボファンの概略図。旅客機に採用されるのはこのタイプが多いが、実際は上図外側にナセルがあるためバイパス流が解放されるのはもっと後方である。 Template:Main

ターボジェットの吸気口近傍・圧縮機前方にファンを備えるエンジンで、ファンの外周部を通過する一部の流入空気は圧縮機以降に導かれずにコアエンジン外周部へバイパスされる。このファンはプロペラと類似の役割を担い、大部分の空気を飛行速度と同等の速さで排出することで効率の高い軸推力を得ている。ファン後流の一部はステータやファンダクトによってジェット推進力を得る。 ファンを駆動する軸は一番内側に存在するコアエンジンとは別の同軸エンジンとみなすことが出来る。一般的には2軸式ガスタービンエンジンの外側のタービン軸によってファンと低圧コンプレッサを駆動する。イギリスのロールスロイス社製の高バイパスターボファンエンジンは更に3軸目がファン駆動専用のフリータービンとなっている。基本原理はファン駆動用の別エンジンがコアエンジンと燃焼室と流体を共有しながら串刺しになっていて、コアエンジンの安定した持続運転とファン駆動力の出力調整を両立している。 ファンにはプロペラのようなピッチを変更する機構はなく、減速機を介さずに2軸又は3軸目のタービン回転がそのまま伝達されるためプロペラに比べて回転速度は大きい。ターボジェットに比べて総排気流速度が低く抑えられるため、亜音速の輸送機に利用されている。ただし、後述するバイパス空気量の小さいターボファンはターボジェットの性格に近くなり、超音速ジェット戦闘機のエンジンとして主流となっている。

ターボファンの特徴をまとめるとターボジェットに比べて以下のようなメリットがある。

  • 総合的な排気流速度は遅くなるものの、全体として流量が増えるため、結果的に推力が増大する。
  • 燃焼に使わない空気を低速で排出して推力に利用するため、推進効率が良くなり燃費が向上する 。
  • バイパス空気流が燃焼ガスを覆うため、騒音が抑えられる 。
  • 排気に含まれる酸素の割合が大きくなるので、アフターバーナー使用時の出力増大効果が高い(ただしこれは、アフターバーナー使用時の燃費の悪化がより著しい事をも意味する)。

ファンのみを通過し圧縮機に吸い込まれない空気量<math>F</math>を圧縮機に吸い込まれる空気量<math>C</math>で割った値<math>F/C</math>をバイパス比(By-Pass Ratio, BPR)と呼ぶ。例えばバイパス比5のエンジンならば、ファンだけを通過する空気量は圧縮機から燃焼室へと流れる空気量の5倍にあたる。この値は地上静止状態で定義される事が多く、実際には飛行マッハ数によって変化する。通常、バイパス比が高いほど燃費が良く、亜音速飛行に適した性能特性を持つ。

一般的に、バイパス比が1前後のものを低バイパス比、4以上のものを高バイパス比<ref name="sato2005p202" />と呼ぶ場合が多い。初期にはバイパス比が小さいものしか製造できなかったが、今日ではバイパス比9に迫るエンジンが稼動しており、ボーイング787のような新型旅客機向けにバイパス比10を越えるものの開発も行われている。一方、戦闘機用のものはバイパス比が小さく、その値が1を切るものもある。

プロップファン
ファンをプロペラ状にして極限まで効率の向上を追求したターボファンの一種にプロップファンアドバンスド・ターボプロップ(Advanced Turbo Prop, ATP)とも)がある。これは圧縮機の外周部(ナセル外側)に薄くて強い後退角を有する、径が小さめのプロペラ(可変ピッチ機構付き)を備えるもので、プロペラ端で発生する衝撃波を抑えつつ高速(マッハ0.8程度)と高効率を両立させようとしたものである。1980年代の原油価格の高騰に触発されて各所で研究開発が行われたが、プロペラの振動など解決すべき技術的課題のためにそのメリットがかすみ、通常のターボファンの性能向上(高バイパス比の実現)とともに開発は放棄されていった。数少ない実用例の一つにウクライナの輸送機An-70がある。
コア分離型超高バイパス比ターボファン
ターボファンの派生型として、現在JAXAで構想されているコア分離型超高バイパス比ターボファンエンジン<ref>未来型航空機技術の研究(JAXA 航空プログラムグループ)</ref>といわれるものがある。これはファンとガスタービン部分(コアエンジン)を分離し、ガスタービン側で圧縮した空気をファンへバイパスして駆動しようというアイデアである。これにより10を越える高バイパス比が実現し、ファンのコントロールやレイアウトの自由度を増すことで複数のリフトファンおよび推進ファンの設置とそれらのスイッチングを行い、今までにない大型VTOL機を製作することも可能だとされている。
採用例
現在のジェット旅客機の多くが高バイパス比ターボファンを採用しているが、低バイパス比ターボファンを搭載した旅客機も近年まで製造され続け、日本にも数十機単位で存在する(MD-81/87など)。超音速飛行を行う戦闘機の場合、バイパス比の低い、より高速に適したものが採用されている。特に著しいのはF-22が装備するF119であり、バイパス比は1よりも小さい。これはアフターバーナーなしでの超音速巡航を可能にするためだが、こうなるとほとんどターボジェットエンジンに近い。

ギヤードターボファンエンジン

Template:Main thumb|250px|right|ギヤードターボファンエンジン
1.大きなファン 2.遊星歯車
低圧圧縮機の回転を遊星歯車により減速して、大型ファンの回転数を最適化したターボファンエンジン。従来の減速ギヤーを備えないターボファンエンジンにおいては、小さな圧縮機のタービンと大きなファンを同じ回転軸で駆動しているために、回転数は同期したものとなる。そのため、バイパス比が拡大し、ファンの直径が大きくなるに従って、タービンの高回転数はファンの効率的な出力を生み出す回転数よりも高いものとなり、必ずしも適していない回転数によるファン効率の低下が現れるようになる。減速ギヤーを備えたギヤードターボファンエンジン(Geared turbo-fan engine, GTF)では、それぞれの回転軸を最適な比率で回転させ、ファンの回転数を抑えることで、大きなファンにより高バイパス化エンジンにおいても効率が最適化できる。

採用例
2008年現在、計画中のMRJ(三菱リージョナルジェット)で使用する予定である。

ターボプロップエンジン

thumb|250px|ターボプロップの概略図。高速のタービン回転はエンジン前部の減速機によって減速される。 Template:Main

ターボジェットやターボファンと同じくガスタービンを備えるが、その出力のほぼ全て(約90%)をプロペラの駆動に使うエンジン。タービンで得られる出力の一部は圧縮機の駆動に使われるが、残りは減速機を介してプロペラを回転させる。このプロペラによる推力が大部分を占める(ジェット排気による推力も10%程度あるとされる)。つまりジェット推進というよりは等速可変ピッチプロペラ用の動力源であり、特徴もそれに準じる。等速でよいということなので初期のターボプロップエンジンは1軸式のものもあったが、現在ではほとんど2軸式のターボファンに似た構成になっている。たとえ回転数が一定でも出力調整ができるからである。

ただしレシプロエンジン駆動のプロペラ機に比べると出力は格段に大きく(軸出力が10,000hpを超えるものもある)、高高度での飛行もレシプロエンジンよりは得意である。

ターボプロップには以下のような特徴がある。

  • 亜音速域ではターボファンエンジンよりも燃費に優れ、マッハ0.6程度までの速度域での飛行に適する。
  • ターボファンよりも推力が小さい。
  • ターボファンに比べ高速および高高度での飛行には適さない。
  • プロペラはファンに比べて低速回転であるため、ターボファンよりも高周波の騒音を出さない。

総じてプロペラは、直径が大きいほど効率が良い。ターボファンのファンを「半径が小さいプロペラ」とみなせば、断然ターボプロップのほうが効率が良い事を意味する。ただしプロペラは音速に近づいたあたりから効率が悪化し、直径の大きなプロペラは外周部分から音速に達する。よって高速域においては、ターボファンのほうがより効率が良い。

出力単位は軸馬力(shaft horse power, shp)で表すが、排気推力を併せた総計等価出力(effective horse power, ehp)で表す場合もある。

採用例

その特徴を活かして、利用者がさほど多くない中・近距離の路線向けの中・小型の旅客機に採用されている。2005年現在、日本ではサーブ340BDHC-8 Q300/Q400が就航している。また戦後唯一の日本製旅客機YS-11もこの方式のエンジンであった。

特徴的なターボプロップ機として、旧ソ連が開発したTu-95爆撃機が挙げられる。2重反転プロペラを採用して最高速度は900km/h台に達し、「世界最速のプロペラ機」として知られた。実はここまで高速だとターボファンのほうが効率は良いのだが、開発当時はまだターボファンは実用化されていなかったため、ターボプロップの性能を極限まで引き出す形になった(ちなみにライバルとして知られるアメリカのB-52爆撃機も同様にターボプロップを搭載しようとしていたが断念し、結局ターボジェットが採用された。ターボファンへの換装は後の事である)。

一方、ターボプロップを装備したC-130輸送機は世界中の軍で使用されている(民間型も存在)。これは燃費の良さからだけの選択ではなく、ターボファンよりも排気の温度 (EGT;Exhaust gas temperature) が格段に低いことを活かし、赤外線追尾式の地対空ミサイルから捕捉されにくくすることも意図されている。

ターボシャフトエンジン

250px|thumb|ターボシャフトの概略図。圧縮機駆動用タービンの外側に軸出力用のフリータービンを備える。上図ではエンジン後方にシャフトが延ばされているが、ターボプロップと同様に前方へシャフトを出す場合もある。 圧縮機駆動用のタービンと別に、出力専用のタービン(フリータービン)を備える純粋なガスタービンエンジン。フリータービンにより取り出された出力はシャフトと減速機を介して駆動力となる。ヘリコプター、プロペラ機、船舶、戦車といった乗り物やコジェネレーション用発電機の動力として利用されている。 回転翼を駆動する航空機用エンジンとして使われるときもジェット推進を使わないのでジェットエンジンとは呼ばない。(その昔、ベル社が206シリーズ時代に「ジェットヘリ」という商標を使ってセールスをしていたために「ジェットエンジン」だという誤解が広まったが、商標「ジェットヘリ」は単にベル社のヘリコプターの商標であって、そのエンジンは断じて「ジェットエンジン」ではない。また今ではベル社でさえ商標「ジェットヘリ」を使っていない。さらにベル社の商標を一般名称として使ってはならない。)

ターボプロップとほぼ同じ構造を持つが、フリータービンのため回転数と出力調整の幅が大きく取れる利点がある。(ターボプロップは等速プロペラを前提としている。)ターボシャフトエンジンは最も汎用的なガスタービンエンジンである。航空機以外の動力源では単にそう記載されることも多い。

採用例
主にヘリコプターのローターの動力として広く用いられているが、その理由は多発エンジンでもパワートレインを共有しているためにエンジンの単発停止時に他のエンジンを道連れにしないためである。フリータービンにしないと生き残ったエンジンが死んだエンジンのコンプレッサーまで駆動することになり、一緒にエンジンストールする可能性が高くなる。フリータービンを用いたターボシャフトエンジンは生き残った側の負担増にも粘り強く耐えられるし、停止した側も他者に過大な負担をかけない。パイロットは時間的な余裕があるので停止したエンジンを完全にパワートレインから分離する操作も容易に出来る。

近年ではティルトローターV-22など)にも採用され、アメリカ陸軍の戦車M1エイブラムス海上自衛隊の水中翼船1号型ミサイル艇も駆動力としてターボシャフトを用いている。

ラムジェットエンジン

thumb|250px|スパイク前端の超音速流はエンジン内部にいくにつれて亜音速流となり加圧される。燃焼後は排気ノズルから超音速の排気が行われる。 Template:Main 羽根車を用いないのでガスタービンエンジンではないがジェットエンジンの一つで、機械的な圧縮機を使用することなく、吸気口前面に生ずるラム(ram)圧により圧縮された空気に燃料を吹き付けて燃焼させ、推力を得る方式のエンジン<ref>Template:Harvnb</ref>。吸気口から突出した前後に可動するスパイクを有しており、そのスパイク先端で発生させた衝撃波面をエンジンナセルに接するように制御する。こうして生じた衝撃波面の後方では亜音速の空気流が生まれ、非常に高い動圧が静圧へと変換される(ほぼ等エントロピーでの圧縮が行われる)。

マッハ3から5程度の極超音速飛行に向く出力特性を持っているが、高速の空気流の衝突を前提としているため、機速が設計速度を下回ると著しく効率が悪化して充分な推力を発生することができない(もちろん静止時は動作しない)。そのために設計速度域へ到達させるための推進系が別途必要となる。この別の推進系としてはロケットやターボジェット(後述)が使用されている。

採用例
フランスルネ・レドゥク(René Leduc)は1930年代から独自のラムジェット推進機の構想を温め、世界初のラムジェット機レドゥク010を1949年に初飛行させた。その後ラムジェット戦闘機としての改良が続けられたが結局採用されることは無く、1958年に開発は終了した。
一方、アメリカでは1950年にYH32 ホーネットというラムジェット駆動のヘリコプターが試作されている。これはローター端にラムジェットを設置して回転させるというもので、ローター回転によるトルクが発生せずテールローターが不要というメリットがあったが、航続距離や隠密性の問題から実用性が低かったため導入には至らなかった。同様のヘリコプターは戦後に萱場製作所でも試作されている。
現在、ラムジェットは各種ミサイルの推進機関として応用されている。ラムジェットが動作するまでの加速用ブースター固体燃料ロケットを使用しており、固体ロケット統合型ラムジェットエンジン固体ロケット・ラムジェット統合推進システムなどと表記される。例を挙げると、アメリカのボマーク、イギリスのシーダート、フランスのASMP、旧ソ連では特に多用されており、2K11クルーグ2K12クブP-270モスキートP-800オーニクスKh-31などがある。P-800オーニクスやKh-31ではブースター用の固体燃料ロケットが燃え尽きた後に生じる空洞をラムジェット用の燃焼室として再利用する設計が特徴的である。

ターボ・ラムジェットエンジン

ラムジェットエンジンの内部にターボジェットと同等の機構を取り付け、ラムジェットが作動する高速に達するまではターボジェットとして機能する形式のエンジン。もしくはターボジェットの外周部にラムジェットの機能を付加する形式ともいえ、高バイパス比ターボジェット(high-bypass-ratio turbojet)とも呼ばれる。流入空気をターボジェットへ回すか、完全にバイパスしてラムジェットとして機能させるかを飛行速度に応じてバイパスフラップで制御する。

採用例
現在のところ、上記のコンセプトに基づいて製作された実用エンジンはSR-71とその原型機(A-12YF-12)に搭載されたプラット・アンド・ホイットニーJ58シリーズ<ref>[1]</ref>のみである。超音速飛行時にJ58はラムジェット的性格が強くなり、インレット部の空気吸入・圧縮で出力の8割を生み出す<ref>http://www.hill.af.mil/library/factsheets/factsheet.asp?id=5786 Pratt & Whitney J58 Turbojet</ref>。ただし、完全なラムジェットエンジンとなるわけではない。製造元のPratt & Whitney社はJ58をターボジェットと分類している。

なお、ターボ・ラムジェット機としてしばしばMiG-25が挙げられることがあるが、同機は3000km/hの高速飛行時に得られるラム圧を考慮して圧縮機の圧縮比を低く抑えてあるだけで、ラムジェットとしてのエンジン動作は行っていない。

スクラムジェットエンジン

thumb|250px|基本はラムジェットと同様であるが、超音速燃焼が行われる点が異なる。 Template:Main スーパーソニック・コンバスチョン・ラムジェット(supersonic combustion ramjet)を略してスクラムジェットと呼ぶ<ref>Template:Harvnb</ref>。基本的にはラムジェットと同じ発想のエンジンであるが、ラムジェットよりもより高速域で作動する事を前提とし、そのためエンジン内に吸入された空気流が、加圧された後もなお、超音速流が保たれる点が通常のラムジェットと異なる。空気流が高速であるため、燃焼が緩やかな場合は燃焼が終了しないうちにエンジン外に排出される事になる。そのためスクラムジェットエンジンの場合は速やかな燃焼を実現する必要がある。そのための燃料としては、現在は主に水素が用いられ、今のところ動作時間は数十秒が限度である(ただしそれでも大きな加速力を得ることができる)。極超音速での動作を目的としており、単段式宇宙往還機(SSTO)を実現するための要素技術の一つとされる。

採用例
近年、日本を含めた主要先進各国でスクラムジェット機の構想や開発が行われているが、2007年現在で確実な成果を収めているのはNASAの開発したX-43である。X-43はスクラムジェットが動作するまでペガサス・ロケットにより加速される仕組みであり、2004年11月16日にマッハ9.8(時速12,144 km、7,546 mph)というエアブリージングエンジン搭載機としての最高速度記録を打ち立てている。

パルスジェットエンジン

thumb|200px|right|吸気・燃焼・排気が間欠的に行われる。 Template:Main

空気取り入れ口に設けられたシャッターを高速で開閉することにより、燃焼過程と排気・吸気が交互かつ間欠的に行われる方式のエンジン。空気の圧縮には燃料の着火により生じる衝撃波の一種(爆轟波デトネーションパルスと呼ばれる)によって発生する高圧を利用する。構造がきわめて単純なために製造コストが安く済むが、シャッターの開閉と燃料噴射・点火のタイミング制御が開発当初は課題となった。間欠吸排気に由来する独特の排気音が特徴である。エンジン全体がU字型をした、シャッター(バルブ)の無いバルブレス・パルスジェットエンジンもある。どちらも振動や騒音が大きく燃費も悪いため、圧縮機を備えたガスタービン型のジェットエンジンの登場と共に開発されることはなくなった。

採用例
第二次世界大戦時のドイツで、V1飛行爆弾(現在で言う巡航ミサイル)という自律巡航爆弾の推進装置として採用・実用された。使い捨てというミサイルの性質と、構造が簡単で安価に作れるというこのエンジンの性質が相まって重宝された。しかし、V1以外での実用例は皆無に近い。

外部動力圧縮ジェットエンジン

thumb|250px|MiG-13のモータージェットの概略図。レシプロエンジン(黄色)はプロペラと圧縮機(緑色)の駆動のために用いられた。ちなみにコアンダ=1910やカプロニ・カンピーニ N.1などはプロペラは備えていない。 Template:Main ジェットエンジンの黎明期に存在した圧縮機を外部動力(通常はレシプロエンジン)で駆動する形式のエンジンで、タービンは持たない。モータージェットサーモジェット(セコンド・カンピニによる命名)と呼ばれた。ガスタービンエンジンの実現が困難であった時期に考案・試作されたが、燃焼ガスにより得られる推力はごく小さく、レシプロエンジン駆動のプロペラ推進に及ぶものではなかったために計画や実験の段階で開発が放棄されたものが多い。

採用例
最初の機体は1910年にアンリ・コアンダが製作したコアンダ=1910であるが、これはまともな飛行を行うことなく事故で失われた。その後、革新技術としてジェットエンジンが希求されるようになってから現れたのがイタリアで1940年に初飛行したカプロニ・カンピーニ N.1である。第二次世界大戦中にも各国でモータージェット機がいくつか計画されているが、一応実機が完成したのは日本の桜花22型ツ11搭載)と旧ソ連のMiG-13Su-5くらいであった。

特殊なジェットエンジン

広義にジェットエンジンに分類できるものを以下に示す。

原子力ジェットエンジン
吸入した圧縮空気を原子炉の炉心で直接加熱し噴射する方式。1950年代のアメリカにおいて、ジェット推進装置を搭載した実験機X-6の開発が試みられた。しかし遮蔽試験機NB-36Hによる予備的試験のみで計画は終了した。排気に多大な放射性物質が含まれる危険がある事、気体の熱交換効率は液体と比べて小さい事、放射線遮蔽のため搭載機体の重量が増大する事が問題とされた。
恒星間ラムジェット(バサード・ラムジェット)
恒星間宇宙船の動力として古くから考えられているアイデアで、基本はラムジェットである。星間ガスを巨大なラムスクープで集め、推進剤とする。

ジェットエンジンを応用した高揚力装置

Template:Main ジェット排気の方向を偏向したり、排気流もしくはバイパスした圧縮空気流を翼近傍に吹き付けてフラップの効果を高めるためのいくつかの装置が実用されている。それらは主に翼上面の気流を増速してその剥離を遅らせること(境界層制御)で高揚力を発生させる。代表的なものにジェットフラップ(排気方向を偏向する)、インターナリーブロウンフラップ(Internally Blown Flap, IBF)(圧縮空気を翼上面から吹き出す)、エクスターナリーブロウンフラップ(Externally Blown Flap, EBF)(排気流を翼下面から後縁フラップに吹き付ける)、アッパーサーフェスブローイング(Upper Surface Blowing, USB)(排気流を翼上面に沿って吹き付け、コアンダ効果を利用して後縁フラップ端まで気流の剥離を遅らせる)がある。

脚注

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出典

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参考文献

  • 飯野明監修、浅井敦司ほか著 『図解入門 よくわかる航空力学の基本』 秀和システム、2005年、164-212、285-289頁、ISBN 978-4-7980-1020-5
  • 家田仁編 『それは足からはじまった - モビリティの科学』 技報堂出版、2000年、23-36頁、ISBN 978-4-7655-1610-5
  • ビル・ガンストン著 『世界の航空エンジン (2) ガスタービン編』 見森昭訳、グランプリ出版、1996年、ISBN 978-4-87687-173-5
  • J.L.ケルブロック著 『ジェットエンジン概論 - ガスタービンからスクラムジェットまで』 梶昭次郎訳、東京大学出版会、1993年、ISBN 978-4-13-061152-7
  • Template:Citation

関連項目

Template:Commons

関連技術
関連装置
類似装置
マイルストーンとなった航空機など
  • ハインケル He178 - 世界で初めて飛行したドイツのターボジェット機
  • グロスター E.28/39 - フランク・ホイットルのジェットエンジンを搭載したイギリス初のターボジェット機
  • メッサーシュミット Me262 - ドイツのジェット戦闘機
  • V1飛行爆弾 - パルスジェットエンジンを搭載したドイツの自律飛行爆弾
  • レドゥク - 世界で初めて飛行したフランスのラムジェット機
  • SR-71, A-12, YF-12 - ターボ・ラムジェットを実用化した米国の超音速軍用機
  • X-43 - 加速用ロケットとスクラムジェットを搭載しマッハ9.8を記録したアメリカの無人実験機
関連人物

外部リンク

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