アーミッシュ

出典: Wikipedio


thumb|right|アーミッシュと現代的な交通手段の対比 アーミッシュ(Amish)とはアメリカ合衆国ペンシルベニア州オハイオ州インディアナ州などに居住するドイツ系アメリカ人で、原郷はスイスアルザスシュワーベンなど。人口は20万人以上いるとされている。

カナダオンタリオ州セント・ジェイコブス周辺にも住居している。

目次

発祥

アーミッシュとメノナイトは、ルーテル派(ルター派)とツヴィングリ派の新教再組織から分かれて、スイスのチューリッヒで生まれた一派で、のちに、ドイツに移住した。キリスト教と共同体に忠実である厳格な規則のある派で、創始者のメノ・シモンズ(Menno Simons)の名前をとってメノナイトといわれ、メノナイトの一員ヤコブ・アマン(Jacob Amman)は教会の純粋さを保つために、ほかのグループから離れて暮らすいっそう保守的な派を作った<ref>『人類は「宗教」に勝てるか』 161頁。</ref>。彼の名前から、この派の人たちのことをアーミッシュという。ライフスタイルは少し違うが、メノナイトもアーミッシュも基本的信条は同じで、ひとくくりにアーミッシュと呼ばれている。

生活

アーミッシュは移民当時の生活様式を守るため、電気を使用せず、現代の一般的な通信機器(電話など)も家庭内にはない。原則として、現代の技術による機器を生活に導入することを拒み、近代以前と同様の生活様式を基本に農耕牧畜を行い自給自足の生活を営んでいる<ref name="jinrui">『人類は「宗教」に勝てるか』 162頁。</ref>。自分たちの信仰生活に反すると判断した新しい技術・製品・考え方は拒否するのである。一部では観光客向け商品の販売などが行われている。

基本的に大家族主義であり、ひとつのコミュニティは深く互助的な関係で結ばれている。新しい家を建てるときには、親戚・隣近所が集まって取り組む。服装はきわめて質素。子供は多少色のあるものを着るが、成人は決められた色のものしか着ない。洗濯物をみれば、その家の住人がアーミッシュかどうか分かる。

[[ファイル:DSCN4624 holmescountyamishbuggy e.jpg|thumb|オハイオ州にて、馬車に乗るアーミッシュの夫婦(2004年9月)]] アーミッシュの日常生活ではきわめて古い時代の技術しか使わない。そのため、自動車は運転しない。商用電源は使用せず、わずかに、風車水車によって蓄電池に充電した電気を利用する程度である。移動手段は馬車によっているものの<ref name="jinrui"/>、ウィンカーをつけることが法規上義務付けられているため、充電した蓄電池を利用しているとされる<ref>『アーミッシュの人びと』 112頁。</ref>。しかし、メノナイトは自動車運転免許を持つことが許されており、家電製品も使用している。

アーミッシュは現代文明を完全に否定しているわけではなく、自らのアイデンティティを喪失しないかどうか慎重に検討したうえで、必要なものだけを導入しているのである<ref>『アーミッシュの人びと』 199-201頁。</ref>。

アーミッシュがあまり生活について語らないため、謎に包まれている部分もある。写真撮影は宗教上の理由から拒否されることが多い。ただし、これらの宗教上の制限は成人になるまでは猶予される。アーミッシュの子供は16歳になると、一度親元を離れて俗世で暮らす。その間はアーミッシュの掟から完全に解放される。子供達は、その間にタバコドラッグなどを含む多くの快楽を経験するといわれる。そして、成人になる際に、アーミッシュであり続けるか、俗世で暮らすかを選択する。ほとんどのアーミッシュの新成人はそのままアーミッシュであり続けることを選択するといわれる。この模様は『Devil's Playground』というドキュメンタリー映画の中で語られている。Template:要出典範囲

信仰

政治的には、「神が正しい人物を大統領に選ぶ」との信条から、積極的に有権者として関わることはなかった。しかし、2004年アメリカ合衆国大統領選挙では、激戦州となったペンシルベニア州オハイオ州のアーミッシュに、共和党が宗教的紐帯を根拠とし支持を広げたという。

thumb|240px|アーミッシュの女性

彼らは専用の教会をその集落に持たず、普通の家に持ち回りで集い、神に祈る<ref name="jinrui2">『人類は「宗教」に勝てるか』 164頁。</ref>。これは教会が宗教を核とした権威の場となることを嫌って純粋な宗教儀式のみに徹するためである。学校教育はすべてコミュニティ内だけで行われ、教育期間は8年間である。1972年に連邦最高裁において、独自学校と教育をすることが許可された。教師はそのコミュニティで育った未婚女性が担当する。教育期間が8年間だけなのは、それ以上の教育を受けると知識が先行し、謙虚さを失い、神への感謝を失うからだとされる<ref name="jinrui"/>。教育内容は、ペンシルベニアドイツ語と英語と算数のみである。

言語

アーミッシュの言語は、初期新高ドイツ語アレマン語スイス語高地ドイツ語など)という古いドイツ語の一派とするペンシルベニアドイツ語を基本とする。 しかし、ヨーロッパにいる今日のドイツ人が、仮に、ペンシルベニア・ドイツ語で会話するのはきわめて困難かつ理解できるものではないとされる。つまり、ペンシルベニアドイツ語、シュワーベン方言、スイス語(ドイツ語圏)で話されていたドイツ古語が変形した言語ともいわれる。

彼らにとって英語は「外の世界」とのコミュニケーションのための言語である。

芸術

アーミッシュキルトが有名で、着古した服の端切れを集めて作られ、言いようのない深い渋みをたたえているといわれる。宗教学者の町田宗鳳は円形を並列させた構図が密教の「金剛界曼荼羅」にそっくりなことに驚かされたという<ref name="jinrui2"/>。

アーミッシュの人形も古切れを縫い合わせた丁寧な作りである。顔に目・鼻・口などが描かれることはないが、アーミッシュの少女は人形を我が身の分身のように大切にするという<ref name="jinrui2"/>。

音楽は楽器を所有したり演奏したりすることが禁じられている。理由は、個人を引き立て、虚栄心を煽る可能性があるからである<ref>『アーミッシュの人びと』 177頁。</ref>。歌は斉唱である。これも個人を引き立たせることを禁じているからである<ref>『アーミッシュの人びと』 130頁。</ref>。1曲歌い終わるのに15分くらいかかるものが多い。アーミッシュは「速い」よりも「遅い」ことに価値を見出しているからである<ref>『アーミッシュの人びと』 176頁。</ref>。

規律

アーミッシュには「オルドゥヌンク(Ordunung)」という戒律があり、原則として快楽を感じることは全て禁止される。以下のような規則を1つでも破った場合、アーミッシュを追放され、家族から絶縁される。

  • 屋根付きの馬車 は大人にならないと使えない。子供、青年には許されていない。
  • 交通手段は馬車(バギー)を用いる。これは、アーミッシュの唯一の交通手段である<ref name="jinrui"/>。自動車の行き交う道をこれで走るために交通事故が多い。
  • アーミッシュの家庭においては、家族のいずれかがアーミッシュから離脱した場合、たとえ親兄弟の仲でも絶縁され互いの交流が疎遠になる。
  • 怒ってはいけない。
  • 喧嘩をしてはいけない。
  • 読書をしてはいけない(聖書と、聖書を学ぶための参考書のみ許可される)。
  • 賛美歌以外の音楽は聴いてはいけない。
  • 避雷針を立ててはいけない(雷は神の怒りであり、それを避けることは神への反抗と見なされる)。
  • 義務教育以上の高等教育を受けてはいけない(大学への進学など)。
  • 化粧をしてはいけない。
  • 派手な服を着てはいけない。
  • 保険に加入してはいけない(予定説に反するから)。
  • 離婚してはいけない。
  • 男は口ひげを生やしてはいけない(口ひげは男性の魅力の象徴とされる歴史があったから)。ただし、顎ひげや頬ひげは許される。

2006年10月、ランカスター郡の小学校に「神を憎む」という男性が闖入し、児童や教員を銃で殺傷する事件が発生したが、13歳のアーミッシュの少女が自分より小さな子供に銃口が向けられた際、身代わりとなって射殺され、その妹も銃撃された。その後、彼女らの祖父は犯人に恨みを抱いていないことを表明し、犯人の家族を葬儀に招いたという。町田宗鳳はアーミッシュの伝統を重んじる信仰生活が決して形式的なものではなかったと評している<ref>『人類は「宗教」に勝てるか』 165-167頁。</ref>。

その他

その独特の生活様式は1985年のアメリカ映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』で取り上げられた。

ハリソン・フォード演じる刑事の主人公が、偶然、殺人事件を目撃したアーミッシュの子供を守るため、アーミッシュの家庭に身を寄せるうちに、その母親と恋に落ちるという物語である。日本ではこの映画で初めてアーミッシュの文化を知る人が多い。

しかし、必ずしもアーミッシュの人々の中ではこの映画は好意的に受け止められていないようであり、実際は共同体外部の異性と恋愛をすることは現在でも皆無とされる。

また、アーミッシュが多く居住するランカスターはスリーマイル島から南東に40kmほどに位置しており、スリーマイル島原子力発電所事故(結果的には健康被害はなかったとされる事故)のような技術災害が、技術自体を好む好まずに関係なく、社会全体に影響することの代表例として知られている。

アーミッシュを題材とする作品

映画

ドラマ

漫画

書籍

  • 『ペンシルバニア・ダッチ・カントリー〜アーミッシュの贈り物』 ジョセフ・リー・ダンクル 著、 主婦の友社、1995年
  • 『アーミッシュの赦し―なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか』 ドナルド B.クレイビル著、亜紀書房、2008年
  • 『アーミッシュの謎―宗教・社会・生活』 ドナルド B.クレイビル著、 論創社 、1996年
  • 『アーミッシュに生まれてよかった』ミルドレッド・ジョーダン 著、評論社、1992年
  • 『Crossing Over: One Woman's Escape from Amish Life』Ruth Irene Garrett、Rick Farrant著、HarperOne、2003年

音楽

脚注

<references />

関連項目

参考文献

als:Amische ar:أميش bg:Амиши ca:Amish cs:Amišové da:Amish de:Amische en:Amish eo:Amiŝismo es:Amish et:Amišid fa:آمیش fi:Amishit fr:Amish he:אמיש hu:Amisok id:Amish it:Amish ko:아미시파 lt:Amišai nds:Amisch nl:Amish no:Amish pdc:Amisch pl:Amisze pt:Amish ru:Амиши simple:Amish sk:Amiši sl:Amiši sr:Амиши sv:Amish tr:Amiş uk:Аміші yi:אמיש zh:阿米什人 zh-min-nan:Amisch

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