カニバリズム

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1557年ブラジルで行なわれたカニバリズム

カニバリズムTemplate:Lang-en-short)は、人間が人間のを食べる行動、あるいは宗教儀礼としてのそのような習慣をいう。食人人肉嗜食アントロポファジーTemplate:Lang-en-short)ともいう。

なお、カニバリズムに関する一次資料のほとんどすべては、他者についてのものであり、偏見や侮蔑に基づく物も多く、その信憑性は必ずしも高くはない。

また、生物学用語では種内捕食(いわゆる「共食い」)全般を指す。

目次

語源

スペイン語の「Canibal」が語源。「Canib-」はカリブ族のことを指しており、16世紀頃のスペイン人には、西インド諸島に住む彼らは人肉を食べると信じられていた。そのためこの言葉には「西洋キリスト教の倫理観から外れた食人の風習」=「食人嗜好」を示す意味合いが強い。

発音が似ているため、日本ではしばしば謝肉祭を表す「カーニバル(carnival)」と混同されるが、こちらは中世ラテン語の「carnelevarium(「肉」を表す「carn-」と、「取り去る」を意味する「levare」が合わさったもの)を語源に持つ。しかし、本来のラテン語でも混同、もしくは区分されておらず、ラテン語読解の際には注意を要する。

「食人」、「人食い」という意味の語としては、ギリシャ語由来の「anthropophagy(「人間」を意味する「anthropo」と、「食べる」を意味する「phagy」の合成語)」が忠実な語である。

分類

習慣としてのカニバリズムは、大きく以下の2種類に大別される。

  1. 社会的行為としてのカニバリズム
  2. 社会的行為ではない=単純に人肉を食うという意味合いでのカニバリズム

加えて粟屋剛は、臓器移植や流産胎児、胚の医療目的の人体利用について「ネオ・カニバリズム」を提唱している。

社会的行為としてのカニバリズム

特定の社会では、対象の肉を摂取することにより、自らに特別な効果または栄誉が得られると信じられている場合がある。しばしばその社会の宗教観、特にトーテミズムと密接に関係しており、食文化というよりも文化人類学民俗学に属する議題である。自分の仲間を食べる族内食人と、自分達の敵を食べる族外食人に大別される。

族内食人

この場合には、死者への愛着から魂を受け継ぐという儀式的意味合いがあると指摘される。すなわち、親族や知人たちが死者を食べることにより、魂や肉体を分割して受け継ぐことができるという考えである。すべての肉体を土葬火葬にしてしまうと、現世に何も残らなくなるわけである。

日本に残る「骨噛み」は、前者の意味合いを含む風習と考えられるし、欧州はじめ世界中に見られる、死者の血肉が強壮剤や媚薬になるとする迷信もその一環であろう。 人間のミイラには一種の漢方薬として不老不死の薬効があると信じられていて、主に粉末としたものを薬として飲用され、日本にも薬として輸出されていた。

人身供養と考えるか、葬制の一部と見るのかによって意味合いが変わってくるが、ニューギニア島の一部族に流行していたクールーと呼ばれる人のプリオン病は、族内食人が原因であったことが判っている。

族外食人

この場合には、復讐等憎悪の感情が込められると指摘される。 代表例は各国で見られる戦場における人肉食であるが、時として兵糧の補給という合理的見地からも行われた。

なお、タンパク質の供給源が不足している(していた)地域では、人肉食の風習を持つ傾向が高いという説がある。実際、人肉食が広い範囲で見られたニューギニア島は他の地域と比べなどの家畜の伝播が遅く、それを補うような大型野生動物も生息していなかった。

社会的行為ではないカニバリズム

  1. 緊急事態下での人肉食
  2. 特殊な心理状態での殺人に時折見られる人肉捕食等

上記1.は緊急避難の一環として古今東西しばしば見られる。近世の大規模な例としては1972年ウルグアイ空軍機571便遭難事故が挙げられ、遭難した乗客らは、死亡した乗客の死体の肉を食べることで、救助されるまでの72日間を生き延びた。このような事例は厳密にはカニバリズムには含まれないが、しかし常習化すればカニバリズムと捉えることができる。例として、1846年アメリカ合衆国での開拓者ドナー隊のトラッキー湖畔における遭難事故は、遭難の発覚までに既に隊の中で死亡者を食べるという緊急避難措置が行われていた。更に悪天候や当時の救助技術により完了するまでに長期間、数回に分けての救助となった。ところが、最後の被救出者は、先の救出作業の際に渡されていた牛の干し肉が有ったにも関わらず、共に残った婦人の肉を食べていたのである。これは緊急避難が人肉嗜食に転じた好例であり、上記1.2.の中間ないし両方を備えた状態といえる。彼はその婦人の殺害を疑われたが証拠不十分で放免された。

上記2.は1.のような緊急性がなく、かつ社会的な裏づけのない行為である。多くは猟奇殺人に伴う死体損壊として現れる(後述「性的なカニバリズム」も参照)。近年はロシアの若年層に頻発しており、2008年には、悪魔崇拝を標榜する少年少女8名が同年代の4名を惨殺してその肉を食する事件が、2009年には、メタルバンドを組むユーリ・モジノフら2青年がファンの少女を殺害してその肉や内臓を食する事件が起きている。いずれも犯行動機は要領を得ず、「悪魔から逃げたかった」「酩酊して腹が減っていた」等と不可解な供述に終始している。

文明社会では、直接殺人を犯さずとも死体損壊等の罪に問われる内容であり、それ以前に、倫理的な面からも容認されない行為タブーである食のタブーとされる。そしてタブーとされるがゆえに、それを扱った文学・芸術は多く見られる。

性的なカニバリズム

カニバリズムはしばしば性的な幻想をもって受け止められ、またそのようなフェティシズムを持つ者も多数存在するが、その幻想の達成は実現不可能だと認識している者が多く、現実に達成することはあまりない。しかし実際に性的なカニバリズムを行った極端な例も存在する。たとえば、連続殺人者であるアルバート・フィッシュエド・ゲインジェフリー・ダーマーフリッツ・ハールマンアンドレイ・チカチーロなど。性的なものをベースにしながら、より「食人」を重視したゲオルグ・カール・グロスマンニコライ・デュマガリエフは犠牲者も多数となった。

フィクションでは青頭巾スウィーニー・トッドハンニバル・レクターなどである。

また、別の例としてよく知られた事件ではパリ人肉事件がある。犯人の佐川一政は自著の中で、女生徒の肉を「まったり」と「おいしい」と記述し被害者に憎しみはなく憧れの対象であり、事件時の精神状態は性的幻想の中にあったと記述している。

また、別の事件としてアルミン・マイヴェスのケースがある。彼はカニバリズムを扱うニュースグループにて自分に食べてもらいたい男性を募集し、それに応じてきた男性を殺害し、遺体を食べている。

各地のカニバリズム

ラテンアメリカ

人肉食が盛んだと考えられがちなアステカ帝国だが、エルナン・コルテスによる征服後の記録によれば、宗教儀式に生け贄の心臓を使うことはあっても、その肉には関心が示されず、人の肉は捨てられ七面鳥の肉が儀式に使われたという。また別の記録によると、アステカの戦士は戦争で倒した敵戦士の遺骸から肉の細片を切り取って有力者達への贈り物とし、受け取った人々はこれを食べたという。ただこれは戦場での戦功を示し称える習慣であって、人肉そのものに価値があったわけではない。戦士達は肉の送付と引き替えに、宝石や飾り布、奴隷などを手に入れた。なお、当時メキシコ南部では、アステカ人は人肉食を行うものだと信じられており、それを絵に表したものも残っている。しかし、アステカ帝国の首都テノチティトランが深刻な飢餓に見舞われた際、人々はトカゲ昆虫、草や湖の泥まで口にしたが、遺骸には手をつけなかったと伝えられる。

また、ユカタン半島では人肉食の習慣があったという。ブラジルセルジッペ州コロンビアのポパヤンなどで同様の事例が記録されている(地域は異なるがマルキーズ諸島でも類似の事例があった記録がある)。

オセアニア

イースター島では1600年頃から1700年頃にかけて人口が約70%減少した。その要因として現地住民の人為的環境破壊(モアイ像作成のための森林伐採など)があげられるが、結果、野生動物の供給源が失われることになり、最終的に人肉を食すようになったといわれる。なお、当時のゴミの集積地跡からは人骨が発見されている。<ref>ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊(上巻)』草思社、2005年、p.173-4。</ref>

またネルソン・ロックフェラー(当時ニューヨーク州知事)の息子で人類学者のマイケル・ロックフェラーMichael Rockefeller)が1961年にニューギニアの奥地で原住民に殺され食べられた<ref>Was Michael Rockefeller eaten by cannibals?</ref>と報じられた。

ヨーロッパ

スペイン北部のアタプエルカ遺跡で発掘された「最初のヨーロッパ人」の遺骨から、この先史人類たちが人肉を食べており、しかも、とりわけ子どもの肉を好んでいたことが明らかになった。遺骨などの分析によると、食人は、儀式としてではなく食用で行われていた。当時、食料やは豊富にあり、イノシシウマシカの狩猟も可能であり、食料不足で食人が行われたのではなく、敵対する相手を殺し、その肉を食べたと言われている<ref> 最初の欧州人は「人食い」だった! スペイン・アタプエルカ遺跡 AFPBB News 2009年6月25日</ref>。

ヘロドトスは『歴史』の中で、アンドロパゴイという部族の食人の風習や、メディア王国の王アステュアゲスが将軍ハルパゴスにその息子を食べさせた逸話を紹介している。これらは伝説的ではあるが、ヨーロッパの視点からのアジア人(をはじめとする異民族)の「食人」に関する記述である。

のちに、ヨーロッパではキリスト教が広まった。キリスト教では人肉食は強い禁忌とされていたと現代のキリスト教関係者は主張するが、実際には戦争、飢饉、貧困、宗教的理由でカニバリズムは広く行われた。第1回十字軍において、十字軍の軍勢がシリアのマアッラを陥落させた際(マアッラ攻囲戦)に、人肉食が行われたという記録が残っている<ref>Amin Maalouf, The Crusades through Arab Eyes.Schocken, 1989, ISBN 0-8052-0898-4(『アラブが見た十字軍』 アミン・マアルーフ筑摩書房)</ref>。当時、十字軍の食料状況は非常にお粗末で、現地調達の略奪の一環として現地住民を殺戮し、その肉を食べたとされる。

また、1315年から1317年にかけての大飢饉の際、人肉食があったと言われるが、それがどの程度のものだったかについては議論が分かれている。また近世以降、船の難破による漂流中に人肉食が行われたという事例が時折記録されている。

15世紀のスコットランドにおいて、ソニー・ビーンとその家族は山岳を通過する旅行者達を食べて暮らしていたという記録があるが、その記録は19世紀以降のものであり信憑性は低い。

肉を食べた訳ではないが、1805年トラファルガー海戦で戦死したイギリス海軍ホレーショ・ネルソン提督の遺体は、腐敗を防ぐためラム酒の樽に漬けて本国に運ばれたが、偉大なネルソンにあやかろうとした水兵たちが盗み飲みしてしまったため、帰国の際には樽は空っぽになっていたという。この逸話からラム酒は「ネルソンの血」と呼ばれることがある。

「性的なカニバリズム 」の項のフリッツ・ハールマン、ゲオルグ・カール・グロスマンなどの犯行は行われていたのは第一次大戦敗戦後の後遺症下にあったドイツである。極度のインフレに襲われていたドイツでは慢性的な肉不足となっており、その中で行われた二人の犯行は性的なものがメインでありながら、若干の経済的目的の側面も持ち合わていせた。その経済的目的に特化したカール・デンケは人肉を市場に流通させるための商品開発における過程で犯行が明るみに出て逮捕されている。三人の犯行は戦後の浮浪者に溢れていた当時のドイツにおいて、いずれも数十人単位の犠牲者が出るまで発覚しなかった。

その後ドイツでは第二次世界大戦中に強制収容所 (ナチス)内で収容者が人肉を食することがあったことがヴィクトール・フランクル著『夜と霧』に記されている。

日本

日本の食人風習については、田中香涯「我国に於ける食人の風習」、南方熊楠「日本の記録に見る食人の形跡」などの論考に詳しい。日本には綏靖天皇が七人の人を喰ったという故事(『神道集』)をはじめとして、伝説酒呑童子説話中の源頼光一行や、安達原の鬼婆の家に立ち寄った旅人等、説話にカニバリズムが散見される。「遠野物語拾遺」第二九六話と第二九九話には、遠野町で5月5日に薄(すすきもち)を、7月7日に筋太の素麺を食べる習慣の由来として、死んだ愛妻の肉と筋を食べた男の話が記録されている。また、中国のカニバリズムにある割股の話は、日本にも類話が見える(『明良綱範』)。『信長公記』によると、戦国時代鳥取城が兵糧攻めに遭い、城の兵たちは草木や牛馬を食べ尽くした末、痩せ衰えた人間を銃殺して食い争ったとある<ref name="nakae">中江克己 『日本史 怖くて不思議な出来事』 PHP研究所〈PHP文庫〉、1998年、218-221頁、ISBN 4-569-57177-8。</ref>。江戸の獄門で処刑された死体で日本刀の試し切りを職とした山田浅右衛門が死体から採取した肝臓を軒先に吊るして乾燥し、薬として販売したとされる(これは人胆丸といい、当時は正式な薬剤だった)。随筆『新著聞集』では、元禄年間に増上寺の僧が葬儀にあたって死者の剃髪をした際、誤って頭皮をわずかに削り、過ちを隠すためにそれを自分の口に含んだところ、非常に美味に感じられ、以来、頻繁に墓地に出かけては墓を掘り起こして死肉を貪り食ったという話がある<ref name="nakae" />。戊辰戦争の折には幕府側総指揮官松平正質が敵兵の頬肉をあぶって酒のさかなにしたといい、また薩摩藩の兵が死体から肝臓を取り胆煮を食したという<ref>牧原憲夫『文明国をめざして』(小学館、2008)56-57頁</ref>。

確実な記録には江戸四大飢饉の時に人肉を食べたというものがある。また天明の大飢饉の際には1784年(天明四年)弘前で人食いがあったと橘南渓が『東遊記』で述べている<ref>牧原憲夫,前掲書</ref>。 明治以降は、1870(明治03)年04月15日付けで、明治政府が人肝、霊天蓋(脳髄)、陰茎などの密売を厳禁する弁官布告を行っている(『人喰いの民俗学』)。しかし闇売買は依然続いたらしく、度々事件として立件、報道されている(東京日々新聞等)。作家の長谷川時雨は明治中期の話として「肺病には死人の水ー火葬した人の、骨壺の底にたまった水を飲ませるといいんだが…これは脳みその焼いたのだよ」と、「霊薬」の包みを見せられて真っ青になった体験を記している<ref>長谷川時雨『旧聞日本橋』前掲牧原憲夫『文明国をめざして』同頁</ref>。

また、太平洋戦争中に起こった人肉食事件(通称ひかりごけ事件)は日本中を揺るがす大問題に発展した。 太平洋戦線の島嶼等(インパール・ニューギニア・フィリピン・ガダルカナル等)でも、補給の途絶に伴って大規模な飢餓が発生し、しばしば死者の肉を食べる事態が発生した。1944年12月にニューギニア戦線の日本軍第十八軍は「友軍兵の屍肉を食す事を罰する」と布告し、これに反して餓死者を食べた4名が銃殺されたという。奥崎謙三は映画『ゆきゆきて、神軍』で、上官が部下を処刑して糧食にしたと主張している。また、ミンダナオでは1946年から1947年にかけて残留日本兵が現地人を捕食したとの証言があり、マニラ公文書館に記録されている<ref>辺見庸『もの食う人々』共同通信社</ref>。

なお連合軍兵士に対する人肉食もあったとされるが、多くが飢餓による緊急避難を考慮され、戦犯として裁かれることはなかった。ただし、殺害した米軍捕虜の肉を酒宴に供した小笠原事件(父島事件)は、関係者がBC級戦犯として処刑されている。罪状は捕虜殺害と死体損壊であった<ref>GHQ法務局調査課報告書(INVESTIGATION DIVISION REPORT,LEGAL SECTION,GHQ/SCAP)137号 388号 392号 2704号</ref>。

変わった事例としては九州大学生体解剖事件が挙げられる。撃墜したB-29の乗員を手術の実験台にしたもので、この際に被害者の肝臓を食したという嫌疑が軍人五名にかけられた。GHQの審理の結果、捏造が認定され五名全員が釈放された<ref>上坂冬子『生体解剖 九州大学医学部事件』中央公論社</ref>。

なお、葬儀の場面でお骨を食べる社会文化的儀礼としてのカニバリズムは、全国に広く残っている。俳優の勝新太郎は父の死に際して、その遺骨を「愛情」ゆえに食したと、本人が証言している。昭和40年代まで全国各地で、万病に効くという都市伝説を信じて、土葬された遺体を掘り起こして肝臓などを摘出して黒焼きにして高価で販売したり、病人に食べさせたりして逮捕されていたことが新聞で報道されている(「明治大正昭和 事件犯罪大辞典」「新聞集成 明治編年史」)。いわゆる「闇の社会」では骨かみの特殊な習俗が継承されているとの推測もある <ref>新谷尚紀『日本人の葬儀』紀伊国屋書店、1992年、44頁。</ref>。また、殺害した遺体の手首をラーメンのだしに使った、という事件も発生している。

中国

中国でも、過去には飢饉や孝行、薬用、戦争、儀礼などでカニバリズムが行われたとされ、文献にも記されている。それぞれの意図については前項「社会的行為としてのカニバリズム 」も参照のこと。 古くは『韓非子』に「為肉圃、設炮烙、登糟丘、臨酒池、翼侯炙(あぶり肉)、鬼侯臘(干し肉)、梅伯醢(塩漬け肉)<ref>なおこの「醢(かい)」なる言葉は塩漬け全般を指す語でもある。ゆえに、獣肉の料理を指すこともあれば、見せしめのために塩で防腐した遺体を指すこともあり、必ずしも人肉食を指さないことに注意。子路彭越が醢にされた逸話は、いずれも人肉食と無関係である。</ref>」という記述が見られる。

史記』にも、飢饉や戦争により食料がなくなると、自分の子を食うに忍びなく、他人の子供と交換したのち絞め殺して食べたという記述が残っている。 三国時代にも人肉食が見られ、『魏志程昱伝』には、略奪した糧食に人肉が含まれていたために程昱が出世を逃したという記述がみられる。これらの記述は、当時人肉食がタブー視されていたことも示している(『演義』については後述)。

しかし代以降は人肉食へのハードルが下がったという議論があり、例として引かれるのは『資治通鑑』の人肉の市場価格が二十年で数十分の一に暴落した記録である。 また自らの肉を病気の夫などに食べさせることが美談として称賛され、代の『事林廣記』には、その行いに政府が絹や羊や田を与えて報いたという記述がある。

の時代の李時珍による『本草綱目』52巻人部には、人肉をはじめ人間由来の漢方薬が記されている。特に宮廷を中心として、女人の血から作った薬(仙丹)が強壮剤としてもてはやされた。不妊で悩む世宗の代には、宮女に投薬してまで出血を強要したため、多くが衰弱死したという<ref>卜鍵『嘉靖皇帝伝』団結出版社、林乾『嘉靖皇帝大传/正说明朝十二帝系列』中国社会出版社</ref>。 民間では、同時代の『南村輟耕録』に、戦場での人肉食の実例と調理法が多岐に渡って紹介されている<ref>『歴代史料筆記叢刊 南村輟耕録』中華書局</ref>。この食事方式を採用した隊では戦果が食事に直結するため、大いに士気が高揚したという。

の時代にも依然として人肉食が残っていた。宮廷でもしばしば人肉食が行われ、高官が赤ん坊の肉を好んで調理させた逸話が伝わる<ref>王志娟『清朝野史大観』江蘇广陵古籍</ref>。著名人では、西太后が病の東太后の歓心を買うため肘肉を羹に供したという(左の肘に包帯を巻いた上での自己申告であり、真偽は不明<ref>同上、 加藤徹『西太后』中公新書</ref>)。 また、古来より凌遅刑(千刀万剐)という全身を切り刻む処刑方法が存在したが、刑場近辺で死刑囚の肉片が食用ないし薬用に供されていた記録があり、廃止された1905年には北京で撮影が行われている<ref>Turandot : Chinese Torture / Supplice chinois</ref>。なお著名人が同処刑後に食された事例では、明朝の劉瑾袁崇煥のものが挙げられる。ただし劉は酷吏、袁は名将であり、食の意図は異なるものと思われる(差異は前項参照)。

小説にも人肉食に関する記述は多い。中国四大奇書のひとつである『西遊記』には妖仙ばかりか猪八戒も人肉を食らおうとする記述があり、『水滸伝』に至っては全編にわたって山賊(百八星含む)による人肉食が描かれる。『三国志演義』には「劉備曹操に追われてある家に匿われた時に、その家の主人が劉備に献上する食料がなく妻を殺害し、その妻の肉を劉備に献上しそれに感動した劉備はその後その家の主人を高官にした。」との記述があり、吉川英治も自訳の該当箇所で中国の食人文化について触れている。ただし、こういった小説(いずれも宋代以降)の記述を人肉食の証左とできるかは疑問が残る。

近代では、文化大革命時にも粛清という名目で人肉食が広西等で白昼堂々と行われていたという報告<ref>後年の鄭義らによる調査とその報告。鄭義ほか著 黄文雄訳『食人宴席 抹殺された中国現代史』、1993年、光文社ISBN 978-4334005436立花隆は、『ぼくはこんな本を読んできた』(1995年、ISBN 978-4163510804)の中で本書を紹介している。</ref>がある。

なお現在の中国では食人はタブーとされており、違法である。堕胎された胎児などを食べる文化が現存するとの指摘<ref>『別冊宝島1542 ヤバい中国人』の中での、『月刊中国』編集長へのインタビューなど</ref>もあるが、トリック写真やパフォーマンスの一部だと判明した事例も多い。香港マカオでもしばしば食人事件が噂され、盛んに作品に翻案された。香港映画八仙飯店之人肉饅頭』<ref>性描写や惨殺シーンが多くそのため海外では劇場上映が禁止されている。</ref>はその一例である(実際の八仙飯店殺人事件では、被害者十名の胴体が発見できなかったに留まり、人肉食は立証されていない)。 また2008年には香港でもこの映画を思わせる事件が発生した。少女を殺害し、遺体を切り刻み肉と内臓をミンチ機で細切りにしトイレに破棄し、手足の骨は肉屋の店頭に並べたという<ref>16歳美少女をバラバラ殺人、遺体を肉屋で販売―香港 レコードチャイナ</ref>。

朝鮮

朝鮮半島でも食人文化は見られ、「断指」「割股」という形で統一新羅時代から李氏朝鮮時代まで続いている。孝行という形以外で直接的に人肉を薬にすることに付いては比較的遅くに見られ、李氏朝鮮の中宗21年の数年前(1520年代)から広まっており、宣祖9年6月(1575年)には生きた人間を殺し生肝を取り出して売りさばいた罪で多数捕縛されたことが『朝鮮王朝実録』に記載されている。また、韓国独立運動家の金九は自身のももの肉を切り、病気の父に食べさせている。この民俗医療の風習は、元々梅毒の治療のために行われたと推察できるが、後にこれらの病に留まらず不治の病全般に行われる様になり、植民地時代昭和初期に至っても朝鮮・日本の新聞の記事の中にも長患いの夫に自分の子供を殺して生肝を食べさせる事件やハンセン病を治すために子供を山に連れて行き殺し、生肝を抜くという行為が散見される。ただしこの時代の朝鮮人社会でも、すでにこのような"薬"としての人肉食は前近代的で非科学的な奇習と考えられているようになっており、一般的ではなくなっていた。当時の植民地朝鮮で施行された日本法でも禁止されている。

家畜のカニバリズム

肉食の習慣や、いわゆる「共食い」とは違うが、の「かじり」や「かじり」・の「突き」等、群れで飼育する家畜家禽同士で、傷ついたり弱ったりした個体を(口を使って)集団で攻撃し、結果として死に至らせる行動も畜産学動物行動学上では「カニバリズム」と呼ばれている。これらの行動は環境探索本能の転嫁と密飼いによるストレスが原因と言われており、遊具等の投入による欲求不満の解消や飼育密度の低減によってある程度の抑制が可能である。また近年では畜産物残渣の再利用という名目で肉骨粉等を飼料に混ぜることもあり、家畜が家畜を認識しない内に人為的カニバリズムをさせられる形となり、BSE(狂牛病)という感染症を発生させる結果となった。

自然界でのカニバリズム

Template:See also

cannibalismを動物が同種の他個体を食べる共食い種内捕食:intraspecies predation)の訳語としてとる場合、共食いはアリシロアリ等の社会性昆虫では頻繁に見られ、食料欠乏の場合には、幼虫成虫さなぎを捕食する(飢餓状態に置かれれば、チョウの幼虫などの草食動物も共食いをする)。繁殖のためではなく、幼生栄養を補給する目的で無精卵栄養卵 Trophic Egg と呼ばれる)を産む行動は、カエル、ハキリアリAtta sexdens)、クモなどに見られる。無脊椎動物魚類など、成体と幼生(あるいは大きさの著しく異なる雄と雌)が同じ地域(同じ生物群集内)に生息する雑食動物肉食動物の間では、食物ピラミッドの中では小さな個体が大きな個体の下に位置するため、カニバリズムが頻繁に起こりうる。そのような場合、カニバリズムが個体群数の周期的変動につながる例も多い。

カニバリズムは無脊椎動物魚類両生類だけではなく鳥類哺乳類等の高等動物にも見られる行動であり、チンパンジーの子殺しに伴う共食い等のように霊長類も例外ではない。自然状態での家畜とは異なるストレス以外のカニバリズムの理由としては、えさとしての価値に重点がある場合と同種個体を殺すことに重点がある場合、その両方を兼ねる場合があるが、チンパンジーの例ではその意義が未だよく解明されていない。

カニバリズムを主題とした作品の一例

倫理や人種差別などの問題により、現在では該当部分が単行本やDVDなどで修正が施されたり未収録になっているものもある。 Template:ネタバレ

童話・民話

映画

小説

ノンフィクション

漫画

散文

絵画

Template:ネタバレ終了

脚注

Template:Reflist

参考文献

  • 『ヒトはなぜヒトを食べたか―生態人類学から見た文化の起源』 マーヴィン ハリス (Marvin Harris)、鈴木洋一 訳 ハヤカワ文庫 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 早川書房 ISBN 4150502102
  • 『図説 食人全書』マルタン モネスティエ (Martin Monestier)、大塚宏子 訳 原書房 ISBN 4562033991
  • 『人喰いの民俗学』礫川全次 編 批評社 ISBN 4826502249
  • 『猟奇文学館 3 人肉嗜食』七北数人 編 ちくま文庫 ISBN 448003613X

関連項目

外部リンク

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